長期間保有していたものや、色々と手をかけてきたものは愛着がありなかなか手放すのが難しいものです。
いざ「売ろう」と思っても相場よりもかなり高い価格を付けてしまい、何年間も売れないということもあります。
その理由は大きく3つです。
人は自分の持っているモノを、過大評価する。
保有効果(授かり効果)
相手が欲しいのは「あなたのもの」ではなく「自分のもの」。
これまでにつぎ込んだお金と時間があるので「もったいない」という心理が働く。
サンクコスト(埋没費用)
ここでは、実際の価値より高く見積もったせいで、大きな損失を被った例を3つ紹介します。
カスタマイズした解放感のある素敵な家
ある夫婦は東京の郊外に一生懸命貯めたお金で家を建てました。
夫婦で家の構造や内装のことを何年間も考え、一般的な作りではなく壁を取り払って解放感を演出しました。
お風呂場には天窓と外が見渡せる大きな窓を付けました。そして地下室にワインセラーを作りました。費用は土地も合わせて1億2千万円というなかなかの豪邸でした。
しかし5年後、仕事の状況が大きく変わり、家族で長野県に引っ越さなければいけなくなりました。
長野に家を購入したので、東京の家は売りに出すことにしました。
2件分の税金や光熱費、住宅ローンを払うのは大きな出費で、人口減少に伴い住宅市場は冷え込み始めていたこともあり、夫婦はできる限り早く売るべきだと思いました。
同時に「これだけこだわった素敵な家ならすぐに売れる」と考えました。
家は新しく立地もよかったこともあり多くの人が見に来ました。しかし、誰一人として購入までは至りませんでした。
「家のつくりや雰囲気はとても素敵。だけどここまでの解放感は必要はない」というのが多くの人の意見でした。
そういった意見を聞いて夫婦は「みんな見る目がないね。想像力や遊び心に欠けているね」と言いあいました。
しかし1年経っても家は売れず、夫婦は2倍の税金や光熱費、住宅ローンを支払い続けました。
それを見かねて不動産屋が一言伝えました「ちょっと思ったのですが、家を売りたいとお考えなら壁やお風呂場など一部のアレンジをやめて、一般的な状態にもどしてみてはどうでしょうか?」と申し出ました。
夫婦は納得していないながらも「このままずるずる行ったら貯金がなくなってしまう」と思い、思い切って一部のアレンジを普通の状態に戻しました。
その結果、売り出し価格を変更しなかったにも関わらず家は3週間後に売れました。
買い手は夫婦の理想の家など望んでおらず、求めていたのは自分たちの家でした。
このことは、長い時間と大金を失った夫婦の手痛い教訓となりました。
カスタマイズしたハーレー
高級なバイクにハーレーがあります。
ある男性はハーレーにほれ込み、週末になるとハーレーの改造に時間をつかっていました。これまでにカスタムにつぎ込んだ額は4百万円ものぼります。
この状況を見かねた奥さんからは「もっと家族の時間をとって」「子供や家のことにお金を使って」とさんざん言われてきました。
しかし男性は「うるさい。これが俺の楽しみだ」「ここまでお金と時間をかけたのに今更辞められるか」と言ってお金と時間をかけ続けました。
結果、妻と子供は出ていきました。
あるとき、どうしてもお金が必要になった男性はハーレーを売ることを決心しました。
買い取り業者が一般的な相場そり10万円たかい「210万円」を提示したところ、「そんな安い値段で売れるか!」と言いました。
続けて「俺はこれに何百時間もつぎ込んで、400万円かけてカスタマイズし、妻と子供も失ったんだ」「800万円以上はする」と言い張って、買い取り業者を追い払いました。
他の買い取り業者を呼んだり、知り合いをあたってみても結局思っているほどの高値で買う人は一人もいませんでした。
男性は結局「売ってもいい」と思ったハーレーと引き換えに、400万円以上の大金、何百時間もの自由時間、妻と子供を失いました。
手放さない代償は大きい
どちらの場合も自分が持っているものを実際の相場以上に評価しています。
その結果、お金・時間・家族といった大切なものをどんどんと失っていく結果に至っています。
ここではカスタマイズしてお金と時間をつぎ込んだ家とバイクを例にあげましたが、他にも、彼氏や彼女、パートナー、プロジェクト、株など揚げればキリがありません。
現状で大きな損失を被っていて、将来的に改善する見込みがないのであれば早急に手放すべきです。それ以外に損失から免れる方法はありません。
手放す方法
手放すために必要なことは、自分が勘違いしている現実と乖離した価値観に気付き改めることです。
ポイントは次の2つを理解することです。
それはもう役目を十分に果たした。
もし今もっていないとしたら、もう一度同じだけの時間とお金をつぎ込むか?
それはもう役目を十分に果たした。
今あなたの手元にあるものは、購入した時点であなたにとって必要だったから手に入れたのです。
それを手に入れる過程や、手に入れてから、「楽しさ」「後悔」「学び」などたくさんの経験を与えてくれました。
もう、それはあなたに十分すぎるほどの役目を果たしています。
もし今もっていないとしたら、もう一度同じだけの時間とお金をつぎ込むか?
2つ目はゼロベース思考です。
「もし今もっていないとしたら、もう一度同じだけの時間とお金をつぎ込むか?」と自分自身に問いかけてみることです。
そうすれば「もったいない」以上に「必要ない」という感情に行きつくはずです。
追加で次の質問をしてみてください。
「もし今もっていないとしたら、それを手に入れるためにいくら払うか?」
そしてその時に浮かんだ金額はきっとあなたが最初に売りたいと望んでいた金額よりも小さいはずです。