私たちが普段スーパーで当たり前のように使っているショッピングカートですが、昔からずっと当たり前のようにあったわけではありません。
1937年にアメリカでスーパーマーケットを経営していたシルヴァン・ゴールドマンが発明したのがきっかけです。
ですが、当初は誰にも見向きもされず、奇妙なものとして扱われていました。
それが今ではほぼ全てのスーパーで取り入れられ、発明したシルヴァン・ゴールドマンは4億ドル(400億円)もの資産を築き上げました。
ここでは、シルヴァン・ゴールドマンがどのようにしてショッピングカートを世の中に広めたのかについてまとめています。
初期のショッピングカート
シルヴァン・ゴールドマンは自分のスーパーに買い物に来る買い物客を観察していて、お客さんが買い物をやめるときは手に持った買い物カゴが重たくなりすぎたときだと気付きました。
そこで、より多くの商品を買ってもらうために、木製の折りたたみいすにカゴをとりつけたものをお店に設置しました。
シルヴァン・ゴールドマンはショッピングカートに改良を加え、「折り畳み式カゴ付き台車(Folding Basket Carriage)」として特許を出願しました。
しかし、多くの人にとって初めて見るショッピングカートはあまりにも奇妙で誰も使おうとしませんでした。
使い方を説明するが効果なし
シルヴァン・ゴールドマンはより多くの人にこの発明品を使ってもらうために、来店した人たちにショッピングカートの使い方を説明しました。また看板を立ててどのように使うかを誰もがわかるようにしました。
しかし、それでも人々はショッピングカートを使おうとはしませんでした。
男性はショッピングカートは「女々しい」と考え、女性は「乳母車のようで子育てを思い出させるので嫌だ」と言いました。
サクラを使う
シルヴァン・ゴールドマンは悩んだ末、何人かの買い物客をお金で雇い、ショッピングカートを押して店内をぐるぐる回るように依頼しました。
今でいうサクラを雇ったということです。
その結果、他の買い物客たちもショッピングカートを押している人たちを真似して、ショッピングカートを使うようになりました。
そして、そのショッピングカートを押している人たちを見た人たちが、更にショッピングカートを使うようになり、ショッピングカートは瞬く間に広まっていきました。
結果として、シルヴァン・ゴールドマンは4億ドルもの資産を築き上げました。
社会的証明の原理
シルヴァン・ゴールドマンのとった戦略はサクラを使うというものですが、それがいかに私たち人間の心理を捉え強力なものかということがわかります。
サクラを使う方法は心理学で「社会的証明の原理」と呼ばれています。
社会的証明の原理とは、私たちヒトの「他の人たちが何を考えているかを基準にして物事を判断する」という性質のことです。
例えば、あなたが街に買い物に出かけたときに、多くの人が空を見上げているのが目に入ったとします。すると、あなたは何も考えず自動的に周りの人たちと同じように空を見上げます。これも社会的原理の証明の一つです。
社会的証明の原理は特に次の2つの条件下において最も強い力を発揮します。
シルヴァン・ゴールドマンがショッピングカートを発明したとき、人々は一体それが何で本当にいいものなのか「不確か」な状態にありました。
その結果、周りを見渡して誰も使っていなかったので「使う必要はない」と判断しました。
ところがサクラを雇った結果、自分と同じショッピングをしている人たち(類似した人たち)が使っているということで「使った方がいいのではないか」と感じ、自然と使うようになりました。
サクラをあなどってはいけない
サクラは嫌われたりバカにされたりする手法ではありますが、その力は決してあなどれないものです。
私たちヒトの性質というのは狩猟採集時代から備わっています。というのも、産業革命後の時代はたったの200年程度しかないのに対して、狩猟採集時代は20万年も続いています。
その中で生き残るためには、誰かが逃げているのを目撃したら、何も考えずに一緒に逃げるという行動です。
考えて立ち止まったり、逃げ遅れたモノたちは死んでいき、子孫を残すことができませんでした。
私たちは、誰かがやっていることを何も考えずに真似することで生き延びてきたヒトの子孫です。
だからこそ、社会的証明の原理やサクラは私たちにとってあまりにも強力に作用するのです。
そして、そういった力をあなどっている人ほど、サクラやサクラが書いた口コミなどの情報に踊らされやすいので注意が必要です。
参考
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。