人には誰でも思い込みがあります。例えば「~しなければいけない」「絶対に~だ」というものです。
こういった思い込みは現実と乖離しているため、思い込みに基いて行動すると、望んでいない間違った結果に陥ることがほとんどです。
心理学用語で思い込みのことを認知バイアスと呼びます。具体的には「人が直感的な判断に基づいて間違った、あるいは非合理的な思い込みをしてしまうこと」を指しています。
バイアスとは歪みや偏りのことです。ある一つのものに対して、主観と客観など2つの間に差が生じるようなときに使います。
ここでは人が簡単にはまり込んでしまう3種類の認知バイアスと、そこから抜け出す方法についてまとめています。
3つの認知バイアス
人が簡単にはまり込んでしまう思い込み、すなわち認知バイアスには次の3種類があります。
思考の省略
認知バイアスによる「思考の省略」とは、具体的な理由が抜け落ちている状態です。
例えば「あの子は態度が悪い」「ほんとそうですよね」という会話の中には、その具体的にその人のどんな態度が悪いのかという理由が抜け落ちています。
態度が悪いことが1個や2個あるだけにも関わらず、表面的に目立つところだけに注意を向けて、その人の全ての態度が悪いという結論にいきついています。
「中国人だからしょうがない」「これだから韓国人はダメだ」といった表現も、よく見かける思考の省略です。
ある特定の人のたった一つの行動から、何万人といる国民全員を一つの性質でひとまとめにしてしまっています。
中国人にも韓国人にもとても優しい人、心温かい人、正義感の強い人などたくさんの人がいます。いい人も悪い人も、良い行いも悪い行いも混在している。それは日本人も同じです。
だからこそ、「どの人のどんな行動がなぜ悪いと思ったのか」を明確にすることが重要です。
いいことも認知バイアスになる
認知バイアスになるのは悪いことだけではありません。良いことも認知バイアスになります。
「あの子はすごい」「ほんとだよね」という会話も、その子の何がすごいのか、誰と比較してすごいのかが明確になっていません。
こういった思い込みがあると、例えば、「すごい」と評判の子に、人前でスピーチさせたら一言も喋れなくて落胆したということが発生します。これは、その子がすごいのは美術や数学の能力でスピーチ能力で、しかも、隣の席の子と比べてすごいというだけの話なのかもしれません。
仕事や面接の場でも同じです、「すごい」「素晴らしい」という表面的な思い込みで終わらせるのではなく、何がどうしてどのくらいすごいのか?を明確にすることが、正しい評価と行動につなげるために非常に重要です。
思考の一般化
認知バイアスによる「一般化」とは、物事の答えを1つに決め付けることです。
一般化のワナにハマっている人は、次のような言葉を多用します。
「絶対そうだよ」「全部〇〇だった」「みんな△△してる」というように、極端な発言が多い人は、思い込みが激しい人です。
実はとても曖昧
「いつも」「必ず」「絶対」「何度も」「みんな」「全部」といったように極端な言葉は答えを一つに絞っているようですが、実はとても曖昧です。
「いつも、こうなるんだよ」という人に「いつもって例えばいつ?」と訊ねると、「〇〇した、〇曜日」のようにとても限定した回答が返ってきます。これは、まったくもって「いつも」ではありません。
「みんなやってるよ」という人に「みんなって例えば誰?」と訊ねると「A君とB君とC君」といったように、限定された人の名前しかあがりません。まったくもって「みんな」ではありません。
つまり、思考の一般化による認知バイアスとは、間違った答えの思い込みに他なりません。
このような極端な表現は、子供の頃の会話や、親や先生との約束や躾、マンガやドラマなどで多用されていることによる洗脳である場合がほとんどです。
認知バイアスとは人が無意識のうちに陥いる思い込みで、多くの人がそのワナにハマっています。
思考の捻じ曲げ
認知バイアスによる「捻じ曲げ」とは、原因と結果の間にある事実を捻じ曲げて結び付けることです。すなわち、因果関係がはっきりしていない状態を指します。
例えば、会社で営業成績の悪い人が「あいつがあの案件を落としたから、会社の業績が下がった」という発言をした場合、原因は「あの人が1つの案件を落としたこと」その結果は「会社の業績が下がった」です。
ですが、それが真実かどうかは明確ではありません。市場の状況が変わった、人が辞めた、社員のモチベーションが低い、他の部署で損失が出ているなど、考えうる原因は他にもあります。
「~のせいだ」という決めつけは事実を捻じ曲げる思い込みであることがほとんどです。
いいことに対しても発生する
事実の捻じ曲げは「~のせいだ」「~が原因だ」というマイナスのことだけでなく、プラスの事柄に対しても発生します。
ある部長がA君をひいきしていて「A君がいると、仕事が上手くいくよ」としきりに言っている場合、「仕事が上手くいっている」という結果は「A君がいる」という原因(理由)によるものだという思い込みが発生しています。
これは裏返すと「A君がいないと、仕事がうまくいかない」という思考と同じで、組織の業績を下げる非常に危険な思い込みの一つでもあります。
仕事がうまくいっているのはA君の存在ではなく、A君が行っているなんらかの行動です。もしかするとそれ以外の要素が関係しているのかもしれません。
そこを明らかにすることが、いい成果を出すためには非常に重要です。
3つの認知バイアスへの対処法
「思考の省略」「思考の一般化」「思考の捻じ曲げ」の3つの認知バイアスの対処法はどれも同じく「具体的な理由を訊ねる」ことです。
なぜなら、認知バイアスは具体的な理由が抜け落ち、短絡的で曖昧なために引き起こされている思い込みだからです。
人には2つの思考があります。1つは本能的かつ直感的でとても速い「ファーストな思考」。もう一つは論理的に考えて答えを導き出す「スローな思考」です。
私たちの祖先は何十万年もの間、過酷な狩猟採集時代を生き延びてきた生物です。このため、私たちの脳や体、本能は過酷な狩猟採集時代を生き延びるようにプログラムされています。
ゆっくりと思考していたら獲物に襲われるなど、危険から逃れることはできません。
このため、「みんながあっちの方向に逃げている」なら「自分もそっちに逃げる」というように、「なんでだろう?」と考える遅い思考をすっ飛ばしたファーストな思考が無意識のうちに自然発生するようにできています。
安全が確保されている現代では、ファーストな思考はさほど必要ではなく、むしろスローな思考が必要なため、「例えば、具体的にはどういうこと?」といった質問で、具体的な理由を訊ねると、すっ飛ばされていた思考の部分を明らかにすることができます。
認知バイアスを解く質問の例
3つの認知バイアスを解く質問には次のようなものがあります。
「具体的には~?」や「なぜそう思うんですか?」といった、相手の思考を引き出す質問が認知バイアスを解くカギです。