会社における人材の育成は組織における重要な課題の一つです。
世の中には自らどんどんと行動して吸収する優秀な人がいます。どの企業もそういった自ら考え行動し吸収していってくれる人材が欲しいと考えています。
しかし、そういった人材は自分が優秀であることを理解し、そして市場でも引く手あまたです。
ネームバリューや資金力がある企業であればそういった人材を確保することは簡単ですが、地方の中小企業にそういった人材が来て留まってくれることはほとんどありません。
そういった弱い組織では、たまたま来てくれた決して優秀とはいけない人たちを育てていく以外に生き残っていく道はありません。
上司が一から十まで事細かに説明し、マニュアル通りにやらせるという考え方をしている組織もありますが、それでは、部下は育たず、上司は永遠に時間を取られ続けることになります。
ここでは優秀でない人材を育てるために知っておくべきポイントをまとめています。
人の性質
部下を持ち人を育てる立場にいる人は人の性質を理解する必要があります。
それは、人には「楽をしたい」「サボりたい」「勉強したくない」「仕事をしたくない」という欲求があるというものです。
これだけだとあまりに当たり前で「そんなの知ってるよ」と言われそうですが、もう一つ次のような一面も持っています。
「もっとやりたい」「学びたい」「仕事したい」という全く真逆の感情です。
上に立つ人は、人がどうすると「楽したい」「サボりたい」と思うようになり、どうすると「もっとやりたい」「学びたい」と思うようになるかを理解しておく必要があります。
人が働きたい学びたいと思うには?
人に「サボりたい」「勉強がきらい」と思わせる方法は簡単です。それは上がコントロールしようとすることです。
「~しなさい」と押し付けたり、「そんなのはダメだ」と否定したり、本人の気持ちを一切優先せず、外からくるものだけを押し付ければ人は簡単に動かなくなります。
一方、人が「働きたい」「学びたい」と思うときは、自分が思いついたことを実現させるために行動しようとし、学ぼうとします。
それをやることでどんなメリットが自分にあるかを理解し、そのための行動を自分で考えて「こうすればいいんじゃないだろうか?」という考えを持っていれば、人は放っておいても勝手に動きます。
部下に答えを教えてはいけない理由
仕事をするときにそれが初めてのことであれば人は当然のように悩みます。まったく初めてのことだったり、検討もつかないことであれば固まります。
そういう場合、放っておいたところで何も進みません。1週間、2週間とわからないまま時が過ぎ「今まで何してたの?」と状況になることも少なくありません。
だからといって、わからない人に答えを教えてはいけません。
答えを教えれば、部下は目の前の課題を解決できます。ですが、それは部下自身の考えで解決したわけでなく、教えた人の指示通りに動いただけです。
何も考えていないため、やったことはほとんど記憶に残りません。次回やるときはまた「どうやるんでしたっけ?」と聞く羽目になります。
教えてあげることは親切でとてもいいことのように感じますが、教えすぎてしまうと情熱を奪うということには注意しなければいけません。
事細かに指示を出してはいけない
よく、一から十まで事細かに指示を出す人がいますが、こういった人も部下が「学びたい」「働きたい」と思う気持ちをそぐことになります。
事細かに指示されて部下が感じるのは「自分で考えても意味ない」「自分が学ぶ必要はない」です。
前にも言っただろうは普通のこと
過去に教えたことをまた質問してくる人がいます。そのときに「物覚えが悪い」「前にも言っただろう」とイライラをぶつけてしまいがちですが、部下が覚えていないのは教えたが悪い上司の責任でもあります。
授業で先生が喋った内容をすべて覚えていて暗記できる人はいません。それどころか先生の言ったことをほとんど覚えていない人もいます。
それは、先生が一方的にしゃべり、生徒は受け身の体制だからです。
もし、先生が生徒を当てて質問をしたとき、一生懸命思い出そうとしたり、恥ずかしい思いをすると、そのことは忘れようとしても忘れられなくなります。
これは「自ら考えて答えようとする」という能動に変わったからです。
つまり、相手に記憶してもらおうと思ったら、まずはその人を能動的にする必要があります。
何かを教えるときにそれをせず、いきなり答えを言ったり、一から十まで指導して考えさせないのであれば、それは覚えてない方がむしろ当然ということです。
加えて人には時間が経つと忘れるという性質があります。ドイツの心理学者 ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線を見れば人がいかに忘れる生き物かがわかります。
20分後ですら、人は42%の物事を忘れます。1日経つと67%、ほぼ半数以上は覚えていないのが普通ということです。
忘れて当たり前なのに「前にも言っただろう」と言うのは嫌がらせでしかありません。次回以降わからなくても聞けなくなってしまいます。
上司は何かをする前にどうすればいいかを聞いただけ偉いと考えるべきです。
どうすれば自ら考えるようになるか?
では、どうすれば部下が自ら考えるようになるのでしょうか?その答えは、上司が部下が考えるきっかけを提供することです。
「どうすればいいと思う?」と聞くことから始まります。
その時に一番重要なことは、上司の目的は「仕事を効率的に終わらせることではなく、部下が自ら学びたい、動きたいと思えるようにすること」だと心得ることです。
仕事の効率だけを重視すれば「一から十まで指示する」「答えを教える」または「自分でやる」といった解決策にたどり着いてしまいます。
そうではなく部下を育成することが仕事だと考え「どうすればいいと思う?」と聞き続けることが必要となります。
答えではなくヒントを与える
まったく何もわからない状態で「どうすればいいと思う?」と聞かれても、自分の中
から答えをひねり出すのは不可能に近いです。
もしかしたらいつか答えが見つかるかもしれませんが、あまりにも時間がかかりすぎます。
そういう時は部下が自ら考えて答えにたどり着けるようにヒントを出すのが効果的です。
あくまで答えを出すのは部下であることを胸に留めて置く必要があります。
遠回りが最短の近道
部下に「どうすればいいと思う?」と意見を促し、わからなくても答えを教えるのではなくヒントを教えて、あくまで自分の中から答えをひねり出してもらうという作業は、気が遠くなるほど時間がかかるものです。
「そんなことするぐらいだったら、自分でやる方が早い」と考えてしまうのも無理はありません。
ですが、長期的な目線で組織を見ると、部下が自分で気づく学びを与えないことはもっとも効率が悪い方法になります。
あなたが部下の成長の機会や仕事を奪ってしまう限り、部下は永遠に成長しません。何よりもあなたの仕事は永遠に手離れしません。
一方、部下が自ら答えをひねり出せるようにサポートすることは最初はとても時間がかかります。しかし、一度答えの出し方を見つければ、今後は同じ作業を自分でできるようになります。
さらに、「自分で考えて行動する」という成功体験を積んでいるので応用が可能になります。
極めつけは、そのように教えられた場合、周囲の人や将来の部下やにも同じように教えるため、更に自発的に行動できる人が増えていくという好循環になっていくことです。
逆に「ものわかりが悪いな!もういいよ!」と言って育てられた人は、周りの人に対しても同じ態度をとるようになるので、悪循環が起こり、将来的には衰退する結果となります。
参考
この記事の内容は篠原 信さんの「自分の頭で考えて動く部下の育て方」の内容の一部抜粋と要約です。
なぜ指示待ち人間が生まれてしまうのか、どうすると人が自ら動いてくれるのかがたくさんの実例を踏まえてとてもわかりやすく説明されています。
マネージメントなど人を指導する立場にある人は一読しておくべき指南書です。