「選択肢が多ければ多いほど幸せになる」と考えている人がほとんどです。
よりたくさんの幸せを手にするために学校で我慢して嫌な勉強をし、より高い給料やお金を手に入れるために我慢して働きます。
人脈を増やし、あらゆる情報を入手してより賢くなろうとします。
ですが、最新の研究により選択肢を増やしても人は思っているほど幸せにならないことがわかっています。
むしろ選択肢を限定的にした方が幸福になることがわかっています。
ここでは、なぜ選択肢を限定的にした方が幸福になるのかの理由について解説しています。
選択肢と幸福度
アメリカで数々の賞を受賞している著名な社会心理学者 ダン・ギルバートは選択肢と幸福について次のような実験を行いました。
フィルムカメラで写真を撮る授業を行います。学生たちはそれぞれカメラで写真を撮り、その中で最高に気に入った2枚だけを暗室(フィルムカメラを現像する部屋)で現像します。
お気に入りの2枚の写真を手にして出てきた学生に次のように告げます。
「2枚のうち1枚は研究でつ使うためこちらでいただきます」
その直後に、次の言葉を添えます。ここがポイントで学生たちを2つのグループに分け言葉の内容を変えます。
つまりグループAの方が選択肢が多く、グループBは選択肢がないという状態です。
そして、一定期間が過ぎた後に、それぞれの学生に対して自分の選んだ写真に対してどれぐらい満足しているかを調査します。
すると結果は、グループAの学生あまり満足していない(どちらかといえばアンハッピー)だったのに対して、グループBの学生はとても満足していました。
そして、この状態は交換期限の4週間が過ぎた後も同じ状態でした。
つまり、選択する権利があった学生たちは、選択権を失った後も満足することができなかったということです。
自分は幸福だと言い切った人たち
あなたが思う幸福な状態とはどのような状態でしょうか?
お金があって高級車を何台も持ち、豪邸に住み、海外を旅行し、豪華な食事をして暮らす。周りからの評価も高い。
大多数の人はこのような状態であれば「幸せだ!」と思います。
では無実の罪で30年間刑務所に入れられたり、大きな失敗により富、名誉、権力などこれまで築きあげてきた全てを失った場合はどうでしょう?
最悪なほどまでに不幸だと感じると思います。
ですが私たちの描くイメージと実際に感じる幸福度には大きな差があります。
37年間無実の罪で刑務所にいた人
アメリカのモリース・ビッカム(Moreese Bickham)という男性は41歳のときに白人警官を殺害したという罪で有罪判決を受けて逮捕され拘置所に入れられました。
そして37年もの月日を経てDNA鑑定などが行われた結果、無実であることが判明しました。そして78歳で晴れて釈放されました。
モリース・ビッカムは次のように語っています。
何一つ後悔はない。栄光のある経験をした。
これは、あらゆるものを手に入れて王になった人の言葉ではありません。37年という考えられないほどの長さをほぼ全ての自由の失ていた人の言葉です。
スキャンダルで辞職した議員
アメリカで下院議員長を務めたジム・ライト(Jim Right)は自分のアシスタントが過去に犯した罪を方を操作してもみ消そうとしたことが明るみになり、全米中からバッシングを受けて議員を辞職しました。
これまで築き上げてきた、地位、名誉、権力など全てを失いました。
そのジム・ライトは次のように語っています。
身体、精神、経済などほぼすべての面で良くなった。
心と体と経済面で人生が良くなればこれ以上にないほどに良い状態です。
それを、スキャンダルによって全米中の晒しものになり、国民から嫌われ、大々的に職を追われた人が語っています。
両手、片足がない人
スウェーデンのレーナ・マリア(Lena Maria Vendelius)は、生まれたときから両手がなく、左足も半分の長さしかない子供でした。
他の人たちが当たり前に持っているとても重要な器官を持ち合わせていませんでした。
ですがレーナ・マリアは次のように語っています。
好きなこと、やりたいこと、体験したいことがたくさんあります。そのどれもが可能性に満ちていると思います。
私が生きるのに必要な力や喜びは、すべて神様が与えて下さることがわかったので、私には足りないと思うことがありません。
ここまでの例で示したように、私たちが「最悪」とイメージするような状況に実際に陥った人たちは、私たちが思っているほどに「最悪」と悲観していません。
それどころか、感謝し自分自身は幸福だと感じています。
2種類の幸福
社会心理学者 ダン・ギルバートは幸福には2種類あるといっています。
1つは「人工的な幸福」、もう一つは「生み出された幸福」です。
人工的な幸福
「人工的な幸福」とは何かを得ることで感じる幸福のことです。
高い給与、高級車、ブランド品、家、かわいい彼女、かっこいい彼氏など、何かを手に入れたときに感じる幸せです。
私たちが一般的にイメージする幸せです。
人工的な幸福は平均して3か月間しか持続しないことがわかっています。
例え宝くじで10億円あたっても、3か月後にはそれが普通になってしまい、そこから幸せは感じられなくなるということです。
このため、どんなにいい給料や、ブランド品、高級車、豪邸、素敵なパートナーを得たとしても、3か月後にはそれに飽きてしまい、他のものが欲しくなります。
そしてねずみのように、滑車の中をぐるぐる走り回り、短期間しかもたない幸福を繰り返し追い求めます。
生み出された幸福
「生み出された幸福」とは私たちの頭の中で「自分は幸せだ」という気持ちが自然発生的に生まれるものです。
「37年間無実の罪で刑務所にいた人」や「スキャンダルで辞職した議員」、「『急いでイギリスに送らなければいけないから、二度とあなたの手に戻ることはありません』と言われた学生」が感じている幸福が、生み出された幸福にあたります。
「何も得ていないのに私たちの体の中で生み出された幸福は持続力が極端に長い」という特徴があります。
例えば、37年間無実の罪で刑務所にいたモリース・ビッカムさんは3か月後も「何一つ後悔はない。栄光のある経験をした」という想いを抱いています。それは何十年の時を経て死ぬまで持続することも十分にあります。
2つの幸福は相性が悪い
一つ重要なポイントがあります。それは「人工的な幸福」と「生み出された幸福」は非常に相性が悪いということです。
両者はトレードオフの関係にあるので、「人工的な幸福」を選べば「生み出された幸福」を感じることはできなくなります。
逆に、「人工的な幸福」を捨てれば「生み出された幸福」を感じることができます。
この相性の悪さはダン・ギルバートの実験の結果からもわかります。
写真を交換できる権利を持っていた学生は、4週間たちその権利を失った後も「人工的な幸福」の結果をずっと持ち続けました。
決して自分たちの中から幸福を生み出すことはありませんでした。
幸福の勘違い
多くの人が勘違いしている
私たちのほとんどは幸福に2種類あることを知りません。そして両者には持続力や相性の悪さなど明確な違いがあることも知りません。
このため多くの人が「選択肢が多い」=「幸せ」という勘違いをし、選択肢を増やす決断をします。それが不幸につながるとは知らずに。
ダン・ギルバートはフィルム写真の追加実験をしました。それは学生にコースを選ばせるということです。
結果はAコースが66%、Bコースが33%になりました。以外にAコースを選んだ人が少ないと感じますが、有名大学の心理学コースを受講している人ですらそういった心理的なミスを犯しやすいということです。
なぜ「選択肢が多い」=「幸せ」と勘違いしているのか?
多くの人々が「選択肢が多い」=「幸せ」という勘違いをしているのには理由があります。
それは現代社会が資本主義社会でモノが売れないと社会が回らないからです。ショッピングモールに僧侶ばかりが集まってはモノは売れません。
このためあらゆる企業や政府は人々にモノを買うように勧めます。消費が良いことだと伝えます。
「良いモノを手に入れよう」「これが手に入ればあなたは幸せになれる」というCMがそこら中で流されています。
その結果、私たちは「幸せ」は「欲しいモノを手に入れること」だと勘違いして、たったの3か月しか持たない幸福を追い求めて、汗水たらして働き続けます。いつか永遠の幸せが来る日を夢見ながら。
自ら選んだ不便が幸せな理由
幸福の研究に関しては「自分で選択する」ことが幸福に影響することがわかっています。
人が持つこの性質と「生み出された幸福」の性質を組み合わせると、「自ら選択肢がない不便な道を選択する」と長期的な幸福を得ることができます。
山が好きで自ら不便な山小屋での暮らしを選択する人がいます。近くにスーパーや電気屋さんはありません。選択肢はものすごく限られています。
ですが、そういった人たちは高給を貰い、高級車や豪邸を持っている人よりも幸せを感じています。
自分の進む道を一本に絞り他の選択肢を捨てる人がいますが、それは幸せになるという観点からいうと正しい選択です。
モノや情報が溢れる現代だからこそ「人工的な幸福」の矛盾に気付いている人が増えてきています。それが、断捨離やミニマリストとして流行しているのです。
断捨離やミニマリストは自分たちで気づいて社会的な洗脳から脱した賢い人たちということです。
きっと私たちも感じているのではないでしょうか?大人になり地位やお金、情報を手に入れた状態よりも、子供の頃、お金もなくごく限られた能力や環境で遊びまわっていた方が楽しかったことに。
ダン・ギルバートさんは次のように語っています。
私たちは幸福を生み出す能力を持っている。
参考
この内容はTEDトークのダン・ギルバートさんのプレゼンテーションの内容を一部抜粋・要約したものです。
全編については下記をご参考ください。