日本には「愚痴や文句は言ってはいけない」「我慢が美徳」といった文化がありますが、本当に強いチームを作る上でそういった精神論はマイナス要素になります。
むしろ、愚痴や文句はチームのことを考えているからこそ出てくるものでもあります。マネージャーや社長にとって社員の愚痴や文句はチームを改善するチャンスです。
ただし、愚痴や文句をチャンスに変えるには、会話の進め方がとても重要です。ここでは、愚痴や文句がなぜチャンスなのかや、そこから改善を引き出すための会話方法についてまとめています。
愚痴や文句の弾圧がチームに損失を招く理由
「愚痴や文句を言う事は悪いことだ」としてそういった発言を弾圧や制限することは、一時的に効果があるように見えても、長期的に見るとチームを弱体化させます。
なぜなら、愚痴や文句を言う人は現在の仕事に関して何らかの問題点を抱えているためです。そして、それらの問題点を口に出せないということは自分の内側にストレスをため込んでいくことと他なりません。
その抑圧されたストレスは次のような形で噴出するのが一般的です。
自分の感情や存在を大切にしてくれない組織に対して、同じような報復を与えてもいいと思うのが人間です。その気持ちは、チームに危害を加えたり損失を与えても別に構わないといった無関心へとつながっていきます。
また、抑圧されたストレスはどこかで発散されない限りなくなりません。そういったストレスは自分自身を傷つけたり、あるいは会社の外で発散されたり、チームの仲間、特に自分よりも弱い立場にいる人、に対して向けられます。
愚痴や文句はチームのことを考えている証拠
愚痴や文句を言う人の中には、チームに危害を与えたいというよりも、もっと効率よく進めたい、もっと改善したいという気持ちを持っている人が少なくありません。
「あの人あんなことばかりして許せない」「なんでこんなに効率の悪いやり方してるの」「めんどくさい」「残業なんかしたくない。早く帰りたい」という声が、愚痴や文句です。
それらは、現在の業務や誰かの仕事の進め方には「改善する余地がある」というメッセージに他なりません。
愚痴や文句を言う人を「グチグチ言うな」「文句ばっかり言うな」「仕事なんだから」といって一刀両断することは、チームの改善の芽を潰すことでもあります。
つまり、愚痴や文句はチームを改善するチャンスに他なりません。
建設性を最重要視する
マネージャーや上司が愚痴や文句と向き合う上で最重要視すべきことがあります。それは「建設的であること」です。
「建設的」という言葉はそこかしこで耳にするものの、その意味をしっかりと捉えられている人は少ないかもしれません。
建設的とは「現状をより良いものに変えていこうとする姿勢」のことです。
愚痴や文句が出たら、その不満を改善してより良いものに変えていこうという姿勢こそが建設的ということです。
そういった意味で、愚痴や文句を改善のチャンスと思うことも建設的なことです。
愚痴や文句を要望にして言い返す
建設的に話を進めるポイントは「愚痴や文句を要望にして言い返す」ことです。相手の「~が嫌だ」という気持ちを「~したい」に言い換えるといことです。
例えば、「残業ばっかりでいやになる」という文句であれば、「早く家に帰りたいんですね?」といったように「~したい」に変換します。
すると相手は「そりゃそうですよ」と言ってきます。
そうしたら「では、次のチームミーティングでみんなの残業時間と業務内容を見直して、どこがボトルネックになっているのか議論し、残業を減らせるようにみんなで話し合ってみませんか?」と提案します。
すると文句を言った本人はノーとは言えず、「そうですね。わかりました」と言って受け入れるでしょう。なぜならそれが彼の要望だからです。
そしたら「では、あなたがミーティングをリードしてくれませんか?私がサポートします」と言って任せます。
すると、業務内容の見直しだけでなく、みんなが協力し合って話し合う場を作り出し、かつ文句を言っていた社員にミーティングの場をリードさせるという成長の機会を与えることができます。
たった一つの愚痴や文句から、チームを強化する改善がこれだけ生まれるわけです。
これこそが、愚痴や文句はチームを改善するチャンスだといわれる理由です。
愚痴や文句を要望にして言い返す例
愚痴や文句を要望にして言い返すことはあらゆる文句や愚痴に応用可能です。
「〇〇さんが話を聞いてくれない」
「〇〇さんが話を聞いてくれない」という文句が出たら、すかさず「〇〇さんに話を聞いてもらいたいんですね」という要望に変換します。
すると文句を言った人は「そいうです」と言います。そうしたら「〇〇さんに直接そのことを伝えてみましたか?」と聞きます。相手が「いいえ、まだです」と言ったら。
「では、次回のチームミーティングで〇〇さんにその要望を伝えてくれませんか?私がサポートします」と伝えます。
すると、その人が抱えている問題が解決するだけでなく、〇〇さん自身が問題行動を認識でき、チームの中で率直に話す場もできます。
「こんな仕事やってられるか」
「こんな仕事やってられるか」という愚痴が出たら、「この仕事をやりたくないんですね?」と要望に変えて聞き返します。
すると「当たり前でしょ!」と返ってきます。そうしたら「なぜやりたくないんですか?」と聞いてみます。
すると「だって、~だし、それに~じゃないですか」という理由が返ってきます。
そうしたら「確かにそれは問題ですね、では次回のチームミーティングでそのことについて話し合ってみませんか?」と言います。すると相手はノーとはいいません。
「では、あなたがこの話題についてミーティングをリードしてください。私がサポートします」と伝えれば、チームが改善の方向へと向かって動き出します。
間違った愚痴や文句への対処
建設的な姿勢(物事をいい方向へ改善しようとする姿勢)が伴わない愚痴や文句への対処法は、チームを改善しないので注意が必要です。
受け流す
「そんなこと言ってないで」「まあまあ」といったように誰かの愚痴や文句を受け流すことは、何も改善を生みません。
愚痴や不満がそのまま放置され、今後も何度も何度も顔をだすことになります。
共感する
「ほんとそうだよね」「私も嫌い」といったように共感することも、何の改善にもつながりません。傷の傷のなめ合いになって終わるだけです。
愚痴や文句を聞ききる
愚痴や文句を改善につなげるときに一つ重要なことがあります。それは相手の話を聞ききるということです。
なぜなら愚痴や文句を言う人というのはストレスが溜まっていたり、心が傷ついています。そういう時に人は前向きな心は持てないものです。
建設的に前を向くために、まずはしっかりとガス抜きをすることが重要になります。
「それは大変だね。何が不満か詳しく話して」「他にもある?」「他には?」といったように話を聞ききります。
相手が全部言い切ったという状態になったら、「じゃあ、すぐできることは何かな?」「改善するためにどんなことができると思う?」と言って前向きな話につなげます。
すると、相手は建設的に思考を巡らせて自分にできそうなことを考えるものです。
「今忙しい後にして」「5分だけ聞く」「今日はこれくらいにしてまた今度」と言うべきではありません。それは解決を先延ばしにしたり、不満を蓄積させていくだけです。
参考
この記事の内容はモルガン・スタンレーやGoogleで人材育成や組織開発を率い、自身も起業家であるピョートル・フェリクス・グジバチさんの著書『世界最高のチーム グーグル流「最少の人数」で「最大の成果」を生み出す方法』の一部要約に個人的な見解を加えたものです。
本書は現代の組織に求めれているものは何か?それを得るためにはどうすればいいかが具体的かつ論理的に記されています。
使われている用語は専門用語ではなく、誰にでもわかりやすいものになっていて、例も豊富に乗っている非常に実践的な良書です。
会社を率いている人や部署を率いている人、あるいはマネージャーを目指している人の必読書といえます。
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