世の中には人のやる気を奪う言葉が蔓延しています。何かを「やりたい」と申し出たときに「それはダメだ」「やめておけ」といわれればやる気を失うのは当然です。
否定は人のやる気を奪う最もわかりやすい例で、当然、口にするべき言葉ではありません。
もう一つ知っておかなければいけないことは「肯定の中にも人のやる気を奪う言葉がある」ということです。
最終的には「やってみたら」と肯定しているのですが、その言い方が悪いために相手がやる気を失ってしまうパターンです。
この言葉の性質の悪いことは、言っている本人が相手のやる気を奪っていると気付いていないことです。
ここでは、相手のやる気を奪う肯定言葉と、相手がやる気を出すためにはどういった言葉をかければいいかについてまとめています。
相手のやる気を奪う言葉
相手のやる気を奪う言葉とは「条件付き肯定」です。
「〇〇だと思うけど、頑張ってごらん」「〇〇だと思うけど、やってみたら」という言葉です。
「これをやりたいです!」とやる気を持って言ってきた人に対して「できないと思うけど、やってみたら」と伝えれば、相手は「信頼されていない」「無理だと思われている」と感じます。
こういった言葉を言われて「よし頑張ろう」と張り切る人はいません。
なぜ条件付き肯定を言うのか?
なぜ私たちの多くが「〇〇だけど、やってみたら」というように条件付き肯定を使うのでしょうか?
それは私たちが親や学校から受けてきた教育が強く影響しています。
私たちは自分が喋る言葉に責任を持つことを要求されて育っています。このため、「ウソを言ってはいけない」「正しいことを言わなければいけない」と思い込んでいます。
だから、「この人なら確実にやり遂げられる」と確信できない相手に対して、無責任に「できるよ」「大丈夫。やってみなよ」と言ってはいけないと考えてしまいます。
無責任に肯定する
学校教育や社会規範としては、私たちは自分が喋る言葉に責任を持つことを要求されて育てられていますが、現実世界では、本当でもなく、無責任な言葉を発することがポジティブに働くことが頻繁にあります。
特に「相手を肯定する言葉」に正しさや責任は必要ありません。ウソでもわからなくても、無責任に肯定すると、ものすごい効果を発揮します。
「大丈夫」「できるよ」「心配ない」「なんとかなる」「素晴らしい」「すごい」「あと少し」「もう完成したも同じだ」こういった言葉を言う時は無責任で問題ありません。
あなたが誰かに「~がしたいです」と相談したときに、相手が全く確信がなかったとしても「大丈夫きみならできるよ。やってごらん」と言ってくれたら、「よし頑張ろう!」という気持ちになるのではないでしょうか?
そしてその言葉はくじけそうになった時に「あの人は信頼してくれたから」という心の支えになり、頑張る勇気を引き出してくれます。
なぜ無責任に肯定していいのか?
そもそもこの世の中は何が起こるかわかりません。責任をもって言ったことが現実になるとは限りません。
世の中には多くの学者や専門家などその道を極めて人たちがいますが、そういった人たちが声高々にする予言はほぼ高い確率で外れています。
このため「無理だからやめといた方が良い」「きっと無理だよ」と責任をもって否定したり、「苦しい思いをするからやめておけ」と恐怖を煽って、それがそのとおりになるとは限りません。
明日のことは誰にもわかりませんが、確かなこともあります。それは、人は肯定的な言葉をかけられれば「頑張ってみよう」と張り切ります。
「無理だからやめておけ」と言われるとやる気をくじかれて、自信を失っていきます。
だからこそ、無責任に肯定すべきなのです。
結果はいつも未来にあります。今取り組んでいることがうまくいくかどうか失敗するかは明日がこなければわかりません。
相談で最大の効果を発揮する
そもそも相手に対して「大丈夫。あなたならきっとできる」という無責任な肯定言葉をかけて、文句を言う人はいません。
それどころか、人に希望を与えます。
この無責任な肯定が最大の効果を発揮するのは「相手が相談にきたとき」です。
「相談」に関して多くの人が勘違いしていることがあります。それは「正しいアドバイスをしなければいけない」という思い込みです。
ですが相談者は正しいアドバイスなど求めていません。
相談するときには既に自分の心の中に答えを持っています。それを確認や後押しして欲しくて相談に行くのです。
例えば、担当の指導教官に「留学を考えているのですが」と相談しにいったとき、その人は心の中で「留学したい」という答えを既にもっています。
それに対して指導教官が自分の経験や相手のことを判断して「留学なんてする必要ない。就職にも不利になるしやめておけばいい」というアドバイスをしたとします。
すると相手は「よし頑張ろう!」と思うどころか、やる気を失い「やっぱり自分にはダメなんだ」と深く心を痛めるだけです。
ですが、留学が上手くいくかは実際にやってみないとわかりません。日本には留学している人もたくさんいるし、それでいい人生を手に入れている人もたくさんいるからです。
上手くいくかどうかは全て本人次第です。あなたが「無理だ」と言っても「いいね。挑戦してみてもいいんじゃないか」と言っても、あなたが責任を負う必要はありません。最終的な決断の責任をとるのは本人です。
だからこそ、無責任に「大丈夫。やってみたら」と肯定すればいいのです。
その一言で相手は「よし頑張ろう」という気持ちになります。そして、その後もくじけそうになった時に、先生が信じてくれたんだから頑張ろうという気持ちが支えになります。
営業職は無責任な肯定が大事
最も「相談」される職業の一つに営業職があります。
営業はたくさんのお客さんと出会ったり、問い合わせをもらって相談を受けます。
何らかの相談を受けたときに新人営業マンは、一生懸命に相手にアドバイスをしようとします。ですがその必要はありません。
なぜなら、お客さんは相談したときに既に答えを持っているからです。アドバイスを求めているのではなく、自分を理解している人を探しているだけです。
だからこそ、営業職がやることはアドバイスではなく、無責任な肯定です。あなたのやりたいことを応援しますよという姿勢が必要になります。
お客さんが相談にきたら「すばらしい!」と言ってあげるだけでいいのです。「大丈夫。あなたならできる」と言ってあげるだけでいいのです。
心配ないと言い切るだけで救われる
相手が相談にきたら無責任に肯定しましょう。それが相手の求めていることです。
人は「心配ない」と言い切ってもらうだけで、心が救われる生き物です。だから、進んで無責任に「心配ない。大丈夫」と何度も何度も言えばいいのです。
そうすれば相手は安心して心が健康になります。
それで無責任だと怒る人はほとんどいません。人は自分の生き方に対して責任を持っています。あなたが他人の生き方に責任を持つ必要はありません。それは余計なおせっかいです。
他人は自分の生き方に責任を持っているのだから、あなたは無責任でいいのです。
仮に「無責任だ」と言って人に責任を押し付けるような人とは、直ぐに距離を置いて離れるべきです。
自分の人生の責任を自分でとらず、他人に押し付けてばかりの人と一緒にたら、自分までダメになってしまいます。
参考
この記事の内容は複数の企業を経営する中村信二さんの「営業の魔法」の一部要約および、自分なりの解釈を加えたものです。
営業の魔法は音声版で楽しく学ぶことができるものです。美しい心理描写のストーリー仕立てで、主人公が学びながら成長していく姿がありありと目に浮かびます。
最初から最後まで心からうならされる学びで満ちています。感動にも満ち溢れ、心が熱くなること間違いありません。
仕事や生き方で迷っている人はぜひ聞いてみることをお勧めします。心に希望の光を与えてくれる、何度も何度も聞き返す価値のある素晴らしい一冊です。