何かを新しく始めようとするときにより多くの人を集め、みんなが合意できるものを始めるべきだと思っている人はたくさんいます。
みんながメリットを享受でき、後から「聞いていない」「認めていない」という反論が一切出ないように丸く収めることを重要視した考え方です。
ですが、人の性質上、全員から合意を得ることは不可能です。
満場一致でという言葉もありあすが、酸性人の中には「心から賛成している」人以外にも、場の流れや雰囲気を汲み取って「本当はやるべきじゃないと思っているけど周りに合わせた」という人が混じっているのが実情です。
より多くの人が意見を言い合い優秀な人たちが集まっている県知事・都知事選や総裁を決める選挙を見れば明らかです。
誰か1人にあらゆる人が100%賛同していることはありません。必ず異なる意見が出て、票が割れ、戦いがあり、勝ち負けがあります。
このように集団の合意を重要視している限り計画を実行に移す日は来ません。更に悪いことに、集団で決定したからといって成功につながるわけではありません。むしろ、失敗するリスクの方が高くなります。
ここでは、集団で意思決定することが失敗につながる理由と、成功する決めごとをするための注意点について解説しています。
集団での話し合いが失敗につながる理由
集団での話し合いが失敗につながる理由には、人の性質が大きく関わっています。
共有情報バイアス
集団で話し合う結果が成功につながらない理由の一つに、そもそも、成功につながる可能性が高いことが話し合われないという事実があります。
理由は、緊急を有したり大きな問題や大きな成功につながる重要な情報よりも、多くの人が知っている(共有している)ことに時間を割く性質が人にあるからです。
これを専門用語で「共有情報バイアス」といいます。バイアスとは思い込みや固定観念のことです。
多くの人が知っている共有情報こそ重要だという思い込みです。そして本来重要な情報が軽視されたり無視されてしまいます。
結果として、多くの人を交えて議論を重ねたにも関わらず、成功を左右する重要なポイントが抜けているために失敗に至るリスクが上がります。
確証バイアス
間違った意思決定になる原因の2つ目は、人はそれぞれ自分たちが成功や課題だと思っていることを裏付ける情報ばかりを集めてしまうためです。
自分が「こうしたい!」「これを解決したい!」「こうあるべきだ!」と思ったら全体の話がそちらに進むようにその考え方を補強する情報を集める行為です。
そんなの当然じゃない?と思うかもしれませんが、「自分がこうしたい」=「成功につながる」や、「自分が抱える課題の解決」=「より多くの人を幸せにする解決策」ではありません。
そこには思い込み、すなわちバイアスがあるので専門用語で「確証バイアス」と呼ばれます。
議論する前から「〇〇が悪い」「〇〇のせいだ」と決めつけてしまっている人も大勢います。むしろ、「人は性質として確証バイアスを持つから、反対意見も集めなければ危険だ」と考えている人はごく少数です。
結果として、多くの人が集まって議論すればするほど、本質とは無関係な間違った方向に進むリスクが大きくなります。
優秀な人の集団が失敗する理由
優秀な人が集まれば正しい結論が導けるかというと決してそうではありません。歴史の中には超エリート集団が集まって下した決断が大失敗を招いた事例が少なくありません。
これにも人の性質が大きく関わっています。
過大評価
人は主観で行動する生き物です。自分は優れていると思い込みたいものです。
相手の状況と自分を客観的に比較して「今はこちらの方が劣っている」と判断できる人はほとんどいません。
この性質は、世間的にとても賢いといわれる人たちが集まって決定を下すときにも表れます。
「自分たちが最強」「自分たちが正しい」と考え楽観的になりリスクを軽視してしまいます。
世の中にはこのような失敗が溢れています。特に戦争中はこういった決定が行われたことが多く、たくさんの命が無駄になっています。
生死に直結する戦争ですら誤った考え方で判断してしまうぐらいなので、会社や自治体などのグループで話し合う時にも発生しやすいです。
多くの人が集まった時に、誰か1人が本質をついて「それは危険なんじゃないか」と言っても、他の人たちが「何を言ってるんだ。私たちならできるに決まっている」と言い出したら、その本質は潰されてしまいます。
次のような状態になっていたら要注意です。
もちろんリスクばかりを言って、決断を取りやめるという話ではありません。リスクを把握・検討し、対策を練って、成功をより確実にするために気を付けるべきことです。
道徳性の過信
自分たちや所属する組織やエリアの過大評価と似たものに、道徳性の過信があります。
自分たちの理念や大義名分が正しいと思い込むあまり失敗につながる間違った行動をしてしまうことです。
誰かに迷惑をかけたり被害を出したとしても、自分たちが正しいからそれでいいという考え方です。
例えばナチス ヒトラーの純正のドイツ人(アーリア人)で金髪で目は青く背が高い人ほど優秀。それ以外の人種や障害者など劣等な人間は生まれてくるべきではないという考え方の元、ユダヤ人や精神・肉体的弱者を殺しました。
なお、第二次世界大戦中の日本も障害者を劣等な人間とみなすことをしています。
他にも、人を大切にすることを説いたキリスト教が他の宗教を弾圧したり、カトリックとプロテスタントで争い、何百万人と言う人を殺しています。
現代でも人の命を奪うとまではいかないものの、「自分たちが歴史的に正しい」「私たちこそ未来の希望だ」と考えて、大きなリスクをとる決断が行われ、本来とるべきでない行動に至り失敗することは少なくありません。
次のような考え方をしている場合は危険です。
同調圧力
集団で話をすると言っても、その人たちの中には必ずパワーバランスが存在します。
「そう思うよね?」「賛成だよね?」の裏には、「賛成しろよ」という圧力があったり、気の弱い人は勝手にプレッシャーをかけられていると思い込んでしまったりします。
「今変なことを言うと自分の立場が不利になるかもしれない」「反対したら何されるかわからない」という気持ちや考え方は同調圧力によるものです。
集団で決めごとをするときに、特にリーダーやお局さんなど上の立場にいる人が弱い人に耳を傾けない組織でほぼ100%発生します。
正直な発言で自分に矛先が向いたり、批判されたり、立場を危うくするのを回避するために、「問題だ」と思っても言い出さずに自重してしまいます。
実際「私は問題だと思います」と言うと、「命令だから従いなさい」「あの人が言っているんだから間違いない」「そんなこというと将来危ういぞ」という拒絶や脅しを言われることもあります。
誰も問題点を指摘しなかった結果、見た目は満場一致の賛成になります。ですが、内情は多くの人が来るべき失敗に感づいているということも少なくありません。
集団思考・集団浅慮・グループシンク
上記で示したような、集団が不合理で間違った判断をしてしまう性質を、集団思考や集団浅慮(しゅうだんせんりょ)、グループシンクと言います。どれも同じ意味です。
アメリカ合衆国の心理学者のアーヴィング・ジャニスが提唱したものです。
研究したきっかけが面白く、娘が高校のレポートの課題のために「なぜビックス湾(ケネディ政権時代のCIAによるキューバ攻撃)が失敗したのか?」と聞かれたときに、能力の高いエリート集団が愚かな決定を下したのか?を疑問に思って、意志決定についての研究を始めたものです。
間違った決定をしたのは次の①で示す調査の不十分が原因です。
ここから更に掘り下げを行っています。なぜ、こういった不十分な調査になってしまったかというと、
といったことが挙げられます。
そして、そもそもなぜ決断の場がそのような間違った考え方(勘違い)で支配されてしまったのかという根本的な原因についても考察しています。(ここが一番重要です)
こうした雰囲気や環境が間違った判断につながったと結論づけられています。
(参考)
成功に導く意思決定の方法
より多くの人を集めみんなの意見が合う決断をすべきだという考え方が、いかに間違った決定につながりやすいかはこれまでに解説したとおりです。
こうすると失敗しやすいという実験結果が既にあるように、こうすると成功しやすいという実験結果も既にあります。
責任をとり行動する1人の決断
成功するために意思決定は結論から言うと、「責任をとる人が主体的に少人数で動く」ことです。
「誰かがやってくれる」「誰か他の人が責任をとる」「私は計画を立てるだけ」「行動するのは私ではない」と思っている人たちが、本気になって情報を集め審議することはほぼありません。
その逆で、「全責任を私(たち)が被る」「最前線で実行するのは自分たちだ」という意識があれば、できうる限りの情報を集め審議するようになります。
集団での合意は時間の無駄
先に述べたようにそもそも集団の合意を取るというのは人の性質上無理があることです。
仮に意見を聞いたとしても、情報共有バイアスや確証バイアスがあり、賛成・反対に関わらず意見そのものが的外れなことも少なくありません。
そもそも、みなが合意すればプロジェクトが上手くいのか?というと決してそうではありません。
それよりも、責任をとる一人が行動し結果を出せば、周りの人は自然と合意するようになります。
最初に合意をとることよりも、まずは少人数で動き出し、トライ&エラーを繰り返しながら改善を続け成功に近づいていくことが必要です。
責任をとらない1,000人の意見ではなく、責任をとり行動する1人の覚悟が成功につながります。
好き嫌いで判断しない
計画や提案の内容を中身ではなく「相手を好きか嫌いか」で判断してしまうことが多くあります。
計画の実行結果すぐに出ず、責任の所在が不明確なが行政や政治の世界は特にそうです。
感情をもち、ストーリーで心が動く人の性質上仕方のない部分もありますが、失敗を避け、成功につながる意思決定をしたい場合は好き嫌いで判断してはいけません。
なぜなら、人に好かれるのが上手な人=情報を緻密に精査し論理的な判断ができる人とは限らないからです。むしろそうでない場合の方が多いです。
次のような考え方をしている人に正しい意思決定をする力はありません。
もちろん人を疑ったり嫌えというわけではありません。
人に好かれるというのは凄い能力です。そしてあなたがその人のことを好きならそれは楽しく幸せでいいことです。
ただ、それとその人が提案している内容は別という話です。「あなたは面白くて、話が上手くて大好きだ。この計画の根拠や具体的な理由をもっとください」と言えばいいだけです。
「でも」などの逆説すらつける必要はありません。好き嫌いと、計画の論理性はまったく別です。
好きだから提案の内容をチェックしない。嫌いだから提案を受け入れないという姿勢は失敗を招きます。
数値・論理で議論する
成功確率の高い意思決定をするためには、好き嫌いという人間の情緒や感情で判断するのではなく、数値や論理で議論することが大切です。
例えば、対象のエリアに何人ぐらいの人口がいてそのうちの何割が顧客になってくれる可能性があり、商品をいくらで販売すると競合よりも優位性があり、どのくらいの人数と時間で働けば月・年単位で利益がどれぐらいでて、返済計画や収益計画を達成することができるか?
ということを数値をベースに順を追って議論し、数値や論理で「これは無理そう」という判断をします。
プロジェクトを前に進めるためだけに希望的観測に沿って作為的な数字をつけた計画はほとんどの場合で失敗します。
なおコンサルタントなどの部外者はそういった希望的観測に沿った数値を提示してきます。
というのも、コンサルタントの仕事は計画を受け入れてもらってお金をもらうことです。現実的な計画をつきつけて否定され契約を打ちきらることは避けなければいけないからです。
そして、提示した計画を自分が実行するわけではありません。計画を提案したら仕事は終了です。そのため綺麗なストーリーを並べて、ネガティブなことは言ってこないのが普通です。
結局のところ数値や論理の確からしさは自分で検証する以外に方法がありません。
平等な環境づくり
プロジェクトを進めるときは1人のみで推進するよりも、協力者の力を経てチームや組織で行動していくことが一般的です。
もちろん最終的な意思決定をするのは責任を負い行動する少人数であるべきですが、だからと言って他の人たちを無視したり拒絶すると失敗に陥ります。
世界有数のエリートと言われる人たちが集まっても、過大評価や道徳の過信、同調圧力が発生して判断を間違い致命的な失敗を犯します。
こういった致命的な失敗防ぐには、メンバーが「これは間違っている」「危険だ」と思ったことを素直に打ち明けられる環境作りが必要です。
メンバーが安心・安全だと思える環境を作れるのはリーダーなどチームを率いている人たちです。
普段からメンバー全員に平等に発言の機会を与えることや、安心して発言できるよ関係性をつくっていくことが重要になります。
一貫性より柔軟性
計画は練っている時が最も情報量と経験が少ないときです。このため、計画が計画どおりにいかないことは普通です。
一度決定を下したからと言って、計画を一切変更せず無理やりにでも貫く姿勢は意志が強く聞こえはいいですが、被害を増大させるだけです。
早めに撤退すれば新しい調整ができたはずが、ズルズルと先延ばしにしたせいで再起不能に陥ってしまいます。
このため、プロジェクトを成功させるためには一貫性よりも柔軟性の方が大切です。
参考
この記事の内容は経済産業研究所や内閣官房地域活性化伝道師を務めた木下 斉さんの「地方創生大全」の一部を要約しまとめたものです。
本書の中にはより具体的な事例や数値データなど、地域活性化や地方創生のための事業を始める際に知っておくべき内容がたくさん詰まっています。
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