昨今では新規事業の立ち上げにあたってビジネスプランやアイディアコンペが開かれることが多くあります。それも、企業主催だけでなく地方自治体や国などの行政が主導して行っているものもあります。
コンペには参加者か主催者かで大きく2種類あります。
- 自分のアイディアをブラッシュアップする。
- アイディアをコンペで募集する。
1の場合、コンペに参加すれば事業のストーリーやプランを練り上げられるとともに、フィードバックを得られ、時には賞金がでることもあります。
ずっと温めてた事業をやるにあたってビジネスプランコンペに参加して実現可能性を探ろうという人も多くいます。
2は上手いアイディアが浮かばない場合にコンペでアイディアを募集する方法もとられます。よく地方自治体などの行政が行う方法です。
ですが、ビジネスプランのコンペはいいこと尽くしではなく、参加&実施することで事業アイディアが上手くいかなくなることがほとんどです。
実際、ビジネスプランやアイディアのコンペでたくさん入賞している人が多くの事業を成功に導いているかというとそうでもありません。
コンペに一度も参加せずに自分で事業を始めて軌道に乗せている人の方が多かったりします。
ここではビジネスプランやアイディアのコンペに参加することがなぜ事業アイディアを潰すのかについて解説しています。
また、外部業者などのコンサルタントに事業のアイディアを描いてもらうリスクについても合わせて解説しています。
5つの問題点
ビジネスプランやアイディアコンテストには次の5つの問題点が潜んでいます。
審査員が不適切
ビジネスプランのコンペは国や地方自治体などの行政が、まちの未来を担う事業を発掘するために行うことが一般的です。
事業が大きく成功していてノリに乗っている地域で実施されるよりも、衰退している地域で実施されることの方が多いです。自分たちでは思いつかないアイディアを他の人に考えてもらおうという姿勢です。
そういったコンペの審査員は次のような人がほとんどです。
新規事業を自分で立ち上げ、軌道に乗せた経験がない人たちが集まっています。
そういった人たちがプランやアイディアを審査し、あれやこれやといろいろと口を出します。
結果、落とされた事業と入賞した事業のどちらもが、現実社会で成功する可能性を秘めた事業とは乖離したものになるリスクがとても高くなります。
入賞できないと事業がダメだと勘違いする
落第者の烙印
自分の中でずっと温めていて、いつかやってみたいと考えていたビジネスプランを「ここで実現性があるか試そう」と思って参加した場合、
本来は上手くいく可能性の高い事業でも、不適切な審査員によって落第者の烙印を押されてしまう状態が発生します。
事業を試したことがない人や軌道に乗せられない人たちの「実現性がない」「上手くいかない」という言葉で参加者が潰されてしまいます。
意志が強くそんな批判の言葉にもめげずにいざ動き出そうとすると、そのビジネスコンテストを見ていた人が「ダメだった人」という姿勢で接してきて大きな障害となることもあります。
プランの段階が一番情報量が少ない
そもそも事業は実際にやってみないと上手くいくかどうかわかりません。特に、ビジネスプランを考えている段階は最も情報量と経験が少ない状態でもあります。
どんなにいいビジネスプランでも、その後のプロセスや行動がまずければ立ち行かなくなってしまいます。
いいといえないビジネスでも、一つ一つの問題と向き合い改善を積み重ねていけば成功することもあります。
ビジネスで成功を掴むとは地道な努力の積み重ねでしかありません。
佰食屋の例
京都市で中村朱美さんが展開する1日100食限定の「佰食屋(ひゃくしょくや)」という国産牛ステーキ丼専門店があります。
1日100食限定、広告宣伝費0円という、お客が入り回転すればするだけ儲けるべきだという飲食業界の中でも異例のスタンスです。
ですが、年商は1億円越えで、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」にも選ばれ、ガイアの夜明けで特集されるなど注目を集めています。
中村さんはビジネスを始める前にビジネスアイディアコンテストに参加して自分の起業プランを発表したそうです。
中小企業の専門家や大学教授が審査員をつとめるそのコンテストで「上手くいくわけがない」「ありえない」とこき下ろされました。
それでも中村さんは諦めずに、自分で貯めた500万円を元手に事業を始め軌道に乗せるまでに至りました。
この実例からもわかるように、ビジネスプランやアイディアのコンペで落選したことと、その事業が上手くいくかは別問題です。
この内容は中村さんの「売り上げを、減らそう。」という本の中で紹介されています。
入賞すると補助金漬けにされる
補助金は麻薬
コンペでダメ出しされることも問題ですが、逆に入賞しても問題を抱えます。
ビジネスコンペで入賞すると賞金や補助金がもらえることがあります。もちろんそのお金を目当てに参加する人もいます。
ですが、これは賞金や補助金頼みで、それがないと事業を始める覚悟がないともいえます。
事業を軌道に乗せて黒字化させていくには、その事業に賛成する支援者や消費者が必須です。補助金がなければ、自分の足で説得して回って実現可能性を確かめながら事業を立ち上げていくというプロセスを経験します。
補助金があると、実際の市場を知る大切なプロセスをすっ飛ばしていきなり事業を始めてしまうことになりかねません。
また、補助金ありきでしか回らない事業は確実に失敗します。補助金は一時的なものでしかありません。行政の方針が変われば簡単に打ち切られます。
補助金は麻薬のようなもので、一度補助金をもらってしまうと困ったときに「補助金さえあれば」という感情が芽生えるようになってしまいます。
補助金なしの方がすごい
補助金をもらって事業を軌道に乗せた人と、補助金なしで事業を軌道に乗せた人のどちらが本物の実力があり困難を乗り越える力があるか?といえば、もちろん補助金なしで困難を乗り越えてきた人です。
ビジネスモデルも補助金がなくとも軌道に乗った方がより収益性が高く優れています。
スモールスタートが基本
事業を始めるときはスモールスタートが基本です。補助金を使わずに自分や仲間が捻出できる資金や時間をベースに初めて、トライ&エラーを繰り返し、収益に合わせて事業を拡大してくべきです。
コンサルタントは責任を負わない
地方自治体や行政がアイディアを募集する際にコンサルタントに参加を呼び掛けてコンペしたり、依頼してビジネスプランを作成してもらうことがあります。
ビジネスアイディアを考えるプロであるコンサルタントに依頼することは適切に聞こえますが、実は事業が失敗する可能性の方が高くなります。
失敗を考慮に入れない
事業には失敗や最悪の場合のリスクがつきものです。
実際、行政主体で数百億円という超大金をつぎ込んだ事業である、岡山県津山市 複合施設「アルネ津山」や青森県青森市 複合施設「アウガ」は、超大事業であったにも関わらず、予想よりも収益が大幅に下回り赤字続きで市の財政を圧迫し続けました。
これは、そもそもの計画があまりにも楽観的すぎて、来場者の想定やテナント料の見立てが甘すぎたことが要因の一つです。
これらの計画を立てたコンサルタントが悪いと思いたくなりますが、悪いのはコンサルタントだけではありません。
行政の担当者は「現実的な事業プラン」よりも「そのとおりにやれば成功する事業プラン」を要求します。
コンサルタントの仕事は計画を立て賛同を得て契約をもらいお金を受け取ることです。
コンサルタントは将来的な事業の失敗に対して責任を負うことがないため、契約を打ち切られないように失敗について触れないようにするのが普通です。
結果として、そのアイディアにより、人が集まり、雇用も生まれ、地域が活性化し、財政もよくなるという美しいストーリーを描き、楽観的な収益モデルを提出します。
そして、その楽観的なプランに沿って実行した結果、まったく想定していない失敗に見舞われ、どうすることもできず損害を更に大きくします。
いれは責任を負うことのない外部のコンサルタントに大事な計画立案を任せたツケとしかいいようがありません。
コンサルタントの実態
コンサルタントというと響きがよく賢く凄そうなイメージがしますが、その実態は自分で事業を起こしたことのない人や、上手く軌道に乗せて黒字化させたことのない人がほとんどです。
賛同を得て契約を貰える美しいストーリーやプランを考えプレゼンすることが仕事です。
契約を貰えないと食べていくこともままならないため、基本的な知識もないのに手を上げて、落札後に調査を開始し始める人も少なくありません。
成功事例のコピーを提案してくる
コンサルタント別の地域の成功事例をちょこっと変えて提案してくることが多くあります。
「この地域で特有のモノを生かしましょう」ではなく「他の地域で成功しているので、ここでも成功します」と言って持ってきます。
その内容は、成功地域に行って1~2時間ほど話を聞きまとめただけの内容であることがほとんどです。
1~2時間話を聞いただけで成功できる事業プランを作ることはできません。
成功地域で成功までに経てきたプロセスを無視して、完成形に似たものを移植すれば成功するという考え方です。
そんな簡単な話なら他の地域も皆同じように真似をして利益を出しています。ですが、それをしないのは全く同じようにはいかないからです。
地域の特性を知らない人の助言は成功するビジネスプランを潰すことすらあります。
事業の丸投げ
コンサルタントに依頼して事業計画を立ててもらうことはリスクでしかありません。ですが、コンサルタントだけが悪いわけではありません。
事業を考える上でビジョンや目的、スケジュールなどの計画を立てることはとても重要です。ですが、コンサルタントに依頼するとは、本来実行する人が立てるべき重要な計画を丸投げしているのと同じです。
自分たちで調べるのがめんどくさいから、プロに任せれば全部やってもらえるという他力本願な姿勢です。
そもそも、事業は計画段階が最も情報が少なく、実行していく中で新しい問題に直面し、改善を重ねながら成功へと近づいていくものです。
それが、最初の段階で実行する人たちが覚悟も責任もない姿勢で始めれば成功するわけがありません。
コンサルタントとの正しい関わり方
これはコンサルタントを一切入れてはいけないわけではありません。重要なのはコンサルタントとどのように関わるかということです。
事業の立ち上げは、誰しもが最初はわからない状態が普通です。自分たちの力で実施する覚悟を決めることが大切です。
そして、自分たちで情報を集めて調べていく中でどうしてもわからないことがでてきたら、その専門のコンサルタントに助言をもらうのが、正しいコンサルタントの使い方です。
事業を起こすときの基本姿勢は「自分たちで考え、自分たちでやっていく」です。
好かれる人と成功する事業プランは違う
コンサルタントなどの専門家にアドバイスを受ける上で注意しなければいけないことがあります。
それは、「いい人で好かれている人」=「成功する事業プランの持ち主」ではないということです。
もちろん、人柄もよく、本当によく調査して親身になってプランを考えてくれる人がいればベストです。ですが、実態はそうでない場合がほとんどです。
国や地方自治体に関わらず、感情的に好きな人に賛同するのが人の性質です。
コンサルタントは信頼してもらい契約をもらうことで収入を得るので、徹底して好かれる作戦に出ます。
その地域に足しげく通い、有力者に好かれる努力をします。そして、「この町は全国で一番きれいな〇〇がある」「世界でも有数の〇〇がある」というモチベーションを高めるストーリーを語り、契約にこぎつけます。
人柄が好きという理由で選ばれたコンサルタントは、細かい事業プランを提案する前に気に入られているので、事業計画の内容にもツッコミが入らないことがほとんどです。
結果として、本来は失敗するリスクが高いにも関わらず、検証が行われず、そのまま計画が通ってしまうという最悪の状況を招くことにつながります。
もちろん、人柄がよく好かれる努力をしている人を嫌う必要はありません。ただ、その人が好きなまま、計画にはシビアに接すればいいだけのことです。
参考
この記事の内容は経済産業研究所や内閣官房地域活性化伝道師を務めた木下 斉さんの「地方創生大全」の一部を要約しまとめたものです。
本書の中にはより具体的な事例や数値データなど、地域活性化や地方創生のための事業を始める際に知っておくべき内容がたくさん詰まっています。
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