学校や部活、サークル、課外活動など一定数以上の人が集まるところではグループが生まれ対立が発生するのが一般的です。
仲のいい子供たちで集まり、そうでない子は仲間外れにされたり、嫌われた子が独りぼっちなり、いじめが発生することも少なくありません。
ここでは、そもそもなぜ人が集団になると対立が発生し、どのようにすれば仲が悪い子供たちを仲良くできるのかについて、その方法を紹介しています。
対立を発生させる方法
トルコ系アメリカ人の社会心理学者 ムザファー・シェリフ(Muzafer Sherif)がいます。ムザファー・シェリフは紛争問題や集団競争の研究をしていました。
集団の中で対立がどのように発生するかを調べるため、ムザファー・シェリフ等は少年たちのサマーキャンプを使ってある実験を行いました。
まずは、少年たちを2つのグループに分けました。すると、別れたグループ間同士で「私たち」と「彼ら」というライバル意識(敵意)が発生することがわかりました。
更にそれぞれのグループに名前をつけると、ライバル意識は更に強くなりました。そして、それぞれのグループは相手の能力や成果をバカにしたりけなすようになりました。
更にグループ対グループの宝探し対決や綱引きといった競争を導入すると、ライバル意識は更に強くなりました。
対立するグループに対して罵り合いや小突くといったちょっとした暴力が発生し、競技をしている最中に「ズルい野郎」「コソ泥」「卑怯者」といった相手をバカにするやじが飛ぶようになりました。
更に酷いことに、それぞれのグループがもう一方のグループのキャビンを襲撃し、団旗を盗んで燃やすといった過激な行動が発生するようになりました。
この実験から、人をグループに分けてそれぞれを競争させると、簡単に敵対関係が生まれるということがわかりました。
敵対状態の合同作業は関係を悪化させる
ムザファー・シェリフたちは子供たちの悪化した関係性を修復するために、2つのグループの人々が一緒に過ごす時間を増やしました。
映画を見たり、ピクニックなどのアクティビティといった楽しいイベントを2つのグループ合同で実施するようにしたのです。
その結果、ムザファー・シェリフたちが想定したこととは異なる状況が発生しました。
それは、対立関係が更に深まったということです。
楽しいはずのピクニックではグループ間での食料の奪い合いが始まり、食道では列に並んでいる子供たちがつかみ合いのケンカをするようになりました。
一つの目標を共同で達成する
ムザファー・シェリフたちはこの状況を改善する策として「利益を共有する一つの目標を共同で行う」という状況を作り出しました。
例えば、1日がかりの遠足の途中で、町に買い出しに行くための唯一のトラックのエンジンがかからない状況をわざと作り出し、その危機的な状況を解決するために、トラックが動き出すまでみんなで押したり引いたりします。
他にも、キャンプの水道を研究者がわざと止めて、水がでなくなったという問題を発生させ、子供たちが協力してその原因を探して修理しました。
面白い映画があるがお金がないために借りられないと子供たちに告げたときは、子供たち自身がみんなでお金を出し合えば映画が借りれると気付き、自分たちでお金を集めて映画を借りました。
そして、その映画をみんな一緒に鑑賞するといったことをしました。
共同作業の結果は決して即効性があったわけではありませんでした。
みんなが仲良くなるためにはある程度の時間はかかりましたが、その効果は驚くべきものでした。
お互いを挑発したり小競り合いをすることはなくなり、そればかりか食堂で違うグループの人たちが一緒に食事をする姿も見られるようになりました。
子供たちに親友の名前をあげるように言ったとき、これまでは同じグループの子の名前しかあげなかったのに、違うグループの子の名前もあげるようになりました。
中には、前回聞かれたときから友達に対する評価が変わっていたので、評価し直す機会を与えてくれたことに感謝する子供もいました。
今まで憎み合い言い争い、暴力すらしていた子供たちが、なぜここまで協力的になったのか、その大本の理由は「敵だと思っていた人たちが、味方になる出来事があった」ということです。
敵だと思い込んでいた人たちが、実は頼りになる支援者で、分かち合える仲間でもあるという経験をしたことで、思い込みが解けて考え方が変わりました。
対象は子供だけじゃない
ムザファー・シェリフのサマーキャンプの実験では対象は子供たちですが、その他の研究の結果、グループに分かれると敵対関係が発生し、共同で一つの目標を追いかけて達成すると仲が良くなるのは、大学生や社会人など大人でも同じ状況が発生することが分かっています。
学校や企業など、テストや営業成績の結果を貼りだして競争心を煽ったり、できる人を優遇して、できない人を叱責するような制度を用いているところもありますが、その結果もたらされるのはグループ化と対立です。
逆に組織に所属している人たちが仲がいい環境というのは、対立関係を助長するよりも、みんなが助け合うことで、それぞれの人がメリットを得られる仕組みを採用しています。
子供たちが仲良くするために、協力できる環境をつくることは大切ですが、そもそもそれを教える大人たちが自分たちが協力できる環境を作って仲がよく充実した人間関係を築けることを示すことが、子供が自然と学んでいくためにも重要です。
参考
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。