私たちヒトはできる限り多くの可能性を手に入れようとします。
学校で5教科習うとしたら、5教科ともまんべんなくできる方がいいと考えます。仕事で営業だけをやり続けるよりも、経理、プログラマー、人事などまんべんなくこなせる人の方が優秀だと考えます。
英語は喋れないより喋れる方がいい、モノは知らないより知っている方がいい、資格はないよりあった方がいいと考えます。
そして、未来への可能性を少しでも広げるために努力をします。
ですが選択肢を広げることは本当に重要でしょうか?
残念ながら、選択肢を広げてたくさんの可能性を持とうとする人ほど成功しないということがわかっています。
成功するためにはむしろ選択肢を絞ることの方が重要です。そして、本当に優秀な人たちは選択肢を絞ることに長けた人たちです。
ここでは、選択肢を絞って退路を断つことの重要性についてまとめています。
どの可能性も持っていようとする人は成功できない
人はできる限り多くの選択肢を持ち、様々な可能性を保留している方が、より多くのチャンスを掴み成功できると考えます。
ですが、どの可能性も持っていようとする人は成功できません。
エネルギーが分散する
どの可能性も持っていようとする人が成功できない1つ目の理由は「エネルギーが分散する」ことです。
例えば、営業に専念している人と、営業とプログラマーとMBAの資格取得の3つを同時並行している人がいたとします。
一見すると、営業とプログラマーとMBAの資格取得の3つを同時並行で進めている人は、熱意があり努力家で成功に近づきそうな気がします。
ですが、人が1日の中で使えるエネルギーと時間は限られています。3つのことを同時に進めるということは、起きている時間を3分割するということです。
当然、エネルギーはそれぞれの方向に分散し、営業だけをしている人や、プログラマーだけをしている人、MBA資格取得の勉強に専念している人と比較して大きな後れをとります。
また、一日の中で8時間営業で働く人と、3時間しか働かない人がいたら、より大きな成果をだし貢献でき、より多くのチャンスを得るのは8時間働いている人です。
つまり、エネルギーを分散させるとは、分散させなければ得られるチャンスを捨て去るということです。
一番最悪なのは睡眠時間を削ることです。人は寝ることで脳や体を回復させます。睡眠時間を削った場合、睡眠負債を抱え脳や体がどんどん疲弊していき、重大な障害を抱えるリスクをもたらします。
結局どれも決めきれない
どの可能性も持っていようとする人が成功できない2つ目の理由は「結局どれも決めきれない」ことです。
なぜなら、全ての選択肢がメリットとデメリットの両面を持っていて、それぞれがタイミングにより異なるためです。
例えば弁護士になる権利とプログラマーになる権利を持っている人がいるとします。
弁護士になれば高い給与、人との関わり合い、直接的な人助けに携わることができるといったメリットがあります。
一方、資料と向き合い続け、悲惨な事件を目の当たりにしたり、自分が力になりたいと思わない人の力にならなければいけないといったデメリットがあります。
プログラマーになれば、それなりの給与、モノづくり、最先端技術を学び飽きがこない、世界中の人々と関われる、英語も学べるといったメリットがあります。
一方、人ではなくコードと向き合い続ける、ずっと座っていなければいけないため体に負担がかかる、技術の進歩が速いので学び続けなければいけない、新たなサービスが出てくるので比較検証が大変、といったデメリットがあります。
どちらのメリットもそれなりによく、どちらのデメリットも考え物です。
この二つをじっくり考えて論理的に答えをはじき出し一つに決めるのは至難の業です。選択肢の検証に膨大な時間と莫大な精神エネルギーを費やします。
その結果、結局どれにも決められないということが発生します。
「選択肢を持ち続ける」という選択がコスト
選択肢を持つことでエネルギーが分散し、莫大な精神エネルギーと時間を費やした結果どちらにも決められないという状況が発生するという事実は、「選択肢を持ち続ける」という選択自体がコストであることを示してます。
何かをしているときに、他の選択肢に気を取られ「あっちの選択肢の方がいいかな」と考えることは、結局結論が出ない以上、無駄な時間でしかありません。
多くの人がたくさんの選択肢を持っていることは、人生にとって大きなメリットだと思っていますが、本質はまったく逆のことが起こっているということです。
退路を断つことの重要性
選択肢を自ら捨てることは「退路を断つ」と言い換えることもできます。
項羽は船をすべて燃やした
約2000年前の中国では、春秋戦国時代を経て秦の始皇帝が中国を統一したものの、秦王朝は滅亡し、その後の覇権争いとして項羽と劉邦の二人が戦いを繰り広げました。
項羽は鉅鹿(きょろく)の戦いで敵軍と戦うにあたり、兵士たちが寝ている間に、食料を捨て去り、自分たちが乗ってきた船を全て燃やして退路を断ちました。
そして兵士たちに「おまえたちに残された道は、勝つまで戦うか、死ぬかのどちらかしかない」と告げました。
この結果、兵士たちは死に物狂いになって戦い、見事敵軍を打ち破りました。
なお、この出来事を表すコトワザは「糧を棄て船を沈む」です。
韓信は川を背にした
同じく中国の項羽と劉邦の闘いの中で、劉邦の配下に天才軍師の韓信がいます。
あるとき韓信は3万の兵を率いて、30万の敵兵と戦わなければいけないという危機的な状況に陥っていました。
そのとき韓信は自分たちの陣地をわざと戦いに不利な川を背にした場所に敷きました。
このようにして、兵士たちに自分たちが生きる道は勝つ以外にないと知らしめたことで、兵士たちは死に物狂いで闘い勝利を収めました。
これが現代でも有名なコトワザ「背水の陣」の由来です。
コルテスは船底に穴を開けた
1500年頃のスペイン人でアステカ帝国を滅ぼしたエルナン・コルテスも、アステカ軍と戦う際に、自分たちが乗ってきた船に穴を開けて、船を沈め、退路を断ちました。
孫正義も退路を断った
ソフトバンクの創設者でグループの会長を務める日本の偉人 孫正義も、自身の過去を振り返って、高校1年生の1学期で、校長先生に直談判して自主退学し、病気で血を吐いている父親を置いて、泣いて止める母親を振りはらい、アメリカに渡ったときのことを次のように語っています。
僕は弱い男です。退路を断たないと、困難に立ち向かえん。
人は選択肢を残そうとする生き物
項羽、韓信、コルテス、孫正義が私たちにはできない偉業を成し遂げたものすごい人に感じるのには理由があります。(実際に成し遂げていますが)
それは、私たちヒトは本能的に「できる限り多くの選択肢を残そうとする生き物」だからです。
ヒトの最大の目的は子孫を残すことです。そのためには生存確率をあげなければいけません。そのため、本能は選択肢を絞ってリスクを取るという決断をすることはありません。
可能な限り多くの選択肢を得て、できる限り多くの可能性を保留しようとします。
退路を断って選択肢を絞るとは、本能に逆らうということです。このため、強い意志力とエネルギーを必要とします。
しかし、選択肢を断ちさえすれば、本能は「窮地の中でいかに生き残るか」に全身全霊を注ぐため、より大きな成果を生み出すことになります。
本能に従う必要はない
現代社会において一つ重要なことがあります。それは「私たちはもはや本能に従う必要性はない」ということです。
ヒトという種族は20万年もの長い間、いつ命を失うかわからない過酷な環境の中で狩猟採集生活を送ってきました。その長さは、産業革命後の数百年の比ではありません。
このため私たちの本能は狩猟採集時代に適したものになっています。
逃げまどっている人をみたら、何も考えずに一緒になって逃げる本能が働きます。「残り僅か」という言葉を聞けば、急激に欲しくなる衝動に駆られます。魅力的な異性を見れば興奮します。これらの本能はどれも、過酷な環境の中で子孫を残すためになくてはならないものでした。
しかし、今では命の安全が保障され、食料が尽きることはなく、たくさんの異性にSNSでアプローチすることができる世の中です。
かつ、私たちの本能を利用したマーケティングがはびこり、本能のままに行動することは騙されたり、大損をするリスクさえあります。
このことは、多くの選択肢を残そうとする本能についてもいえます。現代社会においては、多くの選択肢を残さなくても、何か一つを極めれば十分に稼いで生きていくことができます。
むしろ多くの選択肢を残さなければと思い込んでいる人は、様々な商材にのめりこんで時間とエネルギーとお金を失います。
経営戦略とは特定の選択肢の除外をする意思表明
そもそも、企業の経営戦略とは、選択肢を絞り込み方向性を決めるということです。
余計な選択肢を除外することを社内外に公言することと同じです。
インテルなどの成功している企業の中には「何をやらないかを決める」というように、選択肢を除外することに力を置いているところも少なくありません。
経営戦略と同じく、人生においても何をやらないかを決め選択肢を絞る人生戦略を立てることが非常に重要です。
可能性に溢れているという思い込みには要注意
特に若い人に「私は可能性に溢れていて何でもできる気がする」という人がいます。
それはとても素晴らしいことのように感じます。未来が明るく花開いているようです。
ですが、可能性が多すぎると失敗するという事実がある以上、こういった思考をしている人は注意しなければいけません。
さもないと、エネルギー分散と、時間やお金の浪費ばかりが続き、あれこれ苦労してたくさんやったのに、何一つ身になっていないということになりかねません。
重要なのは「私は可能性に溢れていて何でもできる気がするから、一番やりたいこれをやる」と言って本当にやりたい選択肢を一つ絞ることです。
メリデメで選び出したらキリがないので、自分の直感を一番信じましょう。後は、船を燃やして退路を断てば、あなたの人生は素晴らしいものになる可能性が大幅に上がります。
参考
この記事の内容はスイスの経営者かつ小説家でもあるロルフ・ドベリの「Think Smart ~間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法~」の一部要約と自分なりの見解を加えたものです。
本書では人々が陥りやすい思考のワナとその対処法が、実例を踏まえてふんだんに紹介されています。
とても分かりやすく、成功したい、幸福になりたい思っている人の必読書です。
この記事に少しでも興味を持たれた方は是非実際の書籍を手に取ってみることをお勧めします。