経営者やマネジャーに最も重要な仕事は何か?と聞くと、会議や経営戦略の立案、目標達成と答える人がいます。
ですが、経営者やマネジャーにとって最も重要な仕事は「採用」です。
どんな人を採用するかで、その会社の未来が決まります。いい人材を雇い入れれば会社は変化し成長していきます。
悪い人材を引き入れてしまうと、悪さが伝搬して会社の内部は悪化していきます。解雇通知をしなければいけない状況にも陥ります。
だからこそ面接は本気でしなければいけません。それは他企業で社長や副社長、事業責任者などの地位を築いている人であっても同じです。
ここでは、採用こそが経営者にとって最も重要な仕事である理由や、質の低い社員を引き入れてしまうことのリスクについてまとめています。
戦略は優秀な人材に敵わない
戦略と人材どちらが大切か?と問われたときに多くの人が「戦略」と考えます。
ですが、本当に優秀な人たちは「戦略よりも、優秀な人材の方が大切」と答えます。会議を何度も開きたくさんの時間をかけるよりも、優秀な人材がいる方が事が上手く運びます。
プロスポーツの世界でもたくさんのスカウトマンが、1年中目を凝らして優秀な選手を探しています。
経営の世界でも同じです。優秀な人材を手に入れるためには人を集め、見抜くことこそが経営者やマネジャーにとって最も重要な仕事です。
柔軟で誰とでも協力できる社員が必要な時代
ひと昔前は決められた仕事だけを淡々とやる人材が求められていました。
ところが最近ではインターネットが登場し、IoT化や効率化が進み、ずっと同じ仕事をだけをやり続けるということはなくなっています。
そうではなく、既存の商品やサービスはアップデートを重ねて改善を続け、新しいことに挑戦して新たな商品やサービスを生み出すことが必要とされています。
そのためには、どんどんと新しいことを吸収しリスクを恐れずに挑戦する人材が求められています。
それだけではありません。新しい挑戦をし新しいモノを生み出すためには、プロジェクトが切り替わり一緒に組む人たちもどんどんと変わります。
従来のように上司と部下という決められた一組織の中だけで動くのではなく、より柔軟に他部署の人たちとも関わり協力しあえることが求められます。
新しいことに興味を持ってリスクを恐れずに挑戦することができ、様々な人と柔軟に協力し合える人材がいないと会社は立ち行かなくなってしまいます。
優秀で柔軟な人材こそが会社のカギなのです。
職種に一致するかよりも、優秀かどうか
従来の人材採用では「〇〇の職種に合う人」という形で職種ベースで人を募集していました。
しかし変化の大きな時代では、職種に合う人を募集するよりも、優秀な人を採用して、その人に合ったポストを会社側が用意する方が、会社としてのメリットが大きくなります。
企業が求めるべきは、言われたことを卒なくこなす人ではなく、自ら進んで周りを巻き込みながら新しい道を切り開いていける人です。
本当に優秀な人は、自らポストを作り、新たな道を切り開き結果を出していきます。
優秀な人が優秀な人を呼ぶ
優秀な人を採用する最も大きなメリットは「優秀な人が、同じくらい優秀な人を呼ぶ」ということです。
Aクラスの人材はAクラスの人材を呼びます。なぜなら、優秀な人たちは自分と同じぐらい優秀な人たちと一緒に働きたいからです。
「類は友を呼ぶ」は実在する強力な原理です。上手に利用すれば意図的に優秀な人の集団をつくることが可能です。
ただし、一つ注意しなければいけないことがあります。それは、Bクラス人材は、BだけでなくCやDの人材まで呼び込むということです。そして、CやDの人材は更なるC、Dの人材を呼び込みます。
つまり、厳選したA人材だけを獲得することを、かなり厳しくやらなければいけないということです。
Googleが行った採用広告
Googleは優秀な人材を採用するために「あなたは優秀、だから私たちが採用します」といった広告を出しています。
この採用広告を見て応募してくる人は「自分は優秀だ」という自負がある人だけです。そうして集まった人材を更にふるいにかけ、Aランク人材だけを抽出する方法です。
Googleは優秀な人材を集めるために、高速道路沿いに次のような広告を掲載しました。
これは、{自然対数の底”e”の中で最初に出てくる連続した10桁の素}.comという意味です。
答えは、7427466391.comで、そこにアクセスすると更に別の問題が待っています。こうして、様々な問題をクリアした人だけが面接試験を受ける資格を得ます。
そもそも、看板には「Google」とも「採用試験」とも一切書かれていません。疑問に思って、好奇心を抱いて挑戦した人だけが、意図せずにGoogleの採用試験にたどり着く仕組みです。
専門性よりも知力重視
採用の募集要件を見ると「〇〇の経験3年以上」といったように、過去に同じことをしていた経験を求めるものがありふれています。
ですが本当に重要なのは経験年数ではなく、その人本人の学ぶ意欲と自頭力です。
安定よりも変化を求め、自分の自己像を維持するよりも学習し成長することを楽しむ人は、あっという間に新しいことを吸収していきます。
3年や5年その業界で働いてき人の能力を、たった1年で吸収しきって、更に上へ上へと行こうとします。
そういった柔軟性と知力のある人を採用することが最優先です。
長い間その業界にただいただけの人を採用してはいけません。その人は会社が新しいことに挑戦しようとするときに足枷になります。
その人だけが反発するならまだマシですが、必ず周りを巻き込んで会社の中に負のエネルギーを巻き起こします。
柔軟性と知力のある人を見極めることは、表面上からは不可能です。面接の場においては、誰もが柔軟性と知力があるように見せてきます。なぜならその方がウケがいいからです。
見極めるには暗記では答えられない質問をして、その回答をどう導くか、その過程を楽しめるかに注目する必要があります。
例えば「3年前に、この業界であなたが気づかなかった重要なトレンドは何ですか?推測が当たった部分と、外れた部分を教えてくれませんか?」といった質問です。
人種・性別で制限をしない
人種、性別、スキルセットなどを限定すればするほど、該当する人口も減り、ライバル企業との取り合いも激化します。
このため、優秀な人材を獲得するには間口を広げる必要があります。
男性や女性を問わないのはもちろん、LGBTQなどのくくりを設けず、〇〇人だからといった差別をしないことが柔軟なマインドを持つ優秀な人材を獲得するために必要です。
車いすに乗っていたり、手足がなかったり、目がみえなかったり、耳が聞こえないことは関係ありません。
その人が優れた人格を持ち、企業に大きく貢献できる才能の持ち主であれば、採用する理由としては十分です。
社員の顔ぶれに多様性のある企業には、多彩な才能を持った人たちが集まります。
どんな人を採用するかはとても重要なので、社会貢献のためにとか、多様性がある方が会社の業績が伸びるという研究データをではなく、自社に必要な優秀な人材かどうかという評価軸で検討する必要があります。
間口を広げる重要性
優秀な人材を獲得するためには間口を広げることが重要です。
未経験の強みは「一般常識で不可能と思われていることを、やり遂げる可能性を秘めている」ということです。
「あいつは何の経験もないじゃないか」という偉い人たちがいますが、実はそれこそが企業にとってプラスなのです。
とはいえ、ただ優秀というだけでまったく経験がない人を雇い入れるのはリスクや反対がおこるものです。
ここでは、未経験だけど優秀な人材を起用した成功例と、起用した失敗例についてまとめています。
優秀な未経験人材を雇用した成功例
今では世界中で多くの人が利用しているGメールですが、そのプロジェクトを率いたのはブライアン・らこうすきという大学を卒業したばかりの社員でした。
「とびきり優秀なコンピューター科学者を採用する」という目的の元に採用された人物です。
結果は大成功に至りました。
優秀な未経験者を採用しなかった失敗例
Googleのある人事担当は会社の重大プロジェクトを担う候補生として、若手のケビン・シストロムという社員がとびきり優秀だから登用したいと強く申し出ました。
しかし、ケビンは登録に必要な条件の一つであるコンピューターサイエンスの学位を持っていないため、周囲から大きな反対が起こりました。
人事は「独学でプログラミングを学び、エンジニアと連携してプロダクトを出した経験もある」と訴えましたが、申し出は取り下げられました。
結果として、ケビンはGoogleを退社し、インスタグラムの共同創設者となりました。そしてGoogleのライバル会社FaceBookにインスタを高額で買収するに至りました。
経験は重要だが過大評価しすぎないこと
もちろん経験が全く意味ないわけではありません。経験がある人は学習コストも低く済みますし、即戦力として使うことができます。
その人がどういう姿勢でその経験に関わり、どんな結果を残したかはとても重要です。
大切なことは、経験は重要な要素の一つではあるが、過大評価しすぎてはいけないということです。
人員を埋めることを目的にしてはいけない
社内の中にビジョンに理解を示さず、協調性がなく、自己の利益を優先する人が数人いるだけで、企業の雰囲気は真っ黒く染まっていきます。
会社の中にどんな人がいるかはとても重要なことです。
このため、人が足りないという理由だけで、質の低い人材を雇ってはいけません。そういった人は将来、会社の足枷や大きなマイナス要因に発展します。
解雇ほどマイナスな仕事はない
できの悪い社員に解雇通知を伝えることほど嫌な仕事はありません。
穏やかに受け止め去っていく場合もありますが、逆上して「訴えてやる」と怒り狂ったり、「家族を養わなければいけないのに」と感情に訴える泣き落としをしてくる人もいます。
会社をクビになったことの腹いせに、嫌がらせをしてくる人もいます。(そういう性格の人だからクビを突き付けられたのですが、、)
どちらにしても解雇ほどエネルギーを使い、嫌な思いをし、リスクがある仕事はありません。
だからこそ、そもそも最初の段階で解雇するような人材を雇い入れないことがとても大切です。
審査基準を厳しくするあまり、優秀な社員をはじいてしまうのと、解雇しなければいけないような社員を会社の中に引き入れてしまうのでは、優秀な社員をはじいてしまう方がマシです。
CEOも厳しく審査する
審査を厳しくするべきなのは、一般社員だけではありません、マネージャーや会社の指揮とりのトップ CEO(雇われ社長)も同じです。
特に上の立場の人物に少しでも間違った人を引き入れてしまうと重大な問題が起こります。
元の役員や社長が追い出される
間違ったCEOを雇ったために発生した悲劇で有名なのはスティーブ・ジョブズです。
スティーブ・ジョブズは優秀なCEOをとして、ペプシコーラの事業担当社長をしていたジョン・スカリーをAppleに引き入れました。
その時に使われた「このまま一生砂糖水を売り続けたいか?それとも世界を変えたいか?」という誘い文句は有名です。
ですが、その後スティーブ・ジョブズと意見が対立します。結果として、ジョン・スカリーは役員を味方につけスティーブ・ジョブズをAppleから追い出しました。
厳しい審査
Googleのプロダクトの最高責任者を務めたジョナサン・ローゼンバーグは、別の企業からGoogleに入社するときに本気の面接を受けました。
当時ジョナサン・ローゼンバーグは業績を伸ばしていたエキサイト@ホームという企業の副社長をしていました。
そのときに、”Googleから”プロダクトの最高責任者のポジションのオファーが来て面接を受けに行きました。
ジョナサンはヘッドハンティングされた側なので面接は社交辞令的なものを想像していましたが、結果は全然違うものでした。
Googleの創業者セルゲイ・ブリンに「僕の知らない、何か複雑なことを教えてくれないか」と問われ、経済学に関する難しい数式の証明式をホワイトボードに書き、説明を始めました。
しかし、セルゲイ・ブリンは窓の外を眺めたり、ローラーブレードをいじったりしはじめ、自分が本気で面接されていることを理解しました。
そこで、戦略を変えて「愛を勝ち取る方法」について自分が妻をいかにゲットしたかを例にして、解説を始めました。
結果として、セルゲイ・ブリンの興味を引き付け、面接に合格することになりました。
参考
この記事の内容はGoogleの経営陣 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジの共著「How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント」の内容の一部抜粋と要約です。
一国家と同等な資金を持ち、世界中で知らない人はいないほどのGoogleという大成功企業の中で、
- どのような制度が用いられ、どのような人たちが働いているのか
- 人のやる気を引き出し、周りが見たら無理だと投げ出したくなるような事業をどのように達成に導いてきたのか
- 優秀な人材を獲得するための方法
- 採用時にやってはいけないこと
などなど、これからの時代に欠かすことのできない内容がギッシリ詰まった一冊です。堅苦しくなくユーモアがあり読みやすい文体ですので、ぜひ一読されることをお勧めします。