人に何かを尋ねるときに「質問」や「問いかけ」といった言葉を使います。多くの人がそれぞれを「相手に何かを尋ねること」という抽象的な概念で捉えています。
日常生活においてはそのレベルでも大きな支障はありませんが、相手のパフォーマンスを引き出したり、よりよい人間関係を築きたい場合は「質問」と「問いかけ」の違いを理解しておく必要があります。
ここでは「質問」と「問いかけの」違いについてまとめています。
質問と問いかけの違い
結論から言うと、質問とは「正解や事実を決定しようとする行為」、問いかけとは「相手の内側にあるものを引き出そうとする行為」です。
簡単に言うと、質問の答えは一つですが、問いかけには決められた答えがありません。
どちらが良い悪いということではありません。状況に応じて使い分けることが必要です。
質問は正解を決定するもの
質問は学校の授業で先生が生徒に質問するイメージが分かりやすいです。
生徒に対して「〇〇はどうなりますか?」と訊ねているとき、先生の中には既に答えがあります。生徒が先生が思い浮かべている答えを答えられれば正解、そうでなければ不正解です。
仕事においても質問が多用されます。情報などの事実を引き出したり、確認したり、評価したり、意志決定する場合に用いられます。
「この仕事はいつまでにやりますか?」
「納期はいつですか?」
「ノルマに対して何件達成できましたか?」
「何が問題だったんですか?」
こうした事実や情報を引き出そうとするのが質問です。話の注意は相手に向けられたものではなく、事実に向けられています。
問いかけは相手の内側にあるものを引き出す
問いかけは「相手の内側にあるものを引き出そうとする行為」です。話の注意は事実や情報ではなく、相手に向けられています。
「私はA案がいいと思いましたが、あなたはどう思いますか?」
「あなたはどうしてこの仕事を選んだんですか?」
「あなたの人生で一番感謝していることは何ですか?」
といったように、意見や価値観を尋ねるのが問いかけです。
コーチングで重要なのは「問いかけ」
相手のパフォーマンスを引き出すことが目的のコーチングにおいて、重要なのは「問いかけ」です。
コーチングとは自分が持っている答えを教えることではなく、相手が自ら気づき、行動を決め、実行し学び、成長していくことをサポートすることです。
そのためには、目の前にいる相手を次のように捉える必要があります。
人はもともと創造力と才知に溢れ、欠けるところがない存在である。
自分で答えを見つけることも、選択することも、行動を起こすこともできるし、計画通りにいかないことも立て直すことができる。なにより、学ぶことができる。
この考え方に基づいて行う会話は事実や答えに着目する「質問」ではなく、相手自身が内側に持っている答えを引き出す「問いかけ」です。
質問ばかりを繰り返す人は、人の上に立ってはいけない2流のコーチ(上司やマネージャー、あるいは親)です。
上手な問いかけができれば、人は自分で答えを見つけて成長していきます。
また、人と会話をするときに、事実や答えに注意を向けるのではなく、相手に注意を向け、相手の意見を受け入れ尊重していけば、自ずと信頼関係を築くことができます。
コーチングする人は無知でいい
相手を成長と成功へ導くためのコーチングを行う人は、相手よりも経験豊富で実績があり、たくさんの物事を知っていなければいけないと考えている人がいますが、それは誤った考えです。
こういった勘違いをしている人は経験が少ない上司やコーチなどが自分の上につくと「私より能力がないくせに」「大したことができないくせに」と言って見下す傾向があります。
ですが、コーチングをする人は相手より経験が少なく、実績がなく、物事を知らなくても問題ありません。
なぜなら、コーチングの主な仕事は相手の中にある答えを引き出すことだからです。
このため、未経験者でも後輩でも、もちろん先輩や上司でも誰でも優秀なコーチになることができます。
働いたことがない専業主婦であっても、子供が進路を相談してきたら「あなたはこれまでの人生でどんなことが一番楽しかった?」「自分が最も輝けると感じたことは何?」「そのために足りないと思うことは何?」といった問いかけをすることで、相手の中にある答えを導き出すことができます。
逆に、あまりに経験と実績が豊富な人は、ついつい自分が持っている答えを教えようとしたり、自分が持っている答えをベースに質問をして、相手が何か答えると「それは違う」と言ってしまいがちです。
これはコーチとしては失格の行為なので注意が必要です。