【アメとムチの使い方と効果】味方だと思わせると、人は好意を抱き難しい依頼を引き受ける

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「アメとムチ」という言葉を聞いたことがある人はたくさんいると思います。親や学校の先生、部活の先輩、会社の上司など、厳しくしつけ怒鳴り散らす人がいる一方で、「まあまあ」と言ってなだめて優しくする人がいる。

なぜこのような手法があるかというと、「アメとムチ」には人を自ら動くように仕向ける力があるためです。

その力は想像以上に強烈で、人を支配したり、胸の奥にしまい込み言わないと決めたことを言わせたり、商品を買おうか迷っている人に商品を買う気にさせるといった効果があります。

ここでは「アメとムチ」がどのように使われているかの例をまとめています。


警察が使う「アメとムチ」

「アメとムチ」が効果的に使われている場所は警察の取り調べです。ひと昔前は、逮捕した人に対して暴力や拷問といった形で自白するように仕向けていましたが、警察のやり方に対して疑問が入りそれらの暴力的な方法が禁止された後に、新たな対策として用いられるようになりました。

警察が使う「アメとムチ」は、怖い性格の警官と優しい性格の警官をペアにして行われます。ときには2人のペアで持ち回り形式で、怖い警官と優しい警官を交代して演じることもあります。

取り調べ質で容疑を認めない容疑者に対して、怖い刑事が悪態をつき、椅子や机を蹴り飛ばすなど暴力的な態度を見せます。

「お前を絶対に刑務所にぶち込んでやるからな」と言い、容疑者をゴミを見るような目で見ます。少しでも容疑者が何かを言い換えそうとすれば、激怒した様子で「お前を刑務所に送る事なんか簡単だ」言い返します。

ムチ役の人が容疑者に恐怖心を植え付けている間、アメ役の人は静かに後ろで座っています。

ムチ役の人がある程度怒り散らしたところで、アメ役の人が「まあまあそんなに怒るな。落ち着けよ。」といってムチ役の人を抑えようとします。

ムチ役は「落ち着いてなんかいられるか、こいつは面と向かって嘘ばかりついてやがる。俺はこういうやつが一番ムカつくんだ」と言います。

アメ役は「まあまあ、そうはいってもまだこいつが本当に犯人だとわかったわけじゃないんだから」と言って容疑者をかばうフリをします。

容疑者はムチ役の怒りと対比することで、アメ役の人が自分の肩を持ってくれていることを強く意識し始めます

ムチ役は「いや、俺はそうは思わないね。もう有力な証拠は出ているんだ。俺がこいつを監獄の奥底にぶち込んでやる」と言ってすごみます。

容疑者がアメ役をかばっていると感じさせたところで、アメ役は容疑者に直接話しかけ、明るい話題を提供します「あなたはラッキーだよ。この事件で人が死んだわけじゃないし、武器をつかったわけでもない。裁判でもその点はしっかりと見てくれるだろう」

ムチ役はもうひと怒りします「ふざけるな、こいつがやったってことはもうわかってるんだ、そんな甘いことは許されない!」

ムチ役がある程度怒り狂った後で、アメ役が「まあまあ」と制止し、ムチ役に「いったんこの辺にしよう。この小銭で3人分のコーヒーを買ってきてくれ」と言って小銭を手渡します。

そして、ムチ役がいなくなったところで容疑者に直接話しかけます。

「なあ、あいつは理由はわからないが、お前のことを憎んでいるようだ。あいつはどうしてもお前を刑務所にぶち込みたいらしい。あいつが言っていることも間違いではない。ある程度の証拠は揃っているし、裁判官は非協力的なヤツには容赦しないっていうのも本当だ。おそらく刑期は10年といったところだろう。

だが、もし今お前が犯行を認めてくれるなら、俺がお前の担当になって裁判官に口添えしてやるよ。俺とお前が力を合わせれば、10年の刑期を5年、いや3年にできるかもしれない。

なあ、これはお前にとっても悪い話じゃないはずだ。どうやったかだけ教えてくれないか?一緒に苦境を乗り越えよう」

そして、この言葉のあと、容疑者は自ら自分のやったことを語り始めます


コントラストの原理

警察が怖い刑事と優しい刑事をペアにして活用することで犯人に自ら罪を吐かせるなど、なぜ「アメとムチ」にはこれほどまでに強力な力があるかというと、それは私たちヒトの心理的性質である「コントラストの原理」を活用しているからです。

コントラストの原理とは「人は何かと比較することでしか物事を評価できない」ということです。

もしこの世にアメ役の刑事だけがいたとしたら、その人の優しさは伝わりません。逆にムチ役の刑事しかいなければその怖さは伝わりません。

ところが、アメ役とムチ役を用意することで比較対象ができて、ムチが厳しければ厳しいほどアメが甘く感じるようになります


返報性の法則

更に上記の例のアメ役の刑事は、容疑者にコーヒーを奢るようにしています。

これは人が持つ強力な性質の一つである「与えられたものに対して、返す義務を感じる」という返報性の法則を利用しています

コーヒーを奢ってもらう素振りを見せられたことで容疑者の心には「自分も何かお返しをしなければいけない」という義務感が発生します。

なお、返報性の法則のすごいところは、相手に好感を持っていなくても自然発生するということです。


味方だと思わせる

「アメとムチ」の最終的な目的は「味方だと思わせる」ことです。

なぜなら、人は味方だと思った人に好意を抱いて、その人の依頼を受けやすくなるためです。

見ず知らずの人や嫌いな人に何かをお願いされれば、ちょっとしたことであっても断る人は少なくありません。

一方、自分の味方だと思っている人や好意を抱いている人から「これ手伝ってくれないかな?」となかなかに大変なお願いをされても「いいですよ」と言って受け入れる傾向があります。

警察の例のように「アメとムチ」を使い分けて、コントラストの原理によってアメを際立たせることで、「この人は味方だ」と思わせることができます

味方だと思わせることは、時にその人の命を投げ出してまで約束を守ろうとする行為につながることもあります。

point

相手に味方だと思わせれば、難しい依頼にも応じさせることができる。


マーケティングへの活用

「味方だと思わせる」ことは商談を成立するといった難しい要求に応じさせるために非常に強力な力を発揮するためマーケティングでも用いられます。

例えば、セールスマンに対して値下げをお願いしたときに、そのセールスマンが会社に電話したり、上司のいるオフィスにいって、お客さんのために値下げ交渉をするといったものです。

酷いところではそのプロセスが営業の中に組み込まれています。

訪問販売のセールスマンであれば「わかりました。少しでもご期待にお応えできるよう、会社に電話して値下げ交渉してみるので、少々お時間下さいい」と言って、お客さんの目の前で会社に電話をします。

そして、一生懸命、ときには「何とかお願いします!」と激しいやり取りを繰り広げます。

するとそれを見ているお客さんは「この人は私たちのために真剣に頑張ってくれている」と感じ味方だという意識を持つようになります

結果として、値下げが成功した場合はもちろん、値下げに失敗したとしても「これだけ頑張ってくれたんだから」ということで商談が成立する確率が上がります

この手法のポイントは「電話先に相手がいなくても成り立つ」ということです。

ある自動車販売会社では値下げを要求したお客さんに対して、「ちょっと上司にかけあってきます」と言ってオフィスに入っていき、自分の席に座ってタバコを吸い、ジュースを飲んで、仮眠を取り、20分したところで、ネクタイを緩め、髪をかきあげ、疲れたような表情でお客さんのところに戻り、もともと決めてあった値段を「この額まで値下げを勝ち取ってきました」と報告する手法すらあるほどです。

point

一生懸命親身になり(フリをし)、味方だと思わせることができれば商品が売れる。


騙されないために

もちろん本当に親身になって一生懸命やってくれるセールスマンも少なくありません。

騙されないために大切なことは、最終的に提示された価格があなたが納得しるるものなのかどうかということです。

それを判断するための有効な手段は「ゼロベース思考」です。もしこの人が値切り交渉を上司としなかったとしても自分はそれを買うか?と自分自身に問いかけてみることです。

手間ではありますが、味方をしてもらえば好感が生まれることを人である限りしょうがないので、それはそれとして、好意を取り除いた状態で商品を評価することが騙されず、適切な買い物をするために大切です。

point

相手が好意がもてるいい人かどうかと、商品がいいものかどうか、値段が適切かどうかは別問題。


参考

この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。

現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。

この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。

気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。


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