私たちヒトには、肩書きや経歴、服装といった一目でこの人は凄そうだとわかるものを見せられると、無意識のうちにその人に従ってしまう性質があります。
一目見て凄そうだと伝えるものを「権威性」と呼びます。
私たちが権威性に無意識に従ってしまうという性質を利用して、ナチス ドイツによる600万人ものユダヤ人大量虐殺といった悲劇が生まれました。
現代ではそこまでの悲劇は発生していないものの、権威性の力を使った詐欺やマーケティングが横行しています。
ここでは、私たちにとってあまりにも強力な権威性の力に騙されないためにはどうすればいいかについてまとめています。
この人は本当に専門家だろうか?
権威性に服従してしまう心理は私たちの中で条件反射的に発生するものです。つまり、オート(自動)で生じてしまうということです。
私たちが自ら思考しようとせずオートモードのままだと、ずっとその権威に従った状態が続いてしまいます。
そんなときに有効なのが「この人は本当に専門家だろうか?」という疑問を自分に投げかけることです。
この質問が投げかけられた時点で、思考がオートモードから、自分で考えるに切り替わります。
そして、その人が専門家であることを示す証拠を集めることが重要です。
クレジットカード番号を聞き出すなどの詐欺は「警察ですが」「税務署の者ですが」という権威ある肩書きを名乗るところから始まります。
その時に「警察(税務署)から電話が来た!」と焦らずに、「この人は本当に専門家だろうか?」と問いかけるだけでも詐欺にひっかかる確率は下がります。
実際に電話詐欺を撃退した人たちは「あなたはどこの者?」「証拠は?」というのを徹底的に聞き出そうとしています。
この専門家はどのぐらい誠実なのか?
「この人は本当に専門家だろうか?」と言う質問をし、無事専門家であることがわかったからといって安心してはいけません。
ピカピカ光る肩書きを持つ人の中にはそれを上手に使って、利益をむさぼろうとする人が少なくありません。
実際、そういった人たちが持ってきた話は、その人たちにメリットがあるからこそあなたに接触を試みているのです。
もちろん、そういった権威性を持つ人には誠実で信頼できる人もいます。ですが、そうでない人もいるので「この専門家はどのぐらい誠実なのか?」を自分自身に問いかけることが重要になります。
本物の専門家だからといってすべての情報をあなたに語るわけではありません。自分に不利になることは隠すのが当たり前ですし、なんならよく見せてあなたからお金や情報を引き出そうとするのが一般的です。
中には本物の警察官という肩書きを使って、女性に近寄ったり金品をだまし取ろうとする人もいます。
あなたがその専門家の要求に答えたことで「相手はどのぐらい得をするのだろうか」と考えることが損をしないためにも重要です。
誠実に見せるワナにハマらない
「この専門家はどのぐらい誠実なのか?」を自分に問いかけるときに一つ注意しなければいけないことがあります。
それは、相手が信頼性を得るために「あえて自分たちの欠点を言う」場合があるということです。
私たちが「この専門家はどのぐらい誠実なのか?」と疑ってみているときに、自分たちの凄いところやメリットばかりを言う人はますます怪しく見えるものです。
頭のいい人たちはそのことを知っています。このため、あえて「この点は私たちよりも、他社の方が優れています」といったように、自分たちを下げて周りをあげるような発言をします。
すると、それを聞いた人は「この人は誠実だ」と思い込み、一気に信頼感を高めてしまいます。
注意しなければいけないのは、そこで挙げられた欠点は他の利点に比べてはるかに小さく、ほとんど影響がないように考慮されているということです。
あえて欠点を伝えて誠実さを勝ち取る手法はマーケティングでも頻繁に使われます。
例えば、アメリカのレンタカー会社のエイビスという企業は「私たちはナンバー・ツーです。でも一生懸命努力しています」と公表しています。
フランスにヘッドオフィスがある世界最大の化粧品会社ロレアルは「高級です。でも、あなたにはその価値があります」という広告を出しています。
「No.2」や「高い」というのはマイナスを自ら申し出て誠実さを獲得した後に、後からメリットを伝え、それを際立たせています。
詐欺師も、公平な企業も同じ手を使う
最後の注意点は、権威性の力は私たちヒトにとってあまりに強力に作用するため、頭がいい人たちのほとんどが使っているということです。
つまり、詐欺師のようにあなたのことをあからさまに騙そうとしている人が使うのはもちろん、きちんとした企業のようにフェアな商談をする人たちも同じ手法を使います。
このため「権威性がある」=「悪ではない」ということを理解しておく必要があります。
最終的には、あなたがその相手のことや商品を信頼して、それに見合う価値があると判断したかどうかが重要です。
提供された価値に対してお金を支払うことは、資本主義社会では当然のことです。
いい買い物をしても、騙されたとしても自己責任ということです。
なお「必ず儲かります」というのは100%詐欺なので、くれぐれも騙されないように注意してください。
参考
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。