選択肢が多ければ多いほど豊かで、満足度が高いと考えている人は少なくありません。
ですがそれは本当でしょうか?一昔前に比べればヤマダ電機や100均、スーパーがそこかしこにできて、更にはAmazon、楽天などのオンラインショッピングでありとあらゆる商品を比較して買うことができます。
そういった状態にも関わらず「私たちは幸せだ」と心から満足している人はほとんどいません。「本当にこれでいいのか?」「あっちにすればよかった」など常に後悔にさいなまれている人もいます。
ここでは、選択のパラドックスという言葉の意味と、選択が多いことにより私たちの心理に何が起こっているのかを解説しています。
選択のパラドックスとは?
選択のパラドックスとは、「選択肢が多ければ多いほど自由で幸せになる」という考えに反して、現実は「選択肢が多ければ多いほど不幸になっていく」ことです。
選択肢のパラドックス(the paradox of choice)はアメリカの心理学者のバリー・シュワルツが使った言葉です。
選択の多さ=自由と思い込んでいる理由
400年ほど前まで西洋や日本など階級制が当たり前のように導入されていました。選択肢を多く持てるのは上流階級の特権でした。
このため、下層の人たちは選択肢がないことに不満を爆発させ革命をおこし、世の中を変えてきました。
その信条は「個人の幸福とは、個人の自由を最大化すること」です。「個人の自由の最大化」とは「個人が最大の選択権を持っていること」です。
そして今では「選択肢を多く持っている人ほど自由で幸せ」という考えが当たり前になりました。
選択肢が多い自由はある程度まで正しい
もちろん、選択肢が全くない状態よりもある方がいいです。選択肢の多さは社会の発展を表しています。選択肢が増えたことにより幸せになった人もたくさんいます。
ポイントは選択肢が多ければ多いほどいいわけではないということです。
選択肢が多いとなぜ不幸になるのか?
選択肢が多いと不幸になるのには3つの理由があります。
- やる気を奪う。
- 決断を間違える。
- 不満を感じる。
やる気を奪う
選択肢の多さの問題の1つ目は「やる気を奪う」ことです。
幸福な状態とは「やる気に溢れて満ち足りた状態です」それが、選択肢があまりに多いと阻害されるということです。
あまりの選択肢の多さに圧倒されて辟易した経験を持っている人も少なくありません。
選択肢の多さがやる気を奪うことは次のような調査で証明されています。
例:保険商品
ある保険会社で投資信託の加入率を調査しました。結果は50銘柄増えるごとに加入率が2%下がるでした。
理由は「選択肢が多すぎてどれを選んでいいかわからない」そして先延ばしにした次の機会でも同じ感情を抱き、結局買わないということです。
例:ジャム
あるスーパーマーケットで24種類のジャムを並べた場合と、6種類のジャムだけを並べ、どちらも試食できる状態にしどちらの方が売れるかを調査しました。
結果は、6種類しかない方が売り上げが10倍になりました。
数が少ない方が試食も進み、選択も容易になったことを示しています。逆に、種類が多すぎると人は選ぶことをやめてしまうということです。
決断を間違える
選択肢の多さの問題の2つ目は「決断を間違える」ことです。
選択肢が多ければより自分にあった最高のものを選べると考えている人がいますが、現実はそうではありません。
選択肢の多さは迷いを生み、間違った選択をする原因になります。
例:服を選ぶ
服を選ぶ時に大量の選択肢があると、「サイズ」以外に「生地」「質感」「デザイン」「色」など様々な選択肢が揃います。
本来、寒さをしのぎ体にフィットするという基本的な条件を一番重要視すべきですが、「こっちの方がおしゃれ」と思い込んで、体に合わないジャケットを買い、結局着ないということがおこります。
色も「この色珍しい」と言って買ったものの、自分が好きな色とは異なり、結局ほとんど着ないということがおこります。
選択肢が多いせいで「合わないから要らない」という判断が多くの選択肢に埋もれた結果です。
例:パートナー選び
パートナーを選ぶ時に重要なことは?と聞かれると誰もが性格と答えます。「優しくて、思慮深くて、賢くて、明るい」などです。
ですが、オンラインのマッチングアプリ上のように選択肢が大量にあると、人はそういった細かな条件に頭が回らなくなります。
相手を選ぶ一番重要な要件が「肉体的魅力」へとすり替わっていきます。
判断することが疲れるので、より直感的にわかりやすい基準へとすり替わってしまいます。
不幸を感じる
選択肢の多さの問題の3つ目は「不幸を感じる」ことです。
「選択肢の多さ」=「自由と幸せの象徴」であるはずが、まったく逆の結果を引き起こすということです。
似たものがたくさんあるときに「絶対これがいい!」というものはありません。なぜなら「どれもいい」からです。
その結果、何かを選んだ後に「やっぱりあれの方がよかったかな」という迷いや後悔が生じます。これは選択肢がおおいことによる弊害です。
車の色
数百万円する車を買う時に色を選ぶとします。ここであなたはシルバー系の車が欲しいとします。
「シルバーメタリック」「サテライトシルバー」「マーキュリーシルバー」「シルキーシルバーメタリック」「スチールシルバーメタリック」「プレミアムシルバーメタリック」「ミネラルシルバーメタリック」「ブリリアントシルバーメタリック」
さて、あなたはどれを選ぶと「私の選んだものが唯一絶対!」と後悔しないでしょうか?
答えは、「どれを選んでもほとんど変わらない」です。
「ブリリアントシルバーメタリック」を選んで、街を走っているときに「プレミアムシルバーメタリック」の車を見かけたら「いいな。あっちにしておけばよかったな」と思うかもしれません。その逆もあります。
正しい選択とは?
選択肢が多い時代の正しい選択とは「選んだもので満足する」ことです。完璧主義の人は自分の人生に永遠に満足できません。
例えば車の色を選ぶ時に選択肢が「レッド」「ピンク」「グリーン」「シルバー」の4色だったらどうでしょう?自分の好きな色が明確に選びやすくなります。
選択のパラドックスを提唱したバリー・シュワルツは次のように語っています。
幸せの秘訣は期待値を下げること。
パートナー選びはとても大事ですが、幸せになるためには厳選して選び抜くことよりも、むしろ期待値を下げる方が効果的です。
なぜならどんなに厳選した人を選んだところで、必ず望まない点が出てくるからです。この世に完璧な人やモノはありません。
選択肢が多いと今に集中できない
選択肢が多いことによる弊害に「今に集中できなくなる」ということがあります。
何かをしているときに常に他のことを考えるということです。
アメリカの心理学者のバリー・シュワルツがTEDのプレゼンの中で使用した次の画像がそのことをわかりやすく示しています。
仕事をしている時には趣味のことを考え、趣味をしている時には夜のことを考え、夜は仕事のことを考えるという状態です。
すなわち、どの場面を見ても「今」集中していません。
私たちが生きている時間は「今」しかありません。幸せは過去や未来に感じるものではなく「今」感じるものです。
選択肢が多すぎるせいで「今」に集中できなくなっていることも幸せを感じられない原因の1つです。
選択肢を狭めることが幸せにつながる
選択肢が多い現在では自分の選択肢を狭めることが幸せにつながります。
下の図は水槽の中にいる魚が子供に「あなたはなんでもできるよ」と言っている風刺画です。ですが、現在ではこれが真実になりつつあります。
仮に水槽があまりに大きければ、子供に会いたくてもなかなか会うこともできません。
もし水槽を割ってしまったら、水がこぼれ魚は自由を失い、苦痛を味わいながら死んでいきます。
ベストセラー書籍「エッセンシャル思考」でも言われているように、自分にあった枠を見つけ出し、選択肢を絞ることは現代を幸せに生きる術になっています。
「井の中の蛙大海を知らず」という諺があります。これは井戸の中に住んでいるカエルをバカにする言葉です。
ですが、本当に幸せなのは「井の中で満足して、幸せを嚙み締めたまま死んでいくカエル」かもしれません。
参考
この記事の内容はスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。
人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。
この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。
あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。