「とにかく動け」「積極的に行動しろ」という教えを重要にしている人たちがいます。そして、その教えに沿って「とにかく動くことが大事だ」と考えている人たちがいます。
ですが現実は違います。たくさん動くことと成果は関係ありません。
ですが私たちはそれでもジッとしていることが苦手でついつい動いてしまいます。
ここでは、動くことが何故意味がないのかや、動くことで裏目に出てしまう事例と、私たちがついつい動いてしまう理由についてまとめています。
よく動く人は死にやすい
山岳救助隊に話を聞くと、たいてい次のようなことが話題にあがります。
「ワーワー騒いで動き回る人はたいてい死ぬ」です。
山道で天候が悪化し知らず知らずのうちにルートから外れ遭難してしまった人には2パターンあります。
一つは「じっとしてそこから動かない」もう一つは「あれこれ試行錯誤して動き回る」です。
この場合、助かる確率が高いのは「じっとして動かない人」です。
遭難している状態ではいつ助けが来るかわかりません。人が生き延びるために必要なのは心臓を動かすエネルギーです。
動き回る人はエネルギーを消耗し、生きられる時間を削っていくのと同じです。
動かない人が助かる
フクチさん(福地裕文さん)
普通波にさらわれて遭難したら数時間で死体になってしまうことも少なくないなか、フクチさんは3日間海に流されて奇跡的に助かった人です。
なんと3日間で漂流した距離は230㎞です。東京から愛知付近までいけてしまう距離です。
仲間とのダイビング中に流されてしまったフクチさんがとった行動は、「ただひたすらプカプカと海に浮かび続ける」です。
このようにして体力を温存し続けた結果、3日目にたまたま通りかかった漁船に向けて「人間だよー!」と叫んで助けてもらうことができました。
もし流されてしまったときに岸に戻ろうと潮の流れに沿って泳いでいれば、体力を消耗して生き延びた確率は劇的に下がっていました。
山で6日間生き残った小学生
北海道の広大な林道で田野岡大和くんという小学生が行方不明になった事件が話題になりました。
なんとこの小学生は6日後に生きて発見されました。
この6日間の間に小学生がとった生き延びるための行動はなんだったかというと、初日に小屋を見つけて、その小屋の中でマットにくるまり、水だけを飲んでただただ耐えていたです。
あれこれと歩き回るのとは真逆です。
医者のとった行動
登山を楽しんでいたグループがあるとき遭難してしまいました。
一人は滑落し骨折する大けがをしてしまいました。そのグループの中には偶然にも医者がいました。
その時に医者がとった行動は「患者の体をビニールでくるみ保温しただけ」です。
医者はこの状況であれこれと動いて処置してエネルギーを消耗するよりも、少しでもエネルギーを蓄えて発見してもらう方が生存確率が高いということを知っていました。
結果、そのグループは山岳救助隊に見つけられ全員が助かりました。
ゴールキーパー
これまでの例は遭難といった生きるか死ぬかの状況なので、あまり現実味がありません。
ですが、動かない方がいい事例は世の中に溢れています。その最たる例がサッカーのゴールキーパーです。
ゴールキーパーはPK戦になると、ピョンピョン跳ねたり派手にダイブします。ただ、その場に突っ立ている人はあまりいません。基本的には50%の確率で右か左にダイブします。
ですが、PKでボールが飛んでくる確率は、左が1/3、真ん中が1/3、右が1/3です。真ん中も同じ確率だけ飛んでくる可能性があります。
イスラエルの研究者 バール・エリ(Bar-Eli)が何百ものペナルティキックを分析した結果、真ん中の特に上部にきたシュートはほぼ確実に決まることがわかっています。
これはゴールキーパーが左右に動いてしまうせいで止められないためです。
つまり、動かなくてもいいときに過剰に動いてしまっていることを示しています。
なぜ動いてしまうかというと、ダイブした方が見栄えがいいからです。ただ真ん中に突っ立っていてキメられると酷評されますが、どちらかに勢いよくダイブすれば「積極的に動いた」という評価が得られます。
本来なら積極的に動かずとも成果につながっていた可能性が高いにも関わらずです。
警察官
イギリスで行われた調査では、警察がすぐに介入するよりも、しばらく様子を見てから介入した方が負傷者が少ないという結果が出ています。
新米の警察官は何か揉め事を見かけるとすぐに割って入ろうとします。結果として負傷者が増える事態になります。
一方、ベテランの警察官は物事の成り行きを知っているため、少し様子を見てから必要に応じて間に入ります。こうした方が負傷者は最小限で済みます。
株式投資
株式市場で何度も経験を積んで勝っている人たちは、市場が急に上下しても慌てません。行動すべきタイミングをじっと待ちます。
一方、株式投資の初心者は株価がちょっと変動しただけであわてふためき、すぐに買いに走ったり、売りに走ります。
勇気を出して積極的に投資することと成果は関係ありません。ウォーレン・バフェットも次のように述べています。
私たちは行動したことで成果を得ているのではない。正しく決断したことで成果を得ている。
We don’t get paid for activity, just for being right
待つ必要があるなら、無期限に待ち続ける。
As to how long we’ll wait, we’ll wait indefinitely.
いつ過剰に行動してしまうのか?
私たちがついつい余計に行動してしまうのは次のような時です。
遭難や、株式投資の初心者、警察官が過剰に動いたためにマイナスの結果をもたらしてしまいます。
なぜ余計に行動してしまったかといえば「状況がはっきりしない」「よくわからない」からです。
またゴールキーパーが成果と関係ないにも関わらず余計に動いてしまうのは「人目を気にする」からです。
なぜ過剰に行動してしまうのか?
なぜよくわからない状況で私たちが、余計な行動をしてしまうかには理由があります。
それは狩猟採集時代には不確かな状況で生き残るためには動くことが重要だったからです。
危険な動物が近くにいたり、良そうな気配があるとき、その場に留まることは良い選択肢ではありません。
サーベルタイガーの影が見えている時に「あの動物は何を食べているのだろうか?オスだろうか?」と考えこんでいたら生存確率が下がります。
生き残るため行動は「ちょっとでも危険があったらすぐに逃げろ」です。
私たちの祖先はそういった直感や本能が他の種よりも優れていたために今日まで生き残ってこれました。
だからこそ、状況が不確かなときは結果がどうなるかを考えずに無意識に動いてしまうものです。
現代はじっとして考える方が重要
私たちヒトは狩猟採集時代の祖先と大きく変わりません。ただ環境は大きく変わっています。
現代社会を賢く生き抜くためにより重要なのは「わからないときにとりあえず動く」ではなく「じっとして考える」です。
現代社会では素早く反応しなかったからといって命を落とす危険はほとんどありません。
むしろ結果を考えずに闇雲に動いた結果、状況が悪化することの方が多くあります。
行動の表彰に騙されてはいけない
現代が「じっとして考える方がいい結果を生みやすい」にも関わらず、世の中には「行動した人を表彰する制度」がありふれています。
じっとして何もしない人よりも積極的に行動する人が表彰される傾向があります。
行動したことで「偶然に」いい結果がもたらされたとしても、その人は表彰されます。
そして表彰された人は声を大にして叫びます「じっとしてないで動くんだ」と。
そして多くの人が過剰に行動するワナにはまっていきます。
時期を待つ5個の格言
私たちヒトは「早く判断して、過剰に行動してしまう性質がある」ため、ジッとタイミングを待つことは重要です。
ここでは上手にタイミングを待った人たちの5個の格言を紹介しています。
人に不幸が起こるのは、部屋でじっとしていないからだ。
フランスの数学者 ブレーズ・パスカル
私たちは行動したことで成果を得ているのではない。正しく決断したことで成果を得ている。待つ必要があるならいつまででも待ち続ける。
ウォーレン・バフェット
たとえ上司やファンが「さっさと行動しろ、この間抜け!」と叫んだとしても、あらゆるものに対して行動する必要はない。あなたは自分のタイミングまで待つことができる。
ウォーレン・バフェット
全ての現金を持ったまま何もしないためには性格が必要。平凡な機会を追い続けていたら、自分が今いる場所でトップに立つことはできなかった。
チャーリー・マンガー
本当に良いものを見つけるのは実に難しい。だから90%のことにノーと言ったところで、この世にある多くのものを見過ごしたわけではない。
チャーリー・マンガー
参考
この記事のスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。
人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。
この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。
あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。