人は不満を持つ生き物です。そしてそうした人が集まる会社などの組織で人をまとめチームを率いる立場にいるマネージャーやコーチは人の不満や愚痴と対峙しなければいけないポジションでもあります。
メンバーの不満や愚痴への対応が下手な場合、チームのモチベーションが低下したり、人が辞めていくといった事態に発展します。
ここでは、マネージャーやコーチとしてメンバーの不満や愚痴への下手な対応方法と、上手な対応方法についてまとめています。
下手な対応方法
メンバーの不満や愚痴に対する下手な対応方法は次の3つです。
押しつぶす
不満や愚痴への対応方法でもっとも下手なのが「押しつぶす」です。
「この仕事やる意味がわかんないんですけど」とメンバーが言ってきたときに、「仕事なんだから、黙ってやれ」「命令されたことに従っていればいいんだよ」「意見するな」という人たちです。
こういったマネージャーやコーチは人の上には立ってはいけない人です。それは人としてという側面もありますが、長期的に見てチームを衰退させ滅ぼす危険性が非常に高いためです。
自分の上の立場の人から、自分の発言を禁じられたメンバーは、その組織において自発的な行動をとることがなくなります。意見を言ったら否定や批判され潰されるので当然です。
結果として、自分で考えない指示待ち人間がどんどんと製造されていきます。
また、自分で考えて行動ができる優秀な人たちはどんどんと辞めていきます。自分の意見が通らず、他人のやり方を強要されるので当然です。
すなわち、愚痴や不満を押しつぶすマネージャーやコーチは次のような人物です。
そのような人物が人の上に立っているのであれば即刻辞めさせるか変えるべきです。それができないのであれば、その組織を去ることが自分の人生を有意義に送るために最善の決断になります。
すぐに聞き入れる
不満や愚痴への対応方法で2番目に下手なのが「すぐに聞き入れる」です。
一見するとすごく優しく、理解が深くいい人のように見えますが、ただの良い人どまりです。成果を出すことが求められるチームで人の上に立つには好ましくありません。
「この仕事やる意味がわかんないんですけど」とメンバーが言ってきたときに「なるほど。じゃあ別の仕事をあげるよ」といってすぐにその意見を聞き入れて譲歩するのでは、わがままで上をナメたメンバーが育つだけです。そこにはスキルや精神の成長もありません。
メンバーが抱くのは「あいつに言えば、すぐに意見を取り入れてもらえる」「めんどくさくて嫌なことは、あいつに言えば変えてもらえる」という感情です。
チームの中でずる賢く楽をする人と、そのしわ寄せを受ける人が発生します。そして、しわ寄せを受ける人は良い人で仕事ができる人である場合がほとんどです。
その歪はやがてしわ寄せを受けた優秀な人を疲弊させ、退職や辞職へと追い込みます。チームにはずる賢く仕事をサボり続けてきた人が残ります。
共感して終わる
不満や愚痴への対応方法で3番目に下手なのが「共感して終わる」です。
「この仕事やる意味がわかんないんですけど」とメンバーが言ってきたときに、「そうだよね俺もわからない。ほんと嫌になるよね」と言って、メンバーの心に寄り添います。
メンバーが「自分の気持ちを理解してもらえた」と感じた後に、「でも、仕事だからさ、お願い頼むよ」と伝えれば、メンバーは「しょうがないですね」といいながら仕事を前に進めます。
「押し付ける」や「すぐに聞き入れる」よりはマシな方法ですが、「共感する」だけでは不十分です。
なぜなら、愚痴や不満を一時的に和らげただけで、根本的な問題を何一つ解決していないからです。
こういった組織では、何度も何度も同じ愚痴や不満が繰り返され、それはマンネリ化し「このチームはその程度」「しょうがない」「どうしようもない」という意見が蔓延していきます。
それはチームの変化や成長を止め、長期的に見てゆるやかな衰退を辿ります。そして気づいたときには変わることができない危機的な状況に陥ります。
上手な対応方法
不満や愚痴への上手な対応方法は次の3つのステップを踏むことです。
共感する(しっかりと耳を傾け聞ききる)
まず最初にすることは「共感する」ことです。共感するとは「そうですね」と表面的な相槌を打つことではありません。
「そうですね」という相槌は相手に「この人適当にうなづいているだけで、私の気持ちを分かっていない」という感情を抱かせます。
相手の言っていることだけでなく、仕草や声のトーンにまで耳を傾け意識的に聞くことに集中することが大切です。
その上で「あなたの言っていることがわかった」「こういう気持ちなんだね」と伝えることが共感です。
具体的な理由を訊ねる
相手にしっかりと共感をすると、相手は「私の気持ちを理解してくれた」という感情を抱きます。そうしてようやくこちらの話に聞く耳を持つ状態になります。
その状態になったら、愚痴や不満の具体的な理由を訊ねて確認します。
例えば「意味がわからないって言ってるけど、具体的にどこがわからないかな?」「嫌だ、面倒くさいと言っているけど、例えばどういうこと?」といったように訊ねます。
すると「〇〇のところです」といった返事が来るので「なぜ、そう思うの?」といったように、相手の感情の根本まで掘り下げていきます。
すると「この仕事やる意味がわかんないんですけど」という愚痴や不満が、「〇〇のところで、私はこうした方がいいと思うのですが、△△するのはあまり意味がないと思っています」といった具体的なところまで掘り下げることができます。
この時点で、相手が意味がわからないといっているのは仕事自体ではなく、ごく一部のところだということがわかります。
相手が自分で答えを導けるようにする
相手が何に愚痴や不満を持っていて、どうして欲しいか(どうしたいか)までわかったら、次はその解決策を決めます。
このときに「それは~だよ」と言って答えをすぐに教えることは避けるべきです。相手の成長にもつながらず、かつ押し付け感が生まれます。
そうではなく、相手が自分自身で答えを導けるようにすることです。
例えば、仕事の意図に組織のミッションやビジョンあるいは倫理的な意味があれば、「なるほどね。そこに関しては、会社のミッションである〇〇が大きく関係しているんだけど、なぜそれをやることにつながると思う?」といったように、相手自身が考えるヒントを与えます。
相手が自分の中から答えを見出した場合、相手は納得しやすく、そしてその意味を忘れることがありません。
よりモチベーションを持ってその仕事に取り組むことができます。
代替案を提示する
もし、相手の言っていることが妥当であったり、本当にやりたくない理由があれば、代替案を出すことも重要です。
人には特性があります。チームを率いるときに重要なことの一つに「メンバーを適材適所に配置する」というものがあります。
超一流のプログラマに、他の人もやっているからという理由で営業をやらせると、それはその組織にとって損失でしかありません。
相手がなぜ愚痴や不満を言っているのかをしっかりと理解した上で、チームとして最高のパフォーマンスを発揮できるように、その愚痴や不満を解決することがコーチやマネージャーのするべきことです。
挑発の有効活用
愚痴や不満を言っている人に対してそれを吹き飛ばす有効な方法の一つに「挑発」があります。
これはただ楽をしようとしていたり、めんどくさいから嫌だと思っているような人に対して非常に有効です。
例えば「こんな仕事やってられない。モチベーションが下がった」と言ってやる気をなくしている人がいたら「ふーん。そうですか。じゃあ、いつ辞めるの?退職手続きを進めましょうか?」といってあおります。
すると、相手はドキッとして、ダラダラしていたら解雇されるということを思い出します「いやいや冗談ですよ」と言って仕事に戻ります。
人間関係が構築できていること
ただし「挑発」を使うには相手との人間関係が構築できている必要があります。相手とあなたとの間に人間関係ができていない場合、挑発に対しては「恐怖による服従」か「反発」のどちらかの反応が生じます。
人間関係ができていない状態で挑発すると、相手が弱気なタイプの場合、委縮して恐怖を感じ服従することになります。
それは表面的に従っているだけで内心は全く異なります。本心をあなたに打ち明けることはなくなります。その状態がずっと続けば、行きつく先は、体調や精神を崩して病むか、びっくり退職で急に辞めていくかのどちらかです。
相手が負けん気が強い場合は「こんなところ辞めてやるわ!」といって自体が悪化します。
挑発はあくまで、冗談や愚痴や不満を気兼ねなく言えるような関係性のときに使えるものなので、注意が必要です。