私たちの多くはこれまでの生活や日常の中でたくさんの人と話をしています。しかし、世の中の多くの人たちが、会話や話しはしているものの、対話になっていないということは少なくありません。
会話や話すと対話の違いは何か?
会話や話すと対話は一見どれも同じもののように聞こえますが、明確な違いがあります。
もちろんどれも、自分以外の誰かと言葉を交わすことに変わりはありません(ここでは独り言はおいておいてください)
会話や話すと対話の違いは、注意を相手の意見や気持ちに向けているかどうかです。
会話や話すとはただ言葉を交わしているだけにすぎません。ただの挨拶や事実確認などがこれに当たります。
一方、対話は相手がどんな感情を持っているか、どんな意見や価値観を持っているか、といった相手の状況を確認しながら進めます。
会話と対話の違いの具体例
会話の具体例
会話や話は一方的になりがちな傾向があります。例えば親と子供の次のような会話です。
親「夕飯までに宿題やっておきなさいよ」
子供「えっ、無理。やだよ」
親「やだじゃない。いいからやりなさい」
子供「・・・」
上司と部下の間でもたびたび発生します。
上司「ちょっとこの資料今日中に仕上げてくれないか」
部下「いや、でも他の仕事が、、、」
上司「でもじゃない。いいから今日中に仕上げてくれ。わかったな」
部下「はい・・・」
いずれも場合も2人ともが言葉を話していますが、とても一方的で相手の状況、気持ちなどには一切触れられていません。
特に、会話は既に答えが決まっていて、相手が何を言おうが、こちらの言い分は何一つ変わらない傾向があります。
対話の具体例
上記の親と子、上司と部下のコミュニケーションも対話の場合は次のようになります。
親「夕飯までに宿題やっておきなさいよ」
子供「いや、無理。やだよ」
親「何か他にやることがあるの?」
子供「今日、〇〇君と遊ぶ約束してるんだ」
親「そう、何時から?」
子供「うーんと、4時から」
親「じゃあ、それまでに1時間あるわね。手伝ってあげるから一緒に終わらせちゃいましょう」
子供「うん!」
上司と部下の場合は次のようになります。
上司「ちょっとこの資料今日中に仕上げてくれないか」
部下「いや、でも他の仕事が、、、」
上司「その仕事は、今日中にやらなければいけない仕事なのかい?」
部下「いえ、期限は明日です」
上司「そうか、ならよかった。この資料はどうしても今日中に必要で、30分で終わるから先にやってくれないか」
部下「そうですね。わかりました」
どちらの対話も、相手の状況を確認して、相手が納得できるように話を進めています。相手の返答や表情、しぐさなどに応じて、こちらが聞き返すことも変わります。決して、聞く耳を持たなかったり、押し付けることはしていません。
なお、どちらの対話でもやっていることは次の3つです。
この3つを繰り返すこと=対話です。
対話が人間関係を築き、物事を前に進める
多くの人が対話ではなく会話で人と話そうとします。その結果、意見がぶつかり合ったり、嫌悪感や反発心が生まるといった悪循環に陥ります。
相手の立場や心、環境を無視し、自分の主張だけをしているので当然です。
そうではなく、誰かと話すときは全て「対話」にすることで、相手と人間関係を築き、物事を建設的に前に進める好循環が生まれます。
「会話」と「対話」はどちらも似たように見えますが、その差は思っている以上に大きく、決して軽視できないものです。
アクティブ・リスニングが重要
対話をするうえで最も重要なのが「聞くこと」です。「傾聴」とも言います。
相手が何を話そうとしているのか、どんな感情で話しているのか、その裏には何があるのかといったことを自ら積極的に聞き取ろうとします。
それは相手が発している言葉だけに耳を傾けることではありません。相手の声のトーンや表情、しぐさなどにも意識を向けます。
そして、相手の声のトーンや表情、しぐさと言っていることが合っているかを考えます。
また、自分の意識が相手ではなく、事実や答え、情報など「次に何を言うか」や「結論は何か」に向いてしまっていないかにも注意する必要があります。
当然ですが、相手と話しているのに他のことが気になったり、「今日の夕飯は何かな」などと考えることは、対話ができていない証拠です。
なお、相手の話だけでなく感情やしぐさも含めて積極的に聞こうとする姿勢をアクティブ・リスニング(積極的傾聴)といいます。
最高の対話を作り出す4つのプロセス
なお、本当に良い対話は、相手の話を「聞く」、自分が「答える」の2つだけではありません。その間に、相手の言っていることを理解する「解釈」と、それに対する自分自身の考えや結論を導き出す「評価」のプロセスが入ります。
この4つのプロセスを経ることで、対話がより建設的なものになります。それぞれの具体的な注意点は次のようになります。
聞く
- 相手に集中しているか?
- 他のことに気を取られていないか?
- 相手の立場や意見を尊重しているか?
- 言葉の裏にある感情も理解しようとしているか?
- 相手の言葉の内容を記憶しているか?
解釈
- 不明確な言葉に対して、確認や追加の説明を求めているか?
- 相手の声のトーンに注意を払っているか?
- 相手の表情やしぐさに注意を払っているか?
- 相手の言っていることと、声のトーンや表情、しぐさは一致しているか?
- 相手の言葉や意見に対して、自分の思い込みが邪魔していないか?
評価
- 答える前に、全ての情報を事実に基づいて分析しているか?
- 急いで結論づけようとしていることはないか?
- 不足している情報を確認しているか?
- 人ではなく、事実を評価しているか?
答える
- 相手の話を興味を持って聞き、理解していることを伝えているか?
- 言いたいことを明確にし、整理してから伝えているか?
- 自分の答えに対して責任を持っているか?
- 相手に同意できない場合は、そのことを丁寧に伝えているか?
- 相手に伝わるまで繰り返し伝えているか?
4つの流れをまとめると、まずはじっくりと聞いて、相手の言葉を自分の言葉で言い換えて確認し、頭の中で相手の状況や事実を踏まえて判断し、最後に相手への配慮をもって自分の意見を伝える。
特に重要なのは「自分の意見を言うなら一番最後」しかも「相手に理解を示し、配慮と敬意を持って伝える」ことです。
絶対に相手の話を遮ったり、自分はこう思うという自分の主張だけを訴えてはいけません。それは対話ではなく、レベルの低い会話です。
人と話すときには毎回これを行えば、相手との人間関係を深め、物事を建設的に前に進めることができます。