企業は営利団体である以上、稼がなければいけません。企業の血液はお金でそれが尽きれば、企業は力尽きます。
だからといって、収益を優先しすぎると長期的な成功を掴むことはできません。
ここでは、収益よりも成長を優先させて成功した企業を紹介しています。
収益よりも成長を優先させた企業
インターネット時代の最大手で小国の国家予算ほどの資金力を持つGoogleは収益よりも成長を優先させてきた企業の代表です。
Googleが操業した翌年の1999年、Googleの検索トラフィックは順調に増大していました。当時検索を普及させるためGoogleはエキサイト@ホーム(Excite@home)と提携していました。
エキサイト@ホームはトラフィックからの収益性を上げることに注力し、お金を稼ぐことにありとあらゆる手を尽くしていました。
Googleも他のWEBサイトと同様にお金を稼ぐ機会がいくらでもありました。ですがGoogleはそれに見向きもせず、検索エンジンを改良することに全力を注ぎました。
結果として、エキサイト@ホームは2001年に経営破綻したのに対し、Googleはそこから20年以上たった今も成長を続けています。
Amazon
Amazonは今では株価が上がり続け、世界中の誰もが認める超成功企業です。
ですが、ずっと成功企業だったわけではありません。
創業は1993年でインターネット時代黎明期の期待される企業として注目されていました。しかし、2000年頃には世間でも酷評され株価が暴落する状態に見舞われていました。
リーマン・ブラザーズの調査では次のように言われていました。
かなりボロクソに言われている状態です。大量の批判を浴びています。
ですが、このときAmazonの創業者 ジェフ・ベゾスが目的にしていたのは成長の一点のみです。
オンラインで仲介をする商売に限界を感じ、「翌日配送」といった本物の顧客価値を提供するには巨大な物流倉庫が必要と考えたり、「ユーザーの購買行動を助ける」という理念の元、リコメンドの開発に大量の資金を投入していました。
その後何が起こったでしょうか?格付け機関から信用格付けで最高評価のAAAを貰い続けていたリーマン・ブラザーズはお金儲けだけを目的にした無茶苦茶な投資により経営破綻しました。
一方、Amazonはその後も成長を続け、今では世界で誰もが認める成功企業になっています。
相手の利益を優先する
収益よりも成長を優先させるとは、収益をあげるために成長することとは異なります。
あくまで目的は成長することです。
Googleの主な収益は広告配信によるものです。広告配信の初期の頃はGoogle単体で広告を集めることができなかったため、他に広告を配信しているAOLやアスク・ジーブスといった他企業の広告を代理的に表示していました。
広告がクリックされれば広告主からその代金がGoogleに払われます。一番問題になるところはその利益配分です。
Googleは常に相手に多く渡すようにしていました。それは利益よりも成長を優先していたためです。
AOLやアスク・ジーブスは自社の利益を最大化するため、非常に高い売り上げ目標を掲げていました。それは自社の広告枠だけではまかないきれず、Googleの広告枠もフル活用しました。
Googleの元製品担当上級副社長でプロダクトの統括を担当していたジョナサン・ローゼンバーグはわざわざAOLに出向いて「広告をあまり表示しない方がいいですよ。ユーザー体験が悪くなり悪影響が出ます」とアドバイスをしましたが、利益を最優先としている企業にそのアドバイスが受け入れられることはありませんでした。
2000年当時影響力があったのはGoogleではなくAOLです。
ITバブルの波で利益を最大化していたAOLは企業を買収し世界最大の複合企業と言われていました。しかしITバブルが崩壊しAOLの業績が悪化したことで影響力を失い、業績は伸び悩んでいきました。
「成長」と「利益」という異なる目標を追いかけた結果が数年そして何十年という月日を重ねる中で色濃く出ることになります。
技術の追求ではない
収益よりも成長を優先さたり、相手の利益を優先するとは、単に技術を追求することではありません。
「利益は後回しだ」と言って興味あることだけをおいかけて「俺らの技術は凄いだろう!」と自慢するのとは全く違います。利益を無視して自分たちの技術を突き詰めていった結果、まっているのは失敗です。
技術を追求しすぎてユーザーを置き去りにし、大赤字を計上したり破産した企業は数限りなくあります。
Googleは利益を無視して技術だけを追求していたわけではありません。次のような信念に基づいて行動をしています。
収益化する方法が必ず見つかると確信している
Googleが事業を始めたとき、利益を優先するよりも検索結果を改善することを目標としていました。それは、「今ははっきりとはわからないが、収益化する方法が必ず見つかる」と確信していたためです。
機が熟すのを待つ
目先の利益ではなく、成長を最優先の課題としたのは、圧倒的な技術やプラットフォームの優位性がないと一時的には利益をあげてもすぐに競合に追いつかれてしまうことを知っていたからです。
成長を最優先課題として、収益化に関しては自分たちの技術とプラットフォームがしっかりと整う機が熟すのを待っていました。
ユーザー体験の向上
最も重要なことは長期的に成長している企業は「ユーザーに目線を向けている」ということです。
自分たちの利益ではなく、これがユーザーの体験を向上させているか?もっといいソリューションが提供できないか?を第一においています。
Googleであれば収益ではなく「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」「ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる」という理念を追求し続けました。
Amazonはモノを売る企業ではありません。サイトに訪れた人々の「意志決定を助ける」企業です。
成長とは何か?
なおGoogleやAmazonが追求した成長とは技術革新だけではありません。優先したのは自分たちのサービスを広くいきわたらせることです。
スケールさせるともいいます。(拡大させるという意味です)
Googleは自社の検索エンジンを使う人たちが増えることを第一目標にしました。Amazonは大金を投じて物流倉庫をあちこちに建設し、ユーザーのよりよい購入体験を実現することを第一目標にしました。
このように人が自然と集まってくる、基盤となるインフラを作ることを成長としています。
インフラ(あるいはプラットフォームともいいます)に人が集まってくれば、お金も自然と集まってきます。お金が集まってくれば、商品やサービスにさらに投資することができます。
このため、人が自然と集まってくる基盤をつくりあげるための成長を優先することは、一時的に収益率や株価が下がる(成長しない)といったことが当たり前のように発生します。
企業にとって何を成長させるかはとても重要な問いかけです。
参考
この記事の内容はGoogleの経営陣 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジの共著「How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント」の内容の一部抜粋と要約です。
一国家と同等な資金を持ち、世界中で知らない人はいないほどのGoogleという大成功企業の中で、
- どのような制度が用いられ、どのような人たちが働いているのか
- 人のやる気を引き出し、周りが見たら無理だと投げ出したくなるような事業をどのように達成に導いてきたのか
- 優秀な人材を獲得するための方法
- 採用時にやってはいけないこと
などなど、これからの時代に欠かすことのできない内容がギッシリ詰まった一冊です。堅苦しくなくユーモアがあり読みやすい文体ですので、ぜひ一読されることをお勧めします。