企業が成長し続けるためには既存事業だけでなく、新しい事業にも挑戦しなければいけません。
かといって既存事業への投資がおろそかになるほど新規事業にのめり込むと、既存事業が傾きすべてがダメになってしまうこともあります。
ここでは新規開発にお金やエネルギーをかけすぎることの問題点と、新規事業への理想的なお金とエネルギーの配分についてまとめています。
新規事業にお金をかけすぎてはいけない2つの理由
新規事業にお金をかけすぎてはいけない理由が2つあります。
既存事業が疎かになる
新規事業にお金をかけすぎてはいけない理由の一つ目は既存事業が疎かになることです。
新規事業にお金を投資できるのは既存事業の稼ぎがあるからであることを忘れてはいけません。既存事業というしっかりした基盤があってこその新規事業です。
そして、どの事業領域でもシェアを獲得しようと奮闘しているライバル企業や新興企業があります。
そういった企業の台頭を無視していると、気づいたときには追い抜かれ巻き返しができない状態になることも少なくありません。
新規事業からの撤退が難しくなる
私たちヒトには、何か新しいものを得るよりも、手にしたものを失う損失を過剰に怖がる心理が備わっています。
新規事業への投資がほんの僅かであれば手を引くことは簡単です。
ですが、社運を賭けて大金を投じてしまった場合、それがダメだとわかっても「もうこれだけのお金と時間をかけてしまったのだから」という心理が働いて引くに引けず、ズルズルと続けてしまう状態が発生します。
結果として、損失が膨れ上がり大ダメージを被ることになります。
この心理に陥った失敗は世の中に山のようにありますが、その中でもコンコルドが有名です。
コンコルドはロンドンからニューヨークを3時間以内という超短時間でつなぐ航空の技術の最高傑作でした。
技術的には優れているものの、開発に1000億円という莫大なお金がかかり、その割に乗れる人の数は少なく、発注数も少なく、商業的には赤字を垂れ流す悲惨なものでした。
誰もが今後も赤字を垂れ流すことに気付いていたにも関わらず「ここでやめたら今までの投資が無駄になる」と考え30年間も運用され続けました。
結果としてコンコルドの開発と運営に携わった企業は大損失を被りました。
理想的な配分|70:20:10の法則
既存事業と新規事業への理想的な配分として「70:20:10の法則」があります。
正確には、事業を「コアビジネス」「成長事業」「新規事業」の3つに分類し、お金と時間を70:20:10の割合で配分するというものです。
- 既存のお金を稼ぎ出している事業が「コアビジネス」。
- 新たに出てきたもので、徐々に伸び始めてきている将来有望な事業が「成長事業」。
- 全く新しいものを生み出そうとするのが「新規事業」です。
新規事業への投資が10%というのは、全くない状態ではなく、かつ失敗しても損失が限られるので、会社自体を危機に晒すことを防止できます。
新しい発想は制約から生まれる
成長事業に20%、新規事業にたったの10%しかかけないことは、新しいイノベーションが生まれる助けにもなります。
というのも「新しい発想は制約から生まれる」ためです。
イノベーションは決して資金と時間が潤沢なところから生まれてくるわけではありません。むしろ資金と時間が限られている中で、既存の枠組みを超えて何とかしようと考えるところから生まれてくるものです。
絵画に額縁がありサイズが決まっている方がクリエイターの発想力(クリエイティビティ)を刺激するものです。
フォードはあえて車の価格を安く設定した
アメリカ中に自動車を広め、自動車王と呼ばれたヘンリー・フォードは自動車を売り出すときにあえて低い価格を設定しました。
その理由は「価格を低く設定してしまったら、利益を確保し持続していくために、より製造方法や販売方法を工夫しなければいけない。つまり、たくさんの発見を得ることができる」と考えたためです。
あえて自らに制約を設けたことで、工夫しなければいけないというモチベーションにつなげ、より多くの発見を促すように自分を駆り立てたことが、数年後に自動車王と呼ばれ歴史上に名を残す人物になった出発点ということです。
プロトタイプに大金は必要ない
何か新しいアイディアが上手くいきそうか調べるときに大金や大々的な調査は必要ありません。
むしろ、可能な限り小さくスピーディーに試せるほうが好ましいです。
特に優秀な人ほど最小のコストで素早く試そうとする傾向があります。一方、あまりできが良くない人ほど、大金を投じて大々的にやらなければ試すことはできないと考えています。
Googleは数多くの画期的な製品を世の中に出し、潤沢な資金を稼ぎ続けている企業です。ですが、Googleでのプロトタイプづくりはお金をかけるわけではありません。それどころかかなり小さくスピーディーに行われています。
Googleブックス
Goolgeの製品の一つにGoogleブックスというものがあります。
世界中の全ての本を誰もが閲覧できるようにするというコンセプトで始まったものです。
Googleの創業者ラリー・ぺージは本人が希望すればかなりの大金を使える立場にいます。
ですが、Googleブックスの可能性を確かめるために彼がやったことは、デジカメと三脚、メトロノームと本を用意して、自分のオフィスのテーブルの上に設置し、メトロノームで一定の速度を保ちながら本のページをめくり、カメラで撮影して、1冊撮影し終わるまでにどのぐらいの時間がかかるかの概算でした。
そして、計測結果から自分のアイディアが実現可能かを検証することでした。
つまりGoogleブックスのプロトタイプ作成に必要だったのは、カメラ、三脚、メトロノーム、本の4つだけで、大金も時間も何一つ投じていません。
ストリートビュー
Googleの素晴らしい製品の一つにGoogleマップ上で実際の道を見ることができるストリートビューがあります。
世界中のあらゆる道路をカバーしている素晴らしい製品なので、そのプロトタイプはさぞかし大金を投じて検証されたものと考えてしまいがちですが、決してそんなことはありません。
Googleの創業者のセルゲイ・ブリンがストリートビューが実現可能かを確かめるためにやったことは、カメラを持って車に乗り、数秒おきに写真を撮影するというものでした。
そして、自らの写真と構想を取締役会で発表し、賛同を得られた結果進み始めたプロジェクトでした。
フォロワーを集める
新規事業を推し進めるためには、まず簡単にプロトタイプを作成し、それを共有することで賛同者を得る必要があります。
賛同者が一定以上集まれば、そのアイディアはより実現可能性が近づきます。
イノベーションのように、多くの人を巻き込んだ全く新しいムーブメントは、まずは変わったことを考える頭のおかしな人が一人いて、そこに賛同する人が1人、2人と現れ、やがてそれが集団となり、むしろ参加していない方がマイノリティーになることで起こります。
アイディアが浮かんだらまずはお金をかけず簡単にプロトタイプをつくり、それを共有して賛同者を募りましょう。
参考
この記事の内容はGoogleの経営陣 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジの共著「How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント」の内容の一部抜粋と要約です。
一国家と同等な資金を持ち、世界中で知らない人はいないほどのGoogleという大成功企業の中で、
- どのような制度が用いられ、どのような人たちが働いているのか
- 人のやる気を引き出し、周りが見たら無理だと投げ出したくなるような事業をどのように達成に導いてきたのか
- 優秀な人材を獲得するための方法
- 採用時にやってはいけないこと
などなど、これからの時代に欠かすことのできない内容がギッシリ詰まった一冊です。堅苦しくなくユーモアがあり読みやすい文体ですので、ぜひ一読されることをお勧めします。