【最適な悪いニュースの伝え方】もっと悪いウソをついてから真実を伝える|コントラストの原理のビジネスへの応用

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この世の中ではしばしば悪いニュースを伝えなければいけないときがあります。

テストでものすごく悪い成績をとってしまったとき、そのことを親に報告する。仕事で失敗してしまったことを上司に報告しなければいけないなどです。

相手を怒らせたり、失望させることは目に見えています。

このため、できることなら伝えたくありません。言い出す心理的ハードルも高いものです。かといってずっといい出さないでいると、自分の中の心理的ハードルが時間経過とともに上がっていき余計に言い出しにくくなってしまいます。

その結果、相手は「なんでもっと早く言わなかったんだ!」と激怒することになるでしょう。あるいは直ぐに対処すればなんとかなった失敗が、時間が経ってしまったことで取り返しのつかない事態に陥るかもしれません。

ここでは人間心理を上手に使って、悪いニュースを相手にそこまで悪い印象を与えずに伝える方法について解説しています。


もっと悪いウソを伝える

伝えなければいけない悪いニュースを相手にそこまで悪い印象を与えずに伝える方法は「もっと悪いウソを先に伝える」ことです。

大学の試験で悪い成績をとった学生

試験の成績を報告することを義務付けられている大学生A君がいたとします。

A君の親は二人とも高校の教員で学業成績に対してとても厳しく育てていました。毎月の仕送り額は学業成績と連動していますし、テストの結果が悪ければ一人暮らしをやめさせ実家から通わされるリスクがあります。

ところがA君はテストで数学と科学の成績で最低評価をとってしまいました。親にどう伝えるべきか悩んだ結果次のような手紙を送ることを思いつきました。

親愛なるお父さん・お母さんへ

大学に入学して以来連絡がおろそかになってしまいすみません。

今回手紙を書いたのはこれまでにあったことを正直に伝えなければいけないと思ったからです。とても大事な話なのでテレビを消して2人で正座して読んでください。

僕は今はとてもうまくやっています。

ですが、2か月前にレンタカーを借りて出かけたときに、追突事故を起こしてしまい、相手を負傷させてしまいました。

相手は首の骨を折る大けがで、助手席に座っていた子供も出血していました。急いで救急車をよび2人は命に別状はありません。

警察の事情聴取や保険会社とのやりとりなどとても大変です。レンタカーを借りるときに少しでもお金を安くしようと保険に加入しなかったことが裏目に出ました。

でも、お父さんとお母さんには迷惑をかけないようにします。僕が起こした事故なので僕でなんとかする予定です。

問題は相手の旦那さんがカンカンに起こっていることです。毎日僕の家に怒りの電話がかかってきます。こちらはただただ謝るしかありません。

ずっと謝り続けているの精神状態も不安定になりそうです。ああ、あのとき保険に加入していれば。ほんの一瞬よそ見なんかしなければ。今はそれを後悔する毎日です。


さて、、ここまでたくさん書きましたが、実は交通事故はおこしていません。そもそもレンタカーも借りていません。誰も怪我をしてませんし、相手の旦那から怒りの電話もきていません。もちろん保険の訴訟もありません。

これは、大学の友達の先輩が起こした事故の内容を自分事として考えてみた結果です。よくお父さんとお母さんが「他責にするな。自分事で考えろ」と僕を育ててくれたおかげです。

勉強とは関係ありませんが、こういうことが考えられることは人としてとても重要だと感じています。

ただ、大学の数学と科学の成績は最低評価になりそうです。お父さんとお母さんが色々な事情を考えてこの成績を判断してくれると嬉しいです。


かなり長い手紙ですが、この手紙を受け取った親はどう感じるでしょうか?

この手紙を書かずに実家に帰って、家族で楽しく夕飯を食べている時に意を決して「お父さん・お母さん聞いてください。実は数学と科学の成績が最低でした」と言えば、これまで楽しく話していたお父さんとお母さんの手がプルプルと震え出して、怒りの食卓になってしまいます。

ですがこの手紙であれば、数学と科学の成績の悪さは、他のもっと悪いニュースによってより小さく見えるようになります

交通事故を起こして、相手の奥さんと子供に怪我を負わせ、保険に入っていなかったことで問題になっていることに比べたら、数学と科学の成績なんてとるに足りません。

それに、大学で遊んでばかりではなく授業では得れれない学びも得ています。

point

より悪いウソのニュースを伝えれば、本当に悪いニュースがかすんで見える。


部下に給料が下がることを伝える

会社の上司がある部下に給料が下がることを伝えるときにも「悪いウソを先に伝える」手法が使えます。

給料が下がるというのは部下にとって最悪なニュースです。自分を評価してくれないこの会社にいるべきか、自分の人生を考えるターニングポイントにもなります。

上司としてはできる限り相手のショックを最小限に抑えたいものです。そこで、相手を呼び出して次のように伝えました。

経理から報告があってお前の不正が発覚したため、クビにしろとの通達があった。不正会計の証拠もしっかり残っているとのことだ。

言い訳は聞かない、もう明日から来なくていい。

とうぜん身に覚えのない部下は「そ、そんな!それは何かの間違いです!」「クビは勘弁して下さい養わなければいけない家族がいるんです」と言い動揺します。

そこで次のように伝えます。

いや、冗談だよ。悪い悪い。

ところで、今回の査定で君の給料が5%下がることが決まったんだ。今回は残念だが次回は昇給できるように頑張ってくれよ。

こうすると部下は「あーよかった~」「それならしょうがないか」という気持ちになります

前置き無しに「君の給料が5%下がることになった」と伝えれば「そんな!ちょっと待ってくださいよ!」と反論が出ますが、

先にもっと悪いウソのニュースを伝えたことで、本当の悪いニュースがそこまで悪くないモノに見えるようになります


コントラストの原理

なぜ同じ真実を伝えるのに先に伝えた情報で最終的な相手の反応や感情がこうも大きくかわるのでしょうか?

そこには私たちヒトが物事を絶対的な基準で評価できず、相対的にしか評価できないという性質を持っていることがあります。

つまり、「数学と科学の成績が最低評価だった」というそれ単体では評価はされません。何かと比べたときに評価が下されるということです。

「数学と科学の成績は最高評価だった」に比べれば「最低評価」は悪いことです。

ですが「自己を起こして他人に重傷を負わせた」ことに比べれば「数学と科学の成績が最低評価だった」はそこまで悪いことではないです。挽回可能でどうにでもなることです。

point

私たちヒトは、何かと比較しない限り評価を決めれない。


何と比較するかで感情が大きく変わる

私たちの感情や感覚が何かと比較してしか評価を決められないことは次の例でわかります。

まず氷がたくさん入った冷たいバケツと、皮膚が赤くなるぐらい熱いお湯が入った熱いバケツと、ちょうどいいぬるま湯のバケツの3つを用意します。

そして右手を冷たいバケツの中に、左手を熱いバケツの中につっこみ2分間我慢します。

その後、両手をぬるま湯に浸けたときを想像してみてください。

お湯の温度は同じなのにそれぞれの手で感じ方が違います。右手は熱いと感じるのに対し、左手はぬるいと感じます

真冬にある程度暖房の効いた家の中にいて「寒い」と感じていてもいったん外にでてしばらくしてから帰ってくると「温かい」と感じるのと同じです。

家の中の温度が変化したわけではありません。家の外という対比する対象ができたからです。

このように人は何と比較するかで感情や感覚が大きく変わる生き物です。


ビジネスへの応用

私たちが持つコントラストの原理はモノを売るビジネスにとってとても強力な効果を発揮します。

高価なものから紹介する

お客さんの財布の紐を緩めてより多くのモノを売るための方法は「高価なモノから勧める」です。

紳士服売り場では高級なスーツや、チープなスーツ、ネクタイや靴などの小物を扱っています。

この紳士服売り場でたくさんモノを売るためにはどうするといいでしょうか?人の特性をよく理解した販売員はお客さんに勧める商品の順番をとても気にします

勧めるときは価格の高い高級なスーツから始めます。そこで値札をしっかりと意識させます。

相手が高いと感じているようであればもう少し安いスーツを勧めます。

仮に、最初に勧められたスーツが10万円、次に勧められたスーツが3万円だとしたら、お客さんはコントラストの原理により2つ目のスーツは「安い」と感じます

3万円のスーツを買うことが決まったあとは、靴やネクタイを勧めます。それぞれの値段はスーツよりも安価なので、より購入しやすくなります。

point

一番高いものから紹介すると、お客さんの財布の紐がもっとも緩む。


魅力の無いものから紹介する

何かを売る時は高いものから勧める以外にも「魅力のないものから勧める」方法もあります。

ある不動産のトップセールスマンはお客に不動産を紹介するときに、リストの中にあえて魅力的でないボロい不動産を複数混ぜ込んでおきます。そしてその商品から紹介します

最初にその不動産を見せられたお客さんの印象は「ボロい、汚い」です。

次にお客さんを本当に売りたい物件に連れていきます。すると「きれい!素敵!」といって目を輝かせます

これはお客さんが最初に見せられたボロい物件と後から見せられた物件を比較して評価を行っているためです。

コントラストの原理を上手に使った商法です。

point

最初に魅力的でない商品をいくつか見せておくと、本当に売りたい商品をみせたときにお客さんがとびつく。


価格の表示を工夫する

コントラストの原理を利用するには、価格の表示方法もとても重要です。

商品の値引きをするときにやってはいけないことは、元の値段を表示せず、値引き後の値段だけを表示することです。これではお客さんにお得感がまったく伝わりません。

必ず、もとの値段が見えるようにして、その上で、割引した値段を表示することが重要です。

また、寄付を依頼するときは「1000円寄付してください」とだけ記載しても効果が薄くなります。

次のようにいくつかの選択肢を設けると、より多額の寄付金を得ることができます。

寄付金の選択肢
  • 10,000円
  • 1,000円
  • 3,000円
  • 5,000円
  • _____円(自由入力)

ポイント2つあります。

  1. 本当に欲しい1000円よりももっと高い金額をあえて載せておく
  2. 自由入力の上に5000円を記載する

こうすることで、基本的には1000円以上の額が集まります。1000円払った人も最も少ない選択肢を選んだことになります。

更に、5000円の下に自由入力欄を作ったことにより、自分が記入する金額を5000円と比較することになるため、1000円以下といった小さな金額は少なすぎるという印象を十分に与えることができます。


マーケティングの失敗例

コントラストの原理はもちろん逆パターンでも働きます。

つまり、最初に安いものを色々と見ると、その後に価格の高いものを見たときに「高い!」と感じます。

最初に状態が良いものをたくさん見た後に、悪いものを見せられると「汚い!ボロい!」と感じます。

人に働くコントラストの原理を理解していないことで失敗した例があります。

ある航空会社はオーバーブッキングにより座席の払い戻しをせざるを得なくなりました。そこで待合室にいる人たちに向かって、座席のチケットを高額なサービス券と引き換えるアナウンスが流れました。

そのとき職員はみんなを笑わせようとして次のようなジョークを言いました。

「当機はオーバーブッキングにより座席が足りていない状況です。どなたか座席を譲ってくれる方がいましたらカウンターまでお申し出ください。座席の代わりに100万円の引換券をお渡しします

職員の狙い通り、このジョークを聞いていた人たちは受けていました。職員は次のように続けました。

「というのはジョークで、実際は2万円分の引換券になります。」

ところが、この申し出に対して誰もカウンターに行く人はいませんでした

アナウンスを聞いていた人は「100万円に比べて、2万円は安い」と感じたためです。

しょうがないので航空会社は引換券の金額を徐々に吊り上げ、最終的に5万円まであげなければいけない結果になりました

コントラストの原理を理解していないジョークのせいで通常よりも3万円余計に損したわけです。


正しい対応は?

ではこの職員がとるべき正しい対応はなんだったのでしょうか?それは簡単です。実際の引換券よりもずっと低い値段を提示すればよかったのです。

「座席の代わりに100円の引換券をお渡しします。というのはジョークで、2万円分の引換券をお渡しします」

と言っていれば、多くの人が100円と2万円を比較して「得だ!」と考え交渉にとびついていました

相手にいかにお得な取引だ思わせられるか」はビジネスにおいてとても重要なことです。

point
  • コントラストの原理は想像以上に強力で、無意識のうちに自然と働く。
  • 事前の情報一つで、その後に相手がとる行動が明らかに変わる。


コントラストの原理に騙されないために

コントラストの原理は私たちヒトにとってあまりに強力です。何かを見てしまった時点で比較は自動で動き出します。

「自分が何を買いたいのか」「何を買わないのか」「予算の最大値はいくらか」をあらかじめ明確に決めておかないと、余計なモノを買う羽目になります。

世の中にはたくさんのワナが張り巡らされているので気をつけましょう。


参考

この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。

現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。

この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。

気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。



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