多くの人が出費を抑えたり、なるべき安くモノを買いたいと考えています。多くの企業が努力して少しでもコストカットし商品価格を抑えるために必死になっています。
商品の値段は安い方がいいと考えている人がたくさんいますが、実際にモノを買う段階になると消費者は予想とは異なった行動をすることがあります。
ここではモノを売る時は安いほどいいとは限らない例について解説しています。
2倍の値段をつけてしまった宝石店
アメリカにある宝石店にずっと売れ残っていた宝石がありました。店主はどうしてもさばきたいと考え従業員に「そのケースの宝石の価格を1/2にして」というメモを渡しました。
従業員はそのメモの数値を「2」と見間違えて、全ての宝石の値段を2倍に設定しました。
一定期間して店主がお店に戻ってみるとなんと2倍の価格にも関わらず宝石が全て売れていました。
なぜ2倍の価格で売れたのか?
それはお客さんが行っていた簡易的な価値判断方法のためです。
宝石の価値はよほどの目利きでない限りわかりません。じっくりと眺めたり、他店の商品と比較したり、特徴を細かく調べることは時間がかかります。
素人はそこまでの知識もないですし労力をかけたいとも思っていません。
そこで「価格が高い」=「品質がいい」という基準を使って商品を選んだためです。
この基準は宝石のように比較が難しく、本質的な価格のわかりにくいもので適用されやすい傾向があります。
ですが、他の商品でも成り立つことがあります。特にひと昔前の人たちは「日本製の品質がいい」「中国製品はダメ」といったように、安いモノを買うと損をするような実体験をしたり、そういった話をたくさん聞かされてきた人たちでした。
そのような人たちは「価格が高い」=「品質がいい」と考えている人が大勢います。
よく「これは〇〇円した」と自慢げに話している人がいますが、そういった人は価格で品質を判断しているタイプの人です。
パートナーへの指輪のプレゼント
彼女や妻などパートナーにプレゼントする指輪も「価格が高い」=「品質がいい」と判断されるものの代表です。
ある男性が友達のジュエリーショップに指輪を買いに行きました。指輪には価格が表示されていません。その人が選んだ指輪は5万円のものでした。
店主は男性のため割引をしようと気をきかせて「2万円だ」と伝えました。すると男性は買うのをやめてしまいました。
というのも、その男性は「安すぎて、パートナーには不釣り合い」と考えたためでした。これこそ「価格が高い」=「品質がいい」という思い込みの典型例です。
そこで店主は別の指輪を勧めました。男性はそれを気に入りました。その指輪の価格も同じく5万円でした。
先ほどの例で学習した店主は今度は次のように告げました。「それは5万円する品だ。私からのお祝いの気持ちで2万円にまけておくおよ」
すると男性は喜んで2万円という価格で購入しました。
人は同じ2万円払う場合でも、元値が2万円のものを買うのと、5万円のものを2万円で買うのでは感じ方が全くことなるということです。
直感的な思考は効率的
私たちの思考には2パターンあります。それは「直感的な思考」と「考える思考」です。
「考える」という行為はエネルギーを消費し疲れることです。1日の中で考えられる量は決まっていますし、できるなら楽をしたいと考えるものです。
そういった場合「直感的な思考」はとても便利な代物になります。疲れることなく即座に答えを導きだしてくれます。
「価格が高い」=「品質がいい」はまさに直感的な思考の代表例です。
直感的な思考は現代では危険
私たちの本能は狩猟採集時代に作られたものです。というのも、私たちヒトが狩猟採集をしていた時代は約20万年。それに比べて、産業革命が起き資本主義になったのはここ300年程度の話です。
狩猟採集の時代にはじっくり考えて立ち止まっていたら、たちまち獣などに襲われて命を落としてしまいます。
走って逃げている人を見かけたら一緒に走って逃げるという直感的な思考こそが生き残るために必要でした。
しかし現代社会ではそういった命の危険はありません。むしろ、人の直感的な思考を上手に使った商売がそこかしこに張り巡らされています。
直感的に「価格が高い」=「品質がいい」と考えていると、どんどんとお金を失っていく結末になりかねません。
直感的な思考の例
人が持つ直感的な思考には「価格が高い」=「品質がいい」以外にもいくつかあります。
専門家が言うなら間違いない
よくあるのが「専門家が言うなら間違いない」というものです。専門家に聞いて、その人が言ったことなら疑いもせずなんでも鵜呑みにしてしまいます。
最たる例になると、その専門家の専門分野以外のことまで信じるようになります。専門家はその専門分野以外では素人にも関わらずです。
他にも成功している経営者や有名な政治家など社会的な地位や権力を持っている人の言う事を、鵜呑みにして信じてしまうことが往々にしてあります。
機長症候群
専門家が言うなら間違いないの実例で「機長症候群」というものがあります。
これは副操縦士が「自分はおかしいと思っても、機長がいったことなら間違いない」と考えて操縦した結果大事故に至るものです。
ある時、米軍のある副操縦士はウザル・エントという有名な大将を隣に乗せて飛ぶことになりました。副操縦士はこの機会を大変名誉に感じていました。
離陸するときウザル・エントは歌を口ずさみながら、歌に合わせて首を上下に軽く動かしていました。副操縦士はこの首の動きを「車輪を上げろ」という合図と勘違いし、離陸速度に達していないにも関わらず車輪を挙げてしまいました。
結果として、機体は地面に叩きつけられ折れたプロペラの羽根がウザル・エントの背中に突き刺さり、半身不随となってしまいました。
直感的な思考を防ぐ方法
直感的な思考を防ぐ方法は「真剣になり、内容に耳を傾ける」です。
ミズーリ大学で直感的な思考の影響を調査するため次のような実験が行われました。
学生全員に「この専門家のスピーチをみなさんが卒業した後、4年生全員の卒業試験とし合格できなかったものは卒業させないというシステムを組み込むつもりである」「ただし、試験的に1度だけ来年実施する可能性がある」と伝えました。
この試験の対象は来年4年生になる人たち(3年生)だけということになります。そのほかの学生は在学中にテストが行われることはありません。
その結果、この専門家のスピーチを聞いた3年生以外の試験に関係がない学生は「専門家がいうなら間違いない」という姿勢で聞きました。
一方、卒業できるかが関わってくる3年生は、専門家が言っているかどうかに関係なく、内容そのものに耳を向けじっくりと聞いている傾向が見られました。
参考
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。