悩んだり、困ったり、躓いたりして感情的になっている相手を解決に導くときには、「どうしたの?」「何があったの?」「どうしたい?」といった問いかけをよく使います。
ただし、問いかけは、とりあえず理由を聞けばいいというものでも、早急に解決すればいいという単純なものでもありません。
問いかけには意識すべき順番があります。
ここでは、相手の問題を解決して建設的に前に向かわせる方法についてまとめています。
建設的な問いかけの順番
「できない!」「もう嫌だ!」といったように、悩んだり、困ったり、つまづいたり、悲観的になるなど、感情的になっている人には次の3つの順序を踏んだ問いかけを行うと非常に効果的です。
共感する
一番最初にやるべきことは「相手への共感」です。
「こんなの難しくて私にはできない!」と感情的になっている人がいたら、いきなり「どうしたの?」と問いただしたり、「そんなこと言ってる場合じゃないだろう」と圧的に制しても効果はありません。
感情的になっている人に論理をぶつけたり、その感情を押しつぶそうとすると、余計に感情的になってしまい逆効果です。
きちんと対話して話を建設的に前に進めるためには、まず相手の感情を静める必要があります。
相手の感情を静める最善の方法は、その感情を受け入れること、すなわち共感することです。「そうか、確かに難しいな」といったように相手に共感します。
感情的に泣きわめいている子供と同じ
感情が高ぶっている状態は大人も子供も大差はありません。
子供が「イヤだー!」と言って泣き叫んでる時に「うるさい!」「嫌じゃない!」と言って子供の感情を否定しても、感情がどこかにいくことは決してありません。むしろ自己を守るように反発して強くなります。
「どうしたの?」と聞いても、脳が感情に支配されているので、泣き叫ぶばかりで論理的に思考ができません。
その時は「嫌だったんだね?そうだよねかわいそうに。嫌だよね」と言って相手の感情に共感します。この時に、相手の主張の是非や正しさは関係ありません。とにかく相手の気持ちに寄り添い共感し、相手の感情を静めることが第一です。
問題にフォーカスした問いかけ
相手の感情が鎮まり落ち着いてきたら、次にすることは解決策を見つけることではありません。「問題にフォーカスした問いかけ」です。
何が起こっているのか?原因は何なのか?を問いかけによって探ります。具体的には次のような問いかけです。
このような問題にフォーカスした問いかけを積み重ねることで、相手が感情的になっている問題の本質が見えてきます。
あるいは「この問題の原因を探るために話し合いたいのだけれども」と言って、対話に入ることを促すのも効果的です。
解決にフォーカスした問いかけ
問題にフォーカスした問いかけにより、感情的になったり悩んでいる原因が明らかになったら、次にいよいよ解決にフォーカスした問いかけを行います。
ここで一番重要なポイントは感情的になり悩んでいた本人が自分の内側から答えを見つけ出すことです。
決して、あなたが答えたり、あなたの答えを押し付けてはいけません。それは相手の根本的な問題解決にもなりませんし、成長にもつながりません。
具体的には次のような問いかけを行うことで、相手が自分の中から答えを導き出す手助けをします。
これらの問いかけで、相手が自分の中から解決策を生み出したとき、相手は問題を抱えて感情的になっていたときよりも成長しています。
そして、自分で考えた解決策を実行しようと自走していきます。
問いかけのGROWモデル
悩んだり感情的になっている人に対して、問題を明確にし解決策を見つけ出し、成長と行動を促すコーチングの問いかけのフレームワークに「GROWモデル」というものがあります。
Goal(目標)、Reality(現実)、Option(行動の選択肢)、Will(行動の意志)の頭文字をとったもので、この順番に質問をしていくと、問題は何か、今後どのような行動が考えられるか、いつ何をやるかといったところまで明確になります。
GROWモデルのGoal(目標)、Reality(現実)が問題にフォーカスした問いかけ、Option(行動の選択肢)、Will(行動の意志)が解決にフォーカスした問いかけになっています。
Goal(目標)
GROWモデルの1つ目の問いかけは「Goal(目標)」です。
いきなり問題の本質に入ろうとするのではなく、ここにいる意義は何か、何を目指しているのかといった、行動の動機となる本質的な部分について問いかけます。
Reality(現実)
GROWモデルの2つ目の問いかけは「Reality(現実)」です。
Goal(目標)の問いかけにより、目指しているところを再認識できたら、次に現状把握に入ります。この問いかけがいわゆる問題の明確化です。
Option(行動の選択肢)
GROWモデルの3つ目の問いかけは「Option(行動の選択肢)」です。
Reality(現実)の問いかけにより、今の現状の状態や問題が明確になったら、次はその問題に対してどのような行動の選択肢があるかを検討します。
Will(行動の意志)
GROWモデルの最後の問いかけは「Will(行動の意志)」です。
Option(行動の選択肢)の問いかけにより、現状の問題に対してどんな対応ができるかを考えついたら、次に具体的な行動計画を明確にします。
共感により感情を静め、GROWモデルに沿った問いかけを行った行ったあと、現状につまづいて感情的になって悩んでいた人は、この後どうすればいいかという具体的な行動を自分の中に見出すことができます。
GROWモデルは万能ではない
GROWモデルは相手の問題を見出し解決策を考え行動に至るためにとても効果的なコーチングのフレームワークです。
だからといってGROWモデルはいつでも使える万能薬ではありません。使うことで話が建設的に進む場合と、そうでない場合があります。
コーチが相手に前向きな時は使える
GROWモデルが威力を発揮するのは、問いかける側のコーチが相手に対してポジティブな印象を抱いている時です。
「この人の問題を解決して、なんとか前を向かせてあげたい」「更に成長させてあげたい」と思っている時は効果があります。
ネガティブなことは正直に伝える
GROWモデルを使うべきでないパターンの1つ目は、問いかける側が相手に対してネガティブな印象を抱いているときです。
「この仕事から外さざるを得ない」「減給は避けられない」「このままの業績なら解雇せざるを得ない」というときは、GROWモデルを使って建設的な問いかけをするのではなく、最初にネガティブなことを正直に伝える必要があります。
なぜならGROWモデルを使うことは、相手に「自分はこのチームに必要とされている」という間違った希望や期待を抱かせてしまうためです。
結果が出せなくて突如ネガティブなことを言い渡された場合、相手は納得できません。それは不信感や怒りなどのストレスにつながります。
このため、「残念ですが、今の業績のままでは私たちのチームを去ってもらわなければいけません」というネガティブなフィードバックを正直に伝えておくことが非常に重要です。
それは相手に失礼なことをしているのではなく、相手に配慮した行動です。
あまりに感情的な場合
すごく落ち込んでいる、すごく悩んでいるといったときもGROWモデルを使うべきではありません。
「もう無理!」と言って泣いている人に、GROWモデルのフレームワークを使うと、あまりに不自然なため、相手に「この人は機械的に私と接している」という印象を抱かせます。
そうではなく、通常の会話の流れで心に寄り添い、より自然な問題にフォーカスした問いかけや解決にフォーカスした問いかけを行う必要があります。
GROWモデルはあくまで、相手に寄り添い、問題と解決策を導き出すための手法です。主体はフレームワークではなく人であることを忘れてはいけません。