子供や部下など「〇〇するように」や「〇〇しないように」と毎回一言伝えることは気が引けます。
言う方も大変ですし、言われた方も良い気がしません。口うるさい人は煙たがられ嫌われます。
できることなら口うるさく何も言わないようにしたいものです。ですが、一言伝えることは重要です。なぜなら、伝えることで相手の行動に影響を与えられるからです。
直接的に伝えることが苦痛だという人は張り紙を使っても、同様に相手の行動に影響を与えることができます。
ここでは、事前に与えた情報によって人の行動がどう変化するかについてまとめています。
人はズルする生き物
まず大前提として人は自分をよく見せるためにズルをしようとする生き物であることを知る必要があります。
だだし大きなズルはしません。ほんの少し上増しするズルをします。このことはアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの実験によって明らかになっています。
実験内容
ダン・アリエリーはアメリカ最高峰のハーバード大学の学生とハーバード・ビジネス・スクールのMBA学生に対して正直さを確かめるために次のような実験を行いました。
50点満点のマークシート式のテストをしてもらい、まず作業用紙に答えを書き出し、その後答案用紙に答えを記載してもらうものです。正解した数 × 10円だけ報奨金を得る。問題の内容は世界一長い川は何か?といった一般教養です。
被験者たちは次の4つのグループに分類されます。
2~3の条件で学生はズルをすることができます。正しい答えを見て、自分の答えをそれに合わせることができます。
3,4はズルのしやすさで、もはや誰がどんなズルをしたかも何一つわからない状態です。
この実験の目的は各条件によって平均点がどれだけ変化するかを見るものです。
実験結果
実験結果は次のようになりました。
条件 | 平均点 |
---|---|
普通にテストを行う。答えはわからない。 | 32.6 |
答案用紙に答えが薄いグレーで記されている。作業用紙と答案用紙の2つを提出。 | 36.2 |
答案用紙に答えが薄いグレーで記されている。作業用紙は破棄し、答案用紙のみ提出。 | 35.9 |
答案用紙に答えが薄いグレーで記されている。何も提出しない。自分で正解数×10円だけお金を受け取る。 | 36.1 |
ズルをできた人たちはどれだけずるができるかによらず、ちょっとだけ水増しして答えを書いたことになります。
この実験の結果と似たようなことは他の研究でも明らかになっています。
日本のセンター試験のアメリカ版にSATがあります。1年後にSATを受けた学生に「あなたの点数は何点でしたか?」と聞くと、少し水増しした点数を答える人が続出しました。
あからさまなウソはつかないが、本来の実力を発揮すればとれたであろう範囲でウソをつくということです。
事前情報とテストの結果
ダン・アリエリーは更に追加実験を行いました。テストを行う前の事前情報によって、テストの結果が変わるかどうかを調査しました。
被験者の学生に対してテストを受ける前に「モーゼの十戒」を思い出せる限り紙に書き出してもらい、それからテストを受けてもらいました。
モーゼの十戒は次のようなものです。
神の存在を認め、誠実に真摯に生きるための戒めの言葉です。
驚くべきことに、この言葉を思い出してからテストを受けた人たちはズルできたにも関わらずズルをしませんでした。
効果のある一言
なんらかの行動をする前にモーゼの十戒を思い出した人は、その後の行動も誠実なものになるように、人の行動は直前の情報やイメージにより自然と変化します。
このため、何かしてほしくないことがあれば、それを躊躇するような一言をかけると効果的です。
例えば「嘘をついたら、罰せられるよ」と伝えるだけで、相手は罰せられることをイメージするため、行動が抑制されます。
もしテストで不正が発覚したらそのテストの点数は0点になるというルールがあるのであれば、テスト前にそれを一言伝えるか、あるいはテスト用紙の一番上に書いておくようにすると、より強い抑止力を発揮します。
張り紙の力
事前に一言伝えてイメージさせることは張り紙でも十分な力を発揮します。
あるシェアハウスで1階と2階にあるそれぞれの共用のトイレからトイレットペーパーが盗まれることが頻発していました。
犯人はシェアハウスの誰かが、部屋の中にトイレットペーパーため込んでいることだとわかりました。
シェアハウスの住人は事を荒立てたくなかったため、トイレに次のような張り紙をすることにしました。このとき実験的に1階のトイレには何も張り紙をせず、2階のトイレにだけ次のような張り紙をしました。
「トイレットペーパーを持ち出して自分のモノにしないでください」
この張り紙の結果、2時間後にトイレットペーパーが1個戻り、2日後にはトイレットペーパーが更に増えて2つになりました。
なお、1階のトイレのトイレットペーパーは0個のままでした。
この結果は、書き出して脳でイメージできるようにすれば、それが相手の行動を変える力があることを示してます。
参考
この記事の内容はアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」の内容の一部抜粋と要約です。
人が犯しがちな判断ミスを行動経済学という観点から紐解いたものです。ユーモアを交えた文体でとても読みやすく新たな発見がたくさん詰め込まれています。
この本を読んだことがあるかどうかで今後の人生の行動が変わってしまうほどのパワーを持ちます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。