経営者の仕事は未来について考えること|答えるのが難しく、聞かれて嫌な質問が変化を促す

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経営者にとって今目の前にあるビジネスのことを考えるのは大切なことです。しかし、それだけでは不十分です。

経営者は未来についても考えなければなりません。

未来について考えるときには、アイディアや妄想を膨らまし楽しく考えることもありますが、もう一つ重要な未来の考え方があります。

それは将来起こりうる変化や危機について考えることです。

ここでは、経営者が考えるべき未来の在り方や、具体的な質問についてまとめています。


危機や変化を考える

経営者にとって未来に向けて「これができたらいいな」「あれができたらいいな」と妄想を膨らませる以外に大切なことは、「将来起こりうる変化や危機について考えること」です。

これまでの歴史の中で大きな成功を掴んだ企業が、時代の変化や危機に耐えられず衰退し滅んでいきました。

コダック、リーマン・ブラザーズ、タカタ、日本航空、そごうなど、挙げればキリがありません。こうした企業は格付け機関からA以上の素晴らしい評価を得て、新聞やメディアなどでも取りざたされていた企業です。

こういった企業が潰れていった理由はほとんどの場合「自分たちがやってきたことにあぐらをかき、同じ路線上での変化しか生み出してこなかったため」です。

自分たちの地位を過信したり、改良を続けていたものの、既存の商品ばかりに目が行き過ぎてしまったことが原因です。

コダックの失墜はまさにこの通りで、自分たちのフィルムカメラの牙城こそが最強と信じその道だけを進んできた結果、デジタルカメラに市場を奪われてしまったことです。

point

経営者は、将来起こりうる変化や危機を考える義務がある。


簡単に答えの出ない、聞かれて嫌な質問を考える

将来の変化や危機を考える上で最も役立つのは、「目を逸らしたり耳を塞ぎたくなるような、聞かれて嫌な質問を考えること」です。

聞かれて嫌な質問の中には、現在の弱みや将来の危機が含まれています

アメリカにPCやソフトウェアでその名を馳せたサン・マイクロシステムズという企業があります。

当時、サン・マイクロシステムズは費用対効果で圧倒的首位を持っていました。そして会社のトップたちも、自分たちの費用対効果に自信をもっていました。

しかしそのとき、市場にはマイクロソフトのOSとインテルのCPUを使ったPC*が徐々に伸び始めていました。(*現在主流のWindowsのPC。ウィンテルPCと呼びます)

あるとき、サン・マイクロシステムズのCEOが「将来、ウィンテルPCの費用対効果がサン・マイクロシステムズの費用対効果を追い越したら何が起こるか?」という質問を投げかけられたところ、「ウィンテルPCの費用対効果が我々を上回ることは不可能だ」と答えました。

楽観的でかつ答えもない状態でした。

更に悪いことに、その後ウィンテルPCが市場で伸びてきてもサン・マイクロシステムズは何も対策をしませんでした

結果として、2009年にその事業を他者へ売却せざるを得なくなりました

point

将来起こりうる変化や危機を考えず、見過ごすことは将来の衰退と崩壊をもたらす。


答えが出なくてもいい

「聞かれて嫌な質問を考える」ことは、答えがわからず、それを考えることが難しいことでもあります

答えられないからこそ、多くの人が聞かれたくないと思うのです。

ですが、この質問を自分に投げかけるポイントは「すぐに答えがでなくてもいい」ということです。

自分たちに危機が迫っていることや変化の必要性を考えることが、安定を維持し変化を嫌う習性に抗う力を発揮するためです。

自分自身の危機や不安をあおる効果を、イギリスの文豪 サミュエル・ジョンソンは次のように語っています。

一週間以内に首吊り死刑になるとすれば、驚くほど意識を集中できるものだ。

point

ライバル企業があなたたちを本気で潰しにくる前に、社内の仲間からの問いかけで危機に気付き、不安になっておいた方がいい


ライバルは本気

あなたが成功の地位を得て楽観的に構えているときでも重要なことがあります。それは「ライバルは本気」だということです。

とびきり優秀で資金力が豊富なライバルは、あなたのビジネスを攻撃してきます。

どうやってあなたの弱点を突き、最も利益率の高い客層を奪い取るかを日夜考え続けています。

このため、既存のままの事業を続けていれば、その弱点を突かれ自分たちの市場はすぐに奪われてしまいます。

だからこそ、企業は自分たち自身で自分たちを破壊し生まれ変わり続けることを考え、変化と成長を続けていかない限り持続しないのです。


「何が起こりうるか」を考える

将来訪れるかもしれない変化や危機を考えるときは「何が起こるか」を考えていては答えは見つかりません。

そうではなく「何が起こりうるか」を考える必要があります。

現在の延長線上で考えるのではなく、自分の想像力を使って可能性を広げて考えることが、将来の変化や危機への解決策を見つける手助けになります


将来起こる危機や変化は誰もが「あり得ない」と思うこと

なお、将来起こりうる変化や危機というのは、あなたも含めてこの世の中にいるほとんどの人が「あり得ない」と思うことです。

馬車で移動していた人たちは、それから100年後に馬が街を走らなくなり、代わりに車という乗り物が町中を走っていることを一切想像できませんでした。

馬に乗っていた人に「将来、馬に乗らなくなる日がきて、鉄の塊でもっと遠くに早く移動できるようになる」と言えば「あり得ない」と答えたでしょう。

黒電話を使っていた人たちに「将来、電話が四角くて軽くて超小型の金属のプレートになる」と言ったとき、誰もが「あり得ない」と答えたでしょう。

リーマンブラザーズが格付け信用機関から「AAA」の評価を受けていたいたときに、あの会社は潰れるよと言えば、誰もが「あり得ない」と答えたでしょう。

2018年に「あと2年後に世界中を巻き込むウイルスが流行って、たくさんの人が亡くなり、各国が空港や移動を閉鎖するよ」と言えば、誰もが「あり得ない」と答えたでしょう。

他にも、電子レンジ、新幹線、パソコン、インターネットなどこの世の中は「あり得ない」の連続が続いています。

point

今「あり得ない」と思っていることが起こるのが、この世の中。


危機を察するための質問

自らの会社に訪れる危機を察するための質問には次のようなものがあります。

危機を察するための質問
  • 経営陣は日ごろから自社の商品を使っているか?
  • 自社の商品に夢中になっているか?
  • 自社の商品を大切な人への贈り物にしたいと考えるだろうか?
  • 何らかの理由でしかたなく使っていることはないか?
  • 仕方なく使っている場合、将来その理由がなくなることはないか?
  • 他の選択肢が現れたら、顧客はどちらを選択するだろうか?
  • あなたの商品を使っている人に、第三者が他の商品を勧めたら簡単に乗り換えるだろうか?
  • 現在発売している商品のどれだけが、自社独自の技術に基いているか?
  • こらから発売予定の商品の中に、どれだけ自社独自の技術の製品が含まれているか?
  • 経営の上層部に、どれだけ現場出身の人がいるか?
  • 最高の商品を生み出すうえで、最も影響力が大きい社員に対し、報酬や昇給で十分に報いているか?
  • 経営陣は人材採用を最優先課題にしているか?
  • 経営幹部は実際に人材採用にどれだけの時間を割いているか?
  • 優秀な社員のうち3年後も会社に残ってそうなのはどのぐらいか?
  • 社員はどれだけの自由を手にしているだろうか?
  • 本当に優秀で発想力豊かな人は、役職によらず自分のアイディアを追求する自由を与えているだろうか?
  • 新規開発商品は利益率ではなく、商品自体の優位性に基いて判断されているか?
  • 社内の意思決定プロセスは、最高の判断を生み出しているか?
  • 情報を囲い込む人ではなく、質の高い情報を共有する人を評価しているか?
  • 部署割などで社員同士のコミュニケーションや接触を阻害していないか?
  • 会社の立地は商品やサービスを提供するのに適切な場所か?
  • 会社の立地は優秀な人材を獲得するのに適切な場所か?

これらの質問を常に考え続けることが、将来の変化や危機に強く、持続的な成長を続ける企業になるカギとなります。


参考

この記事の内容はGoogleの経営陣 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジの共著「How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント」の内容の一部抜粋と要約です。

一国家と同等な資金を持ち、世界中で知らない人はいないほどのGoogleという大成功企業の中で、

  • どのような制度が用いられ、どのような人たちが働いているのか
  • 人のやる気を引き出し、周りが見たら無理だと投げ出したくなるような事業をどのように達成に導いてきたのか
  • 優秀な人材を獲得するための方法
  • 採用時にやってはいけないこと

などなど、これからの時代に欠かすことのできない内容がギッシリ詰まった一冊です。堅苦しくなくユーモアがあり読みやすい文体ですので、ぜひ一読されることをお勧めします。



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