WEBサイトやメディア、研修などコミュニケーションの話題で、「人は見た目が9割」という言葉を頻繁に耳にします。
これは、2005年に竹内一郎(さい ふうめい)という方が書いた「人は見た目が9割(新潮新書)」という本が100万部を越えるベストセラーになったことが一番の引き金になっています。
この「人は見た目が9割」という言葉が独り歩きして、人とのコミュニケーションは見た目が大事だから、髪を整えて、服装をピシっとして、いいものを身に着けて、そうすれば、良い評価が得られて、異性から好印象が得られたり、商談の成約率が上がると勘違いしている人が多く見られます。
しかし、「人は見た目が9割」の本当の意味は、見た目さえよければすべてよし、何を話すかはあまり関係ないということでは全くありません。
ここでは、「人は見た目が9割」の本当の意味について解説しています。
人は見た目が9割の由来
人は見た目が9割という言葉は、アメリカ合衆国の心理学者でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)心理学名誉教授のアルバート・メラビアンの実験結果が基になっています。
アルバート・メラビアンの実験 メラビアンの法則とは?
アルバート・メラビアンの実験は、人と顔を合わせて会話をするときに、相手の印象を左右している要素が何かを調査したものです。
(1)言葉、(2)声のトーン、(3)ボディーランゲージの3つの要素のどれが、相手に好意や反感を与える要因になっているかを様々な条件で調べています。
例えば、相手を怒る場合に、「ふざけるんじゃない!」という言葉を、明るい声で、笑いながら言うと、相手の感情は好意と反感のどちらになるかというと、「好意」の方になるといった感じです。
項目 | 内容 | 分類 |
---|---|---|
話す内容 | ふざけるんじゃない! | 反感 |
声のトーン | 明るい | 好意 |
ボディーランゲージ | 笑っている表情 | 好意 |
各項目を好感であればプラス(+)、反感であればマイナス(-)の符号に置き換えると、相手が受ける印象を次の式で表すことができます。
相手の印象 = (話す内容 )7% + (声のトーン)38% + (ボディランゲージ)55%
3つの要素の合計がプラスなら好感、マイナスなら反感となります。これに、上の実験例を当てはめると
+86% = -7% + 38% + 55%
となり、3つの要素の合計がプラス(+)になるので、相手の印象は「好感」になります。
これを、まとめると次のようになります。
項目 | 対象 | 影響の割合 |
---|---|---|
話す内容 | 言語 | 7% |
声のトーン | 聴覚 | 38% |
ボディーランゲージ | 視覚 | 55% |
この実験結果をメラビアンの法則といいます。パーセンテージをとって 7-38-55のルール とも呼ばれたりします。
このメラビアンの実験結果より言語に該当する部分が「言葉」の7%。残りの2つの「声のトーン」「ボディーランゲージ」は非言語(言語ではない)になります。そして、この非言語の占める割合が93%、まさに9割です。
このため、非言語を言葉ではない「見た目」という言葉に置き換えて、「人は見た目が9割」という言葉ができあがっています。
人は見た目が9割の本当の意味とは?
メラビアンの実験内容から、「人は見た目が9割」の本当の意味は、人とのコミュニケーションにおいて
(1)言葉、(2)声のトーン、(3)ボディーランゲージ
の3つの要素を比較したときに、相手に与える影響の9割は「声のトーン」と「ボディーランゲージ」で決まるということです。
この調査の対象に、髪型、服装、高価な時計、香水の匂い、高級な靴、といった内容は含まれていません。
3つの要素しか比較対象に入っていないというポイントが伝わっていないことが、「人は見た目が9割」という言葉が独り歩きし、勘違いを巻き起こしている原因となっています。
相手が受ける印象|メラビアンの法則まとめ
メラビアンの法則を使って、相手が受ける印象をシチュエーション別に分類すると以下のようになります。
シチュエーション1
笑った表情で、「ふざけるんじゃない!」と怒った声で言うと相手が受ける印象はどうなるでしょうか?
項目 | 内容 | 分類 | 割合 |
---|---|---|---|
話す内容 | ふざけるんじゃない! | 反感 | 7% |
声のトーン | 怒った声 | 反感 | 38% |
ボディーランゲージ | 笑っている表情 | 好意 | 55% |
-7% + -38% + 55% = +10% なので、合計はプラスとなり、相手の感情は好意になります。
プラスの数値が大きいわけではないので、ギリギリコミカルな感じということです。
シチュエーション2
怒った表情で、「ふざけるんじゃない!」と明るい声で言うと相手が受ける印象はどうなるでしょうか?
項目 | 内容 | 分類 | 割合 |
---|---|---|---|
話す内容 | ふざけるんじゃない! | 反感 | 7% |
声のトーン | 明るい声 | 好意 | 38% |
ボディーランゲージ | 怒っている表情 | 反感 | 55% |
-7% + 38% + -55% = -24% なので、合計はマイナスとなり、相手の感情は反感になります。
つまり、怒られていると感じていることになります。
シチュエーション3
怒った表情で、「おめでとう!」と明るい声で言うと相手が受ける印象はどうなるでしょうか?
項目 | 内容 | 分類 | 割合 |
---|---|---|---|
話す内容 | おめでとう! | 好意 | 7% |
声のトーン | 明るい声 | 好意 | 38% |
ボディーランゲージ | 怒った表情 | 反感 | 55% |
+7% + 38% + -55% = -10% なので、合計はマイナスとなり、相手の感情は反感になります。
つまり、「おめでとう!」と褒められているようでも、相手は「この人嘘ついているな」「私の成功をぜんぜん喜んでない」といった反感を抱きやすいということです。
シチュエーション4
にこやかな表情で、「おめでとう!」と怒った声で言うと相手が受ける印象はどうなるでしょうか?
項目 | 内容 | 分類 | 割合 |
---|---|---|---|
話す内容 | おめでとう! | 好意 | 7% |
声のトーン | 怒った声 | 反感 | 38% |
ボディーランゲージ | にこやかな表情 | 好意 | 55% |
+7% – 38% + 55% = +24% なので、合計はプラスとなり、相手の感情は好感になります。
つまり、「おめでとう!」と言われて、相手も嬉しい気持ちになっているということです。
メラビアンの法則まとめ
メラビアンの法則をまとめると次の表のようになります。
相手の感情 | 話す内容 | 声のトーン | ボディーランゲージ |
---|---|---|---|
好意(+100%) | 好意(+) | 好意(+) | 好意(+) |
好意(+93%) | 反感(-) | 好意(+) | 好意(+) |
好意(+24%) | 好意(+) | 反感(-) | 好意(+) |
好意(+10%) | 反感(-) | 反感(-) | 好意(+) |
反感(-10%) | 好意(+) | 好意(+) | 反感(-) |
反感(-24%) | 反感(-) | 好意(+) | 反感(-) |
反感(-93%) | 好意(+) | 反感(-) | 反感(-) |
反感(-100%) | 反感(-) | 反感(-) | 反感(-) |
この結果より、相手が好感を抱くか反感を抱くかはボディーランゲージ、つまり、どんな表情や態度をしているかでほとんど決まるといえます。
例えば、笑顔で笑っていたり、にこやかだったり、手をぱちぱちと叩いていれば、口では怒ったり相手を非難する内容を言っていたとしても、相手は好感を抱きやすいです。
逆に、どんなに相手を心から褒め称えていても、顔がしかめっ面だったり、怒っていたり、机をバンバン叩きながらだと、相手は反感を抱きやすいということです。
更にいうと、表情や態度が相手に与えた印象を、言葉や声のトーンで払拭しようとすることは難しいということです。
話す内容や声のトーンを気にする前に、自分がどんな態度やどんな表情をしているかに注意するようにしましょう。
そうすれば、多少のミスがあったとしても、相手に好感を抱いてもらいやすく、異性との関係がうまくいったり、商談の成約につながる確率も上がります。