【ビジネスの鉄則】基準となる金額設定は早めに|アンカリングの重要性(無意識・強烈・超持続)

ビジネス
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ビジネスの世界、特に営業にとってとても重要な人の心理に「アンカリング」があります。

アンカリングが上手くできたかどうかで、物の売れる値段が大きく変わります。

ここではアンカリングとは何かやアンカリングの重要性について解説しています。


アンカリングとは何か?

アンカリングとは先に与えられた情報を参考にして他の物事を考えてしまう人の性質です。

アンカー(anchor)とは船の錨です。海の上で船を固定するために使います。

心理学におけるアンカーは与えられた情報が基準となり、そこを起点として物事を考えるようになるということです。


言葉を使ったアンカリング

アンカリングは言葉でも発生します。

人を騙すひっかけゲームで「ピザって10回言って」というものがあります。「ピザ」と10回言った人は頭の中に「ピザ」がアンカリングされます。

その状態で肘を指さして「ここは?」と聞くと「ピザ」と答えます。

これは先に与えられた「ピザ」という情報で人の脳がアンカリングされるために発生します。

ポイントは「ピザ」という情報が全く与えられていないときと、「ピザ」という情報が事前に与えられたときでは人の思考が変わるということです。

他にも「シャンデリアって10回言って」のあとに「毒りんごを食べたお姫様の名前は?」や(答えはシンデレラ。ではなく白雪姫)、「温泉って10回言って」のあとに「3000の次は?」というものも同じアンカリングです(答えは4000ではなく、3001)。

豆知識

アンカリングが効果を発揮するのは大人です。脳の中で連想付けが上手くできない子供(幼稚園生など)は事前に与えられた情報により左右されにくいことがわかっています。


数値によるアンカリング

アンカリングは数値を使った場合にとても良く機能することがわかっています。

適当に書いた数字と金額

アメリカの行動心理学の教授 ダン・アリエリーは学生たちに協力してもらって次のような実験を行いました。

内容を6個の商品それぞれに支払ってもいいと思う最高金額を書いてもらい、一番高い価格をつけた人がそれを購入できる。という競りのような実験です。

ポイントは実験の手順にあります。

  1. 6個の商品の説明をする。
  2. 自分の社会保険番号の下2桁を紙に〇〇ドルと書く。
  3. 6個の商品をその値段で買うかどうかを「はい」か「いいえ」で記述してもらう。
  4. 支払ってもいい金額を書いてもらう。
  5. 最高額を書いた人が代金と引き換えにその商品を受け取る。

そして、学生たちに「社会保険番号の下2桁は購入金額に影響したか?」と質問したところ誰もが「そんなことはない」と言いました。

データを集計した結果わかったことは、「社会保険番号の下2桁が購入金額に大きく影響する」というものでした。

商品00~19番20~3940~5960~7980~99
ワイヤレスマウス864円1,192円1,345円2,118円2,618円
ワイヤレスキーボード1,609円2,682円2,927円3,455円5,564円
高級チョコレート955円1,064円1,245円1,327円2,064円
高級ワイン1,173円2,245円1,809円2,455円3,755円
社会保険番号と購入金額の関係
point
  • ランダムな数字ですら人はアンカリングされる。そしてアンカリングしたことに気付かない


ルーレットの数値と予測

心理学者のエイモス・トベルスキーはアンカリングの効果を調べるためにルーレットを使いました。

被験者にルーレットを回してもらい、その後に、国連加盟国にアフリカ諸国がどのくらいの割合は含まれるとおもうか?を予想してもらいました。

もちろんルーレットの結果とアフリカ諸国の割合は何の関係もありません。

実験の結果、ルーレットで高い数値が出た人の方が、アフリカ諸国が含まれる割合が多いと答えました

point

アンカリングは無意識に起こる。


希望小売価格

メーカーのホームページに行くと製品の下に「希望小売価格」が記載されています。

しかし市場でこの価格が実際に使われることはありません

小売りメーカーはそれよりも遥かに安い値段で商品を売ります。

これは人のアンカリングの心理を利用して購買意欲を高めるための企業戦略です。

商品を買いに行ったときに「2万円」と言われると「高い」と感じますが、小売り希望価格が「4万円」となっていると無意識に比較するようになります。

そして「50%オフなら安いか」という心理状態になります。

point

小売り希望価格は買う人の気持ちを後押しするための戦略。


ブランドイメージのアンカリング

アンカリングは商品やブランドなどのイメージにも使われます。

黒真珠

現代では超高級品として知られる黒真珠はアンカリングにより価格が高騰した商品の一つです。

1970年代、白い真珠は高値で取引されていましたが、黒い真珠は世の中に出回っていませんでした。ですが、タヒチの海には黒真珠がたくさんありました。

あるとき真珠王のサルバドール・アセールは黒真珠も売ることができないかと考えました。そこでアメリカの店舗を回りましたが、鉄砲玉に似ている、黒いし見たことがないという理由でまったく売れませんでした。

黒真珠は売れないので「売ることをやめる」「値下げする」「真珠とセット(おまけ)にして売る」といった方法しかないように思われました。

そこでアセールが行ったのはアンカリングでした。

セレブたちが読者となっている高級グラビア雑誌の全面広告に、ダイヤモンドやルビー、エメラルドなどの既に高級とみなされている宝石と一緒に黒真珠を掲載しました

この広告を見たセレブ達の脳には「黒真珠はダイヤモンドなどと同等に高級で、世の中に出回っていないレアな宝石」としてアンカリングされました。

結果として、黒真珠は驚くほどの高値で取引されるようになりました。


発泡酒

発泡酒は今では女性や若い人を中心に多くの人が好んで飲んでいますが、売り出された当時は人気がありませんでした。

発泡酒はビールよりも麦芽の比率が少ないため「コクがない」「安物」というイメージがついていました。

しかし「コクがない」を「ライトで飲みやすい」、「安物」を「安価で若い人でも手軽に飲める」というブランディングをしました。

若くてかわいい大衆的な女優が「くー!おいしい!」と言い「ライトで飲みやすい」「安価で若い人でも手軽に飲める」というアンカリングをしました

結果、発泡酒は売上が伸び、今でもプラスのイメージとして多くの人が飲んでいます。

point

ブランディングやイメージ戦略は人のアンカリングの心理を利用したもの。


アンカリングの影響力

アンカリングが影響するのは対象の商品だけではありません。一度アンカリングされると、他の商品の値段もそれを基準にして選ばれることがわかっています。

商品価格

例えばダン・アリエリーの社会保障番号を使った実験で、ワイヤレスマウスとワイヤレスキーボードを比較すると、全ての平均値がワイヤレスキーボードの方が高くなっています。

これはワイヤレスマウスの価格をアンカリングした時点で、それを基準にしてワイヤレスキーボードの価格を割り出したことを示しています

商品00~19番20~3940~5960~7980~99
ワイヤレスマウス864円1,192円1,345円2,118円2,618円
ワイヤレスキーボード1,609円2,682円2,927円3,455円5,564円
社会保険番号と購入金額の関係


一度でも安い買い物をした人

例えばテレビを買うにしても、超特価で買ったり、値引きに成功したことのある人はその価格がテレビの基準価格だと考えます。

すると、全く新しい機能を備えた高価格のテレビが発売されたときに「これはテレビの相場では高すぎる」と考えてなかなか買わなくなります。

一方、これまでに高級なテレビを買ってきた人は、テレビの値段は高いもの。そしていいテレビで快適に過ごせると思い込んでいるため、次に買うテレビにも高い金額を払ってもいいと思っています。


いつアンカリングされるのか?

私たちは常にアンカリングされているわけではありません。例えば自分の社会保険番号の下2桁が高いからといって、常に高い値段をつけているわけではありません。

では、いつアンカリングが行われるか?というと「それを考え始めた時」です。

商品を買うと考えたときに、参考となる数値情報があればそれがアンカリングになります

point

「欲しい」「買いたい」と思い立った時からアンカリングをし始める。


アンカリングの持続性

アンカリングには驚くべき効果があります。それは「長期間持続する」ということです。

バブル経験者

例えばバブルの時代を経験して、ちょっとしたことで大金を貰う経験をした人は、バブルが崩壊し日本経済が下降していく中でも「あの頃はもっと簡単にお金がもらえたのに」と考えます。

働いてもらえるお金のアンカーがバブル時代の経験になっています。


ガソリンが安かったときの経験者

自動車のレギュラーガソリンは今でこそ150~170円という高値をつけています。

ですが昔は1リットル100円以下が当たり前でした。昔の人には「1リットル3桁になったことが驚きだった」と言う人がいます。

そういう人は車にガソリンを入れるたびに「昔は100円あれば買えたのに」という悲しい感情が沸き上がります。

何十年経ってもその感情が変わらない場合もあります。

point

一度定着したアンカリングの持続力はかなり長く、その後の意思決定を左右する。


なぜアンカリングが起こるのか?

私たちにアンカリングの本能があるのは考える手間を省くためです。

人が持つアンカリングの本能

狩猟採集をしていた時代は何か危険な兆候があればそれを察知できないと命を落としました。だからこそ、本能的に察知してすぐに行動に移すというのはとても大事な本能でした。

「ライオンの足跡があったら危険」というアンカリングがあった場合、ライオンの足跡の大きさや形状を基準にして「この足跡なら安全」「この足跡は危険」を瞬時に判断します。

point

アンカリングで思考の手間を省ける(簡素化できる)。


他の動物にもある

アンカリングは人間だけの本能ではありません。他の動物にもあります。わかりやすいのは鳥のヒナです。

鳥のヒナは卵から返ったときに最初に見た生き物を親と思い込みます。このため人間を見るとその人を親だと思って後ろをついて回ったりします。

これは最初に見た人があなたの親ですという強力なアンカリングによるものです。

そのアンカリングはその後も長く続きます。


できる限り早くアンカリングする

アンカリングを使うと商品を買う時にいくら払うかが大きくかわります。

できる限り高く売りたい場合は「できる限り早く深くアンカリングする」ことがとてが鉄則です。

できる限り「早くする」理由

アンカリングが起こるのは相手がそれを買おうと考え始めたときです。その人がたくさんの情報を調べて自分の中でアンカリングを行う前に、営業がアンカリングをすることができれば、価格交渉はそこを基準にして始まります。

例え後からネットで調べたときにもっと安い価格が出てきたとしても、「あの営業の方が〇〇円って言っていた」というのが基準になります。

その価格と比べてネットの商品は安いとなります。

ネットで調べた情報によるアンカリングの方が先だと、あとから価格を伝えたときに「高い」という印象を持たれます。

どちらでアンカリングしてあるかはとても重要です。


営業のアンカリング例

営業のアンカリングの例として、相場を遥かに上回る値段を最初に伝える方法があります。

こちらが価格を提示したときに驚かないように先にお伝えしておきます。
あなたと似たような商品をご購入された方は100万円でした。

このように一言伝えておけば、値切り交渉は100万円からスタートします。


参考

この記事のスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。

人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。

この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。

あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。


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