ストーリーには人に影響を与える強い力があります。
事実が箇条書きで並べ立てられてあっても全く頭に入ってきませんが、ストーリーになっていると頭にスッと入ってきます。覚えていられる時間も長くなります。
ここではストーリーがいかに強いかという事例と、使う側のメリット、ストーリーを目にする側のデメリットについて解説しています。
ストーリーとは何か?
ここでのストーリーとは小説のような長いものに限らず、次の3つの要素は入っているものを指します。
- 変化前(before)
- 変化後 (after)
- 感情
ストーリーの力
ストーリーの力を示す簡単な例を紹介します。
変化前 + 変化前後
まずは、ただの事実と、時系列で変化前と変化後がわかる情報を比較してみます。
一般的に時系列が加わって、流れが分かるようになった方が人は覚えやすくなります。
感情を加える
ここに感情を加えるとインパクトが急激に増加します。
「悲しみに打ちひしがれて」という感情を一言を加えただけで、印象や記憶への残りやすさが大きく変わります。
情報が多い=覚えにくいではない
多くの人が「情報量が多すぎるより、少ない方が覚えやすい」と考えていますが、それは事実ではありません。
情報量の少ない事実だけよりも、少し長めのストーリーの方が覚えやすくなります。
上の例がいい証拠です。「悲しみに打ちひしがれて」という余計な情報が入った方が記憶に残りやすくなります。
歴史的なストーリー
ストーリーは人にとってとても強力です。どのくらい強力かというと「ストーリーを作り出し共有する力があったからこそ人類が地球上の頂点に君臨し生き残ることができた」といわれるほどです。
人が顔見知りで維持できるコミュニティーの人数の上限は150人程度と言われていますが、作り上げたストーリーを共有することで無制限に多くの人と世代を超えてつながることができます。
例えば、ユダヤ教、キリスト教の経典は2000年以上前からあるストーリーですが、未だに続いています。そして、これまでの歴史上で多くの人たちをつなげ合わせたり、支配したり、殺し合いさせるという恐ろしいまでの力を発揮しています。
感情に上手に訴えかけるストーリーの力は私たちにとって見過ごせるものではないことを歴史が証明しています。
ストーリーのメリット
人の行動を変える
ストーリーのメリットは「人の行動を変えたる力がある」ということです。
例えば庭に1本の腐りかけの大きな木があるとします。倒れてきたら危ないので早めに切った方が安全だと強く考えています。
ですが近所に住む人が「この木は何百年も前からこの地にあって、どんな災害からも私たちを守ってくれた。過去にこの木を切ろうとした人がいたが皆それを試みてから不慮の事故で亡くなった。」
という話を聞けば、木を切るのをためらいます。
このようにたった2行程度のストーリーで人が「急いでやらなきゃ!」と思っていた行動を簡単に止めることができます。
コマーシャル
短いストーリーを使って本能に訴えかける手法はコマーシャルで頻繁に使われています。
ちょっとスタイルのいい普通の人が出てきて、「私は昔はとても太っていて引っ込み思案で自分が嫌いでした。でもこの商品に出会って変わりました。今では人前に出るのが楽しくて、生まれ変わったみたいです。もっと早くにこの商品にであっておけばよかった」
という「変化前」+「変化後」+「感情」を交えたストーリーを語ると、「太っていて引っ込み思案で自分が嫌い」な人が「私も変わりたい」と思い、その商品に手を伸ばすようになります。
ストーリーの危険性
強力な力を持つストーリーですが、その強力さゆえに大きな危険性が2つあります。
- ウソを本当だと信じ込む。
- 本質が見えなくなる。
ウソを本当だと信じ込む
1つ目の危険性は「ストーリーはウソでも成り立つ」ということです。
例えば次のようなストーリーの場合、
「この木は何百年も前からこの地にあって、どんな災害からも私たちを守ってくれた。過去にこの木を切ろうとした人がいたが皆それを試みてから不慮の事故で亡くなった。」
この話を聞いただけでは、これが事実かどうかは全くわかりません。その人自身何百年も生きていません。その人がウソをついているかもしれませんし、過去の歴史で誰かがウソをつき始めたのかもしれません。
亡くなった人がいるといいますが、本当に亡くなったのかも不明です。仮に亡くなったとしても、それは飲酒運転やよそ見など他のことに原因がある可能性の方が高いです。
他にも「夫が亡くなってから、妻が悲しみに打ちひしがれて亡くなった。」というストーリーはインパクトが強くて記憶に残りますが、妻が本当に悲しみに打ちひしがれてかどうかはわかりません。
誰かがロマンチックに仕立て上げたのかもしれません。外向きにはそのような顔をしていたかもしれませんが内心は一人の時間を楽しんでいたかもしれません。
マンガの嘘
マンガは現実世界とは異なるウソだらけです。ですがウソだとわからずに現実だと思い込んでいる人は少なくありません。
人は多くの人が「正しい」と言うと、自分も「正しい」と思い込む性質があります。このため、そのウソを信じている人がたくさん集まれば、それは正しいと思い込むようになります。
ですが、たとえ何百人が「正しい」と言ってもウソは真実にはなりません。
ナチスドイツのヒトラー配下で何百万人というドイツ人が「ユダヤ人こそ我々の敵だ、不幸の原因だ」が「正しい」と思い込み、600万人にものぼるユダヤ人を虐殺しましたが、それは決して真実にはなりません。
本質が見えなくなる
ストーリーは本質から目を逸らさせる力があります。正常な判断をできなくさせるということです。
例えば、「橋が崩落して車が1台川の底に沈んだ事故」があったとします。
この問題点の本質は「橋の構造」です。ですが、ニュースは橋の構造ではなく車の方に注目します。その方が人の本能に訴えることができ、より多くの人に読んでもらえるからです。
「昨夜、橋が崩落し車が1台巻き込まれました。車に乗っていたのは東京にお住いの22歳の女性 Aさんです。Aさん子供の頃から学校の先生になるのが夢で、周囲の人にも『私は先生に希望を与えてもらったから、私も希望を与える先生になりたい』と語っていました。ようやく念願の教員の職についたばかりでのこの事故に周りの人は悲しみに暮れています。」
この記事を読んだ人は「かわいそう」「切ない」という感情に包まれ、記事を読んでよかったと思います。
橋がなぜ壊れ、この事故が他の橋でおこる可能性はないか?再発防止策は何をするのか?ということに考えが及ぶのは、この橋を作ることに関わった業者ぐらいのものです。
悪いのは読む人
本質よりもストーリーに注目したり、事実を脚色してストーリーを作るのは、一概にストーリーを作った人たちが悪いとはいえません。
なぜならその人たちは私たちが求めているものを、その要求に答えるように努力して作っているからです。
「橋の4本目の支柱の下から50㎝のところに地震によりボルトのひび割れがあった」という詳細な事実のニュースを出したところでほとんど読まれません。
それよりも「22歳 夢見る美しい女性の非望の死」というストーリー性のあるヘッドラインにすると多くの人が読みます。
ストーリーの方が人の性質上、興味をそそられて面白そうと思うからです。これは私たちが人である以上仕方のないことです。
無理やりストーリーを作っている
ストーリーを作っているのはニュースや小説を書いている人だけではありません。
私たちも知らず知らずのうちにストーリーを作っています。
本来、私たちに起こっていることは全て点です。例えば、ある日突然、意中の人に告白されたとします。すると、あなたはこう考えます「日頃の行いや態度を見てくれていたのか?成績が上がったのがよかったのか?ファッションがおしゃれだったか?」など告白された理由を考え、最もらしいものを結び付けて納得しようとします。
ですが、相手は友達との罰ゲームで負けてそうしなければいけなかっただけかもしれません。
ストーリーは最初にあるわけではありません。
ある出来事が生じてから、それに納得できる説明がつくように過去の出来事を都合よくつなぎ合わせて作られます。
歴史も同じです。現在地点から過去を振り返った時に最もそれらしい理由がつなげ合され意味を持ったストーリーになっています。
真実や本質はもっともらしいストーリーの陰に隠れて見えなくなります。
解決策は個別に分解すること
真実や本質を見極めたいと思う人はストーリーに騙されてはいけません。
事実を捻じ曲げる強烈なストーリーのワナから抜け出すには、ストーリーを要素に分解していくことです。
人に影響を及ぼす「感情」の部分を排除することです。つなぎ合わさっている「変化前」と「変化後」を分離することです。そこには実はつながりはないかもしれないからです。
そして自分自身に「真実は何か?」「本質は何か?」と問いかけることで、真実や本質に一歩近づくことができます。
参考
この記事の内容はスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。
人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。
この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。
あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。