商品やサービスを売るにはお客さんから信頼を得ることが重要です。信頼関係がないと疑われて買ってくれないことがほとんどです。
ですが、逆に信頼関係があれば商品の具体的な説明をせずとも「あなたが言うなら」や「あの人が言うなら」と言って無条件で買ってくれることも少なくありません。
このため企業のトップセールスマンというのは社内外で信頼されている人がほとんどです。信頼されていないトップセールスマンは皆無です。
信頼を得るために重要なことの一つに「自分が誠実だと見られる」ことがあります。
ここでは自分が誠実だと見られるために、あえて欠点を言う事の効果を事例をふまえて解説しています。
あえて欠点を伝えることの効果
世の中には自ら「警察官」や「医師」「税務署の職員」と名乗る詐欺が横行しています。それ以外にも、本当は持っていない肩書きや資格を名刺に書いて凄そうにみせることで、相手を信じ込ませ割高なものを買わせる人たちがいます。
そういった詐欺などの事件はニュースで流れ、警察や政府が注意喚起ををしているため、多くの人たちが騙されないように心がけています。
このため訪問販売や電話販売などで商品やサービスを売り込もうとした場合、疑り深い目で見られるのが普通です。
「あなたは本物なの?」という疑問から始まり、「私たちを騙して自分たちが得しようとしてるんじゃないの?」という疑い目で話を聞いています。
このため、自社製品のいいことしか言わない人たちは余計に怪しまれます。
そんなときに一言、自社の欠点を付け加えるだけで相手に「この人は誠実なんだ」という印象を与えることができます。
ガスの訪問販売
これは私の知り合いの竹中さんの例です。竹中さんは疑り深く、お金に厳しく(ケチ)で訪問販売でモノを買うということはほとんどありません。
ですが、その竹中さんがあるガス会社の訪問販売で1時間もしないうちに、サラッと契約してしまったことがありました。
最初ガスの訪問販売員が訪ねて来たときに、竹中さんはいつものように疑いの眼差しを向けました。そして、会社の実態や、ガスの料金制度について質問し、「お宅の会社はネットで評判が悪いですよ」ということまでいいました。
そのガス屋はガス以外にも電気の販売もしていて、電気の契約の話も出てきました。その時に「竹中さんはどこの電気を使われているんですか?」と答えて「〇〇電気です」と答えたところ、その営業マンは次のように言いました。
〇〇電気ですか!?それは賢い選択ですね。業界でも一番安いですよ。うちも太刀打ちできません。他の電気会社ならうちにもメリットがあったのですが、、
この一言を聞いて竹中さんの心はガラッと変わりました。
その販売員に対する評価が、これまでの「こいつは本物か?騙そうとしてないか?」から「この人は誠実だ」という評価に180度変わってしまいました。
そして、ものの20分もしないうちにそのガス会社に変更する承諾書にサインをしました。
コマーシャル
自ら欠点を言って誠実さを勝ち取る手法は大手企業も積極的に採用しています。
例えば、アメリカのレンタカー会社のエイビスという企業は「私たちはナンバー・ツーです。でも一生懸命努力しています」と公表しています。
フランスにヘッドオフィスがある世界最大の化粧品会社ロレアルは「高級です。でも、あなたにはその価値があります」という広告を出しています。
「No.2」や「高い」というのはマイナスを自ら申し出て誠実さを獲得した後に、後からメリットを伝え、それを際立たせています。
小さな欠点はすぐに消える
欠点を伝えるときのポイントは2つあります。
小さな欠点を伝える
伝えるべき欠点は極力小さなものである方が好ましいです。「私共の製品には重大な欠陥があり、3年後には確実に壊れます」と言えば、それはとても誠実ですが、販売員やマーケターとしては失格です。
伝える欠点は「その部分は他社さんの方がすごいですね」といったように限定的で小さいものである必要があります。
小さな欠点は大きな魅力ですぐに消える
もう一つ知っておくべき重要なポイントは「小さな欠点は大きな魅力ですぐに消える」ということです。
「私たちはナンバー・ツーです」と言われたら「一番じゃないのか」という残念な印象を与えます。
一方「私たちはナンバー・ツーです。でも一生懸命努力しています」と伝えれば、「一番じゃなくても、一生懸命やってくれるならいいじゃないか」という感情が自動的に発生します。
「高級です」と言われたら「高いのか」という残念な印象を与えます。
一方「高級です。でも、あなたにはその価値があります」と伝えれば、「高いけどそれだけの価値がある」と考えるようになります。
このようにたとえ欠点を伝えたとしても、元の魅力はなくなることはありません。
更に、伝えた欠点はその後のほんの数語、数秒で相手の心からはなくなります。
より高い買い物をさせる
欠点を伝えることは今目の前の商品を売る以外にも、後からより高い買い物をたくさんさせる手段としても絶大な効果を発揮します。
アメリカのレストランのウエイターの時給はとても安く、スタッフは安い給料を賄うために自分たちで努力してより多くのチップを貰わなければいけません。
自分たちの欠点を伝え、誠実さを勝ち取ることでチップを多く貰うスキルに長けたウエイターの例を紹介します。
あるレストランのウエイター ウィリアムは10~20人ぐらいの団体客がきたときに次のような作戦を用います。
最初に誰かが注文を選んで頼もうとしたときに、テーブルの全員に聞こえるように次のような演技をします。
注文を書きとる手を止めて、額にシワを寄せ、わずかに振り向いてレストランの支配人や料理人がこちらを見ていないことを確認した後、少し前かがみになって、次のように言います。
「その料理ですが、今夜はいつもほどお勧めできません。その代わりに〇〇や△△をお勧めします」「今夜はその二つがとてもおいしいんです」と言います。
この時のポイントは、ウィリアムが進める料理はお客さんが選んだものよりも安い料理を選ぶということです。
するとお客さんは「この人は誠実なウエイターだ」と感謝して、いつもより多くのチップをはずむようになります。
彼のテクニックはこれだけでは終わりません。その後も一度獲得した「誠実」という信頼を上手に使います。
団体客が注文を終えると「かしこまりました。それから、お客様のお食事に合う銘柄のワインをお勧めするか、あるいはこちらで選ばせていただいてもいいでしょうか?」と訊ねます。
すると、既にウィリアムのことを信頼しているお客さんは、微笑んで「そうしてください」と答えます。
そうして、少しばかり値の張るいいワインをお客さんに提供します。
更に、彼の得た信頼性の力はデザートを決めるときも発揮されます。たいていはデザートは頼まないか、1つのプレートを頼んでみんなでシェアするにも関わらず、ウィリアムがあるデザートの説明をすると、ほとんどの人が一人一品以上注文するようになります。
弱みをみせる
欠点を伝えることと似た手法に「弱みを見せることで信頼を勝ち取る」手法があります。
トップが弱みを見せる
通常会社のトップは強く万能でなんでもできる人に見られがちです。他の人からするとこの人と私は違うという区別が無意識のうちになされます。
そうすると、トップと従業員の間には隔たりが生じ、問題や失敗があったときになかなか上に打ち明けにくいといった心理的障壁が生じます。
こういったときに、トップが普段からあえて弱みを見せておくと、従業員たちはトップのことを信頼し、問題や失敗の報告をする割合が増加します。
失敗を見せると評価が上がる
転職活動で見事に昇給や高い地位を勝ち取り続けている人が使っている手法に「履歴書に過去の失敗を記載する」という手法があります。
普通、転職や面接では多くの人が過去の失敗を隠そうとするため、失敗を表に出す人は信頼されやすくなります。
その上で、その失敗から何を学んだかも一緒に記載することで、失敗を記載したにも関わらず周りからの評価が上がります。
学校教育の弊害
私たちの多くは「欠点を伝えると評価が下がる」と思い込んでいます。そのほとんどは学校における減点教育の影響です。
少しでもマイナスがあると評価が下がるという教育を何年間も義務としてやらされるため、実際に私たちの中で生じる感情との乖離が生じます。
このため、少しでもマイナスな情報を口に出すことを極度に恐れている人がいます。
ですが、実際は「自ら欠点を言う人を人は信頼する」「欠点はその後の長所や、学びで簡単に打ち消される」というのが私たちヒトの反応です。
小さな欠点を自ら伝えることでマイナスになることはありません。むしろプラスになることがほとんどなので、恐れず積極的に小さな欠点を伝えていきましょう。
参考
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。