【お金のことを口にしてはいけない理由】市場規範と社会規範の違いを分かりやすく解説

お金
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私たちにとってお金は大切です。何かするなら報酬が欲しいと思うのは当然のことです。

それは、同時に何かをしてもらったら報酬を払うべきということでもあります。ですが、時にお金を払わない時の方が上手くいき、むしろお金を払ったことで悪くなることがあります

ここではお金を払った場合とそうでない場合で人の行動がどう変わるのか?についてまとめています。

また、市場規範と社会規範の違いについてもわかりやすく解説しています。


お金を払う場合と払わない場合、どちらが真剣になるか?

アメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーはお金を払った場合と、お金を払わなかった場合で人の行動にどんな違いがでるかを実験しました。

実験の内容はいたって簡単です。PC画面中央に円が表示され、それを右上の四角の中にドラッグすると消えて1点が加算されます。これを5分間続けて何点稼げるかというゲームです。

依頼の仕方によって、この単純な作業の結果がどう変わるかを検証しました。依頼の仕方は次の3つです。

依頼パターン
  1. 50円
  2. 500円
  3. 「力を貸してほしい」と頼む(お金は払わない)

実験の結果、報酬が高い方が人は頑張りますが、報酬よりも「力を貸してほしい」と依頼した方がみな一生懸命に取り組んでくれました

▼実験結果

依頼パターン結果
50円101
500円159
「力を貸してほしい」と頼む168


安いお金では動かないが、協力を依頼すれば動く

この実験と類似した結果は実社会でもしばしば目にすることができます。

アメリカの退職者を支援する団体は、1時間当たり3000円(弁護士としては安い時給)で「困窮している退職者の相談に乗ってほしい」と頼んだところ弁護士たちは断りました

その後、今度はお金のことを話題にださずに「困窮している退職者の相談に乗ってほしい」と頼んだところ多くの弁護士が依頼を引き受けてくれました

point

お金を払った場合は断るが、0円だと動いてくれる場合がある。


市場規範と社会規範とは?

このような実験結果になったのは、私たちヒトの中に市場規範と社会規範という2つの基準が存在するからです。

「市場規範とはお金が絡んだ基準」のことで、「社会規範とはお金の絡まない感情的な基準」のことです。

1時間あたり3000円払うと言われた弁護士は自分の時給と比較して、時給3000円では割に合わないと考えました。

一方、お金が絡まず「〇〇してほしい」と頼まれた場合は「人助け」という尺で、いかに自分が社会や誰かに対して奉仕できるかという基準で考えています。

英語では市場規範が market norms、社会規範をsocial normsといいます。norms(ノームス)とは通常想定される一般的なやり方という意味で、マーケットでの人の思考パターンと、お金のからまない社会での人の思考パターンといったニュアンスです。


市場規範と社会規範の違い(特徴)

市場規範と社会規範のどちらが適用されるかで人の特性自体も変わることがわかっています。

市場規範が適用された人の特徴は次のようなものです。

市場規範が適用された人の特徴
  • 利己的(自分の利益だけを優先する)
  • 独りよがり
  • 協調性がない
  • 困っている人を助けない


一方、社会規範が適用された人の特徴は次のようなものです。

社会規範が適用された人の特徴
  • 利他的(他人を助けようとする)
  • 協調性がある
  • 協力的
  • 困っている人を助けようとする


「お金が絡むと人が変わる」という言葉がありますが、それは脳がお金を意識した瞬間に社会規範から市場規範へと切り替わるためです。

そうすると「人を助ける」という思考から「自分がいかに儲けるか」へと変わります。


市場規範と社会規範は両立できない

市場規範と社会規範の最大のポイントは「どちらか一方しか成り立たない」ということです。

1時間3000円で退職者の相談に乗ることを依頼された弁護士は「1時間3000円のボランティア」と考えることができました。ですが、そうは考えなったということです。

報酬にお金が持ち込まれると、人はお金軸でしか物事を考えられなくなります

仮に、あなたのパートナーや彼氏・彼女の実家に行ったときに料理をふるまってもらって「今日はありがとうございました。この美味しい料理に対して1万円支払います」と申し出ると、「そんなのはいらない。そんなつもりではない」と言います。

これは、料理をふるまうという行為が社会規範に基いているためです。

逆に1万円を喜んで受け取ったとしたらその人は料理をふるまうことに市場規範を適用したことになります。そして今後もそれなりの金銭をもらえるものだと想定するようになります。


プレゼントはお金とは別物

もう一つの注目すべき点は、報酬の代わりにプレゼントを渡した場合はお金軸で考える市場規範ではなく、感情を基準にした社会規範が適用されるということです。

プレゼントがいくらしたか?というプレゼント自体の価値は関係ありません

ダン・アリエリーは先ほどの円をドラッグする実験で報酬を次のように買えたパターンで検証を行いました。

依頼パターン
  1. チョコバー(50円相当)
  2. ゴディバのチョコレート(500円相当)
  3. 「力を貸してほしい」と頼む(報酬無し)

実験の結果、プレゼントの場合はその価格に関わらず、どのパターンも同じだけ一生懸命協力してくれました

▼実験結果

依頼パターン結果
チョコバー162
ゴディバのチョコレート169
「力を貸してほしい」と頼む168
point

ちょっとしたプレゼントも高価なプレゼントもどちらもお金とは考えられない。社会規範が適用される。



金額を伝えると効果はなくなる

プレゼントは50円相当でも500円相当でも、なにも渡さずに協力を依頼した場合でも被験者は一生懸命作業してくれました。

しかし、50円相当のチョコバーを報酬としたときにその金額が「50円」であることを告げると、被験者はやる気をなくして50円を貰ったときと同程度しか作業をしてくれませんでした。

頭の中で「50円ぽっちか」という金額換算がされ市場規範が適用されてしまったためです。

このことは私たちに重要なことを教えてくれます。

例えば、好きな人とデートしているときや、家族に対して「私はあなたのために〇〇円払っている」とお金のことを少しでも持ち込むと、それまで感情的に抱いていた好意が、自分の好意が言われた金額に相当するか比較する市場規範へと変わります。

もちろん、気持ちや好意はお金には代えられないので、嫌悪感へと変わり関係性が悪化します。

point

相手との関係性を深めたいなら、お金のことは一切口にするべきではない。


参考

この記事の内容はアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」の内容の一部抜粋と要約です。

人が犯しがちな判断ミスを行動経済学という観点から紐解いたものです。ユーモアを交えた文体でとても読みやすく新たな発見がたくさん詰め込まれています。

この本を読んだことがあるかどうかで今後の人生の行動が変わってしまうほどのパワーを持ちます。

気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。


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