学校など多くの人たちが集まる環境では、子供たちが仲良くしてくれるのが一番望ましいことです。
そのため、子供たち同士が仲良くなるような交流の場を設けるなど色々な施策がとられています。ですが方法を間違えると子供たち同士の中が悪くなったり対立が激化し、ときには暴力沙汰に発展することもあります。
特に、仲の悪い生徒たちでも、壁を取り払い一つのクラスにすれば仲良くなるのでは?と思うかもしれませんが、これは逆効果になることが多いです。
実際、アメリカのある学校で黒人と白人の人種差別問題が悪化していたときに、お互いの仲をよくするために、黒人と白人をごちゃまぜにして一つのクラスにするという政策をとりました。
ところがその結果、対立はますます深まり、あわや大惨事という状態に至りました。
これは、そもそもの学校の教育方法という環境自体に問題があったためです。
ここでは、なぜ学校のような環境で、仲の悪い生徒を一緒にするとさらに対立関係が深まるのかについて解説しています。
学校の実態
日本と違いアメリカは人種のるつぼと言われるように多くの国籍の人たちが混在した社会です。
もちろん学校にも人種の異なる子供たちが通っています。
そのような場合に学校で生じるのは、似た人種同士で集まりグループができることです。日本の学校でも比較的似たことが起こります。転校生など別の地域から来た人や、国籍が違う子供は仲間外れにされやすい傾向があります。
そして、時にはグループ間での対立があったり、グループからはじき出されるいじめが起こったりします。
学校教育が対立を生む仕組み
多くの生徒がみな個々人で仲良くしないかというと、その原因には「学校教育自体が対立を生み出す仕組み」であることがあります。
なぜなら、学校の教育は成績を上げるために競わせるという仕組みだからです。
これは一般的な授業の風景を見ればわかります。授業では先生一人が教室の前に立ち「これわかる人」というように生徒に対して問いかけます。
すると答えがわかる生徒は、自分の利口さを示すためにこぞって手を上げます。それは子供たちがいかに自分の利口さを証明する場に飢えているかということを示しています。
そして答えのわからない生徒たちは先生にあてられないように目を逸らし顔を伏せます。
先生が誰か1人を指名すると、他の手を挙げていた子供たちは失望の顔を見せます。自分が利口であることを証明し褒められる機会を失ったからです。
一方で、答えのわからなかった生徒たちの顔には安どの表情が宿ります。自分の無能さや恥をさらけ出さずに済んだためです。
この仕組みは競争そのものです。子供たちの優劣を決め、優れている子、劣等な子を明らかにしていくものです。
落ちこぼれた生徒は上手くやっている生徒に対して嫉妬や憤りの念を覚えるようになります。「先こうのイヌ」や「ガリ勉」と言ってバカにします。
一方、上手くやっている生徒は、落ちこぼれた生徒のことを「バカ」「うすのろ」「低級民族」と言って侮辱します。
つまり、学校教育という仕組みそのものが対立を強化しやすいのです。
人種隔離の廃止がもたらしたもの
学校のような人々が競争心を煽られ、対立する環境下に置いて、黒人と白人という人種隔離を取り除けば、子供たちが仲良くならないことは当然の結果と言えます。
強制的な合同のバス通学、学校の再編などは結果として、より強い偏見を生み出すことになりました。
同じ競争環境にひとまとめにされたことで、これまで白人同士で対立していたはけ口が、黒人へと流れたということです。
なお、成績を上げるという点では一部の生徒で成果が生まれました。それは少数派の人たちの成績が上がったということです。
アメリカ社会における白人のような大多数の人たちの成績は変わらなかったものの、より少数民族でグループとして弱い人たちは対抗する手段として学業を選択したという結果になりました。
対立をなくして仲良する方法
学校のような競争環境で子供たちが仲良くするのは不可能なのでしょうか?決してそんなことはありません。
心理学の研究で、対立しているグループのメンバー同士でも「みんなが協力しなければ達成できない課題が現れ、それをみんなで協力して解決すると、対立していたメンバー同士の仲が良くなる」という結果が得られています。
対立をなくして仲良くするための条件は次の2つです。
協同学習法(ジグソー法)
生徒たちが一つの目標に向かって互いに努力し、その結果みんなが共通の利益を得るための手法に「協同学習法(ジグソー法)」があります。
協同学習法(ジグソー法)とは、生徒たちを少人数のグループに分け、その中で、各子供に異なったテスト範囲を振り分けます。
その後、それぞれで教え合い問題を解いていくという方法です。
一人一人がジグソーパズルのピースになり、みんなが集まってようやく答えができあがるのでジグソー法と呼ばれています。
まとめ
私たちは顔なじみの人や接触回数の多い人に好意を抱く性質があります(「ザイアンスの法則」といいます)。
ですが、前提となる接触する環境が競争を助長するものだと、接触回数が多いほど対立関係が深まっていきます。
それは偏見や暴力を助長し、子供が大きくなった後にも引きずるものとなります。
そういった対立関係をなくすには、一つの目標に向かってお互いが協力し合うことが効果を発揮します。
大人たちが子供のためにできることは、そういった協力し合って目標を達成する環境をいかにつくるかということです。
なお、学校で子供たちに生じたこれらの性質は、大人にも同じように生じます。そこで働く人たち全員が充実感や幸せを得るためには、会社での人とのつながり方や目標設定の方法が重要となります。
参考
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。