私たちは計画を立てるときにいつも楽観的に考える傾向があります。それが悪いというわけではなく、ヒトにはそういう性質があるということです。
いくらそういう性質があるからといっても、あまりに現実から外れた楽観的な計画は、未来の大損失や破滅につながります。
そういった大きな失敗をさけるため、計画はしっかりと練り上げることが重要です。
ここでは、私たちが詰めの甘い計画を立ててしまう理由と、その対処法についてまとめています。
詰めの甘い計画を立ててしまう理由
私たちが詰めの甘い計画を立ててしまう主な理由は次の2つです。
人は楽観的な生き物
世の中には悲観的な人もいますが、人は本質的には楽観的な生き物です。
私たちがこの世に生まれたとき、喋ることも、食べることも、立ちあがることも、歩くこともできません。
ですが、何度も何度も挑戦しては失敗や痛い思いを繰り返しながら、それらをできるようになっていきます。
「痛い」「できない」ことは考えません。「いつかできる」と考えてそれをやり続けます。
もし、私たちが生まれながらに悲観的な生き物だったら「痛い」「無理」「できない」という考えが頭を巡り挑戦することをやめてしまいます。
このため、大人になって計画を立てるときも「なんとかなる」「このぐらいでいける」という希望的観測が入り込んでしまいます。
そもそも計画を立てそれに挑戦しようとする時点で「実現できる」と思い込んでいるぐらいです。
意識したものだけに、注意が向く
人の性質の一つに「意識しただけに注意がいく」すなわち「意識したもの以外は目に入らない」というものがあります。
アメリカの心理学者 ダニエル・シモンズが行った実験がそれを示しています。
被験者たちはある動画を見て質問に答えるというものです。
白いシャツを着た3人の女性と黒いシャツを着た3人の女性がバスケットボールでパスを出し合います。そのとき、白いシャツを着た人が何回パスを出したか?という質問が出されます。
動画の途中にゴリラの着ぐるみを来た人が画面の真ん中を通り過ぎ、ステージの中央に来たところで胸をドンドンと叩き、また歩き去っていきます。
しかし、被験者たちは「白いシャツを着た人が何回パスしたか」に集中しているため、後から「動画の中で何かおかしなことがありませんでしたか?」と聞かれても、ゴリラに気づかないという状況が発生します。
「うそでしょ!?」と思うかもしれませんが、意識したもの以外は、見落とすのが私たちヒトの性質です。
このため、私たちは計画を立てることに集中すると、その計画に関することしか見えなくなります。そして、私たちが意識していないが、実は大きな影響を及ぼす事柄を見落とします。
計画以外のことが目に入らないとは?
何か計画を立てるときに、その計画に関することしか見えなくなり、大きな影響を及ぼす事柄を見落とす例にラスベガスのあるカジノがあります。
そのカジノは新しくオープンするにあたって、完璧をきすため、リスクや利益を徹底的に計算しました。そこには楽観的な憶測が入り込む余地はありませんでした。
それにも関わらず、そのカジノの運営は全く計画通りに行きませんでした。というのも次の3つの事態が起こったためです。
「トラに襲われる」「大事な書類を紛失する」「娘が誘拐される」はどれもカジノ設立のための計画には含まれていませんでした。
「それはいくらなんでも予想できないだろう」という声が聞こえてきますが、そういう予想ができないことが起こるのがこの世の中です。
より身近なところでは、子供が病気になる、自分が病気になる、交通事故に遭う、車のバッテリーが上がる、大雪で交通機関がマヒする、台風が直撃する、期待していた社員が辞めるといったことが起こります。
なお、これらは計画には組み込めないし予期はできないものですが、1年を振り返れば、このうちのどれかはほぼ確実に発生しているものでもあります。
細部にまでこだわる逆効果
計画を立てるときに「希望的観測」と「予期しない事態」を排除するために、思考実験や調査を何度も何度も繰り返し、細部まで慎重に計画を詰めることが必要かといえば、決してそうではありません。
むしろ、細部にまでこだわりすぎることは、余計に計画通りにいかない事態を生み出します。
なぜなら、計画は計画どおりにいかなくて当たり前、予期しないことが起こって当たり前だからです。
そもそも、どんなに頭をひねっても「トラに襲われる」「大事な書類を紛失する」「娘が誘拐される」ことだけを予測することは不可能です。関連しない他のたくさんのことまで想定しなければなりません。
そこに時間をかけすぎると、計画を立てるだけで時間だけが過ぎていき、プロジェクトが台無しになってしまいます。
また、逆説てきですが、細部まで計画を練ろうとすると、よけいにその計画だけに目が向いてしまい、他のリスクに目が向かなくなります。
対処法
より実用性があり現実に近い計画を立てるには、次の2つの方法が効果的です。
過去の実績を参考にする
計画を見誤る理由の一つは「意識したものだけに、注意が向いてしまう」ことです。このため、意識的に外に目を向けることが重要です。
意識的に外に目を向ける最適な方法は、これからやろうとしている計画に類似した、過去のプロジェクトを参考にすることです。
そうすれば、計画ではなく実際にどれだけ時間や費用がかかったか目安を算出することができます。
未来から失敗した場合を想定する
計画を失敗に至らせる原因を考えることは簡単ではありません。
「何が起こりうるだろうか?」と考えると、災害、怪我、病気など、あまりに多くのリスクが思い浮かびます。しかし、どれがどういった影響を及ぼすかを比較することは大変です。
そんなときに、お勧めの方法があります。それは 未来から失敗した場合を想定することです。具体的にはメンバーに対して次のように質問します。
今が1年後だと想像してください。私たちは、この資料に書かれている計画を実行しましたが、大失敗に終わりました。
今からの10分間で、計画が失敗に至ったプロセスを書き出してください。
このような問いかけをすることで、計画を失敗に至らしめる可能性があるリスクを洗い出すことができます。
しかも、いつどんなことが起こって、どれだけのインパクトを与えたかということがストーリーでわかります。
参考
この記事の内容はスイスの経営者かつ小説家でもあるロルフ・ドベリの「Think Smart ~間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法~」の一部要約と自分なりの見解を加えたものです。
本書では人々が陥りやすい思考のワナとその対処法が、実例を踏まえてふんだんに紹介されています。
とても分かりやすく、成功したい、幸福になりたい思っている人の必読書です。
この記事に少しでも興味を持たれた方は是非実際の書籍を手に取ってみることをお勧めします。