犯罪率を下げたり、会社の売上や生産性を上げるために、いくつもの規則を設定して厳しく罰している行政や組織は少なくありません。
警察といえば厳しく取り締まったり、ネズミ捕りで小さな違反を取り立ててポイントを稼ぐ嫌な人たちという印象を持つ人も少なくありません。
もし「警察です」と電話がかかってきたら、ドキッとして「何かしたかな?」と考える人がほとんどです。
ですが、そんな警察の常識を覆した例が、カナダのリッチモンド市にあります。
ポジティブチケット
カナダのリッチモンド市ではこれまで犯罪率を下げるために、刑を重くしたり、取り締まり運動を強化する取り組みをやってきました。
しかし、再犯率など犯罪の数はなかなか減らず警察所は苦戦していました。
あるとき新たに所長についたウォード・クラッパムは次のように考えました。
私たちはなぜ犯罪が起こるまで待たなければいけないのか?なぜそんなに受け身なのか?事後対応ばかりでなく、犯罪を未然に防ぐ取り組みはできないか?
そこで、悪事ばかりではなく、善行にも注目するために、ポジティブチケットを発案しました。
ポジティブチケットは、ゴミをゴミ箱に捨てる。バイクに乗る時にヘルメットを被る。学校に遅刻しないといった行動をした子供たちに配りました。
ポジティブチケットは映画館やジム、コミュニティーセンターに無料で入れるという特権を持ったチケットです。
最初はなかなか効果がでなかったものの、長期的な戦略として取り入れ継続し続けたことで、10年後に犯罪の再犯率が68%から60%まで下がりました。
警察が10年間で発行したポジティブチケットの枚数は4万枚です。違反者に切ったチケットが1.3万枚だったので、約3倍もの善行を称えたことになります。
無料引換券以上の意味
ポジティブチケットは市の共有施設に無料で入れるお得なチケットとして発行されましたが、それ以上の意味を持つこともありました。
あるとき、車にひかれそうになった少女を助けた少年がいました。
警官が「すばらしいことをしたね。君は立派なことができる人だ」と言って、少年にポジティブチケットを渡しました。
母親が「何と引き換えるの?」と聞くと、「引き換えないよ。ずっと持っておくんだ」と言って自分の部屋の壁に飾りました。
警官に認めてもらったということが無料の引換券以上に、自尊心を育てるという価値あるものになったことを示す例です。
まとめ
「罰する」から「褒める」に変えたことで、少年少女たちのマインドが変わり、10年という長い年月をかけて犯罪率は徐々に低下していきました。
これが成しえたのは、「褒める制度を取り入れた」と「長期間継続し続けた」この2つがあってこそです。
イギリスの元首相 トニー・ブレアが
犯罪だけでなく、犯罪の原因にも断固立ち向かう
と言ったように、根本となる原因を見つけだし、それに根気よく対処し続けたことが成果へとつながっています。
もちろん、ポジティブチケットを導入したからといって全てが改善したわけではありません。10年間で改善したのは8%です。
ですが、厳しくとりしまってもできなかったことを成しえたのがポジティブチケットであったことはまぎれもない事実です。
多くの行政や組織がポジティブチケットのような仕組みを導入して、暮らす人や働く人たちがより幸福感を味わい、成果の出る世の中になっていくことを心より願います。
参考
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
世界的ベストセラーになったこの本には他にも人生を成功と幸せに導く格言がたくさん載っています。
興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。