新しい事業を計画するときに、理想や希望を詰め込んだ楽観的な計画を立てることはとても楽しいものです。
一方、事業が上手くいかなかったときのことを考えるのは楽しいものではなく、できるなら避けて通りたいと思うのが一般的です。
ですが事業を計画する段階で、上手くいかなかったときの事業の撤退計画を考えておくことはとても重要です。
ここでは、事業の撤退計画を考える重要性と、考えなかった場合にどういったリスクが待ち受けているかについて解説しています。
事業撤退計画の重要性
計画通りにいかないのが普通
そもそも新しい事業を計画するときは、最も情報と経験が乏しい状態でもあります。そのような状態で考えたことが、100%その通りにいくことはありません。
実際、事業を始めたら必ず困難や失敗がついてきます。そのこと自体は普通のことなので特に問題ではありません。
計画通りにやっていたら上手くいかなかったところを調査・修正しながら進めていくのがセオリーです。
撤退基準は未来の希望
ですが、それでも時代背景や事業の内容など、どうしてもうまくいかない事業も出てきます。むしろ、上手くいかない事業の割合の方が多いです。
その時に、撤退する基準がないと、やめ時を逃しズルズルと人と時間を投入し続けることになります。
もっと早くに撤退しておけば、新しいビジネスで再起することも可能だったのに、あまりに損失が膨れ上がり、再起することすら不可能になってしまいます。
つまり、事業や組織が再起不能になるのは、失敗の色が濃くなっているにも関わらず、それを放置(あるいは無視)して撤退をしないときです。
第2次世界大戦中の日本軍の失敗の原因を探った失敗の本質という本の中でも、失敗した原因は敗戦の色が濃いのに当初の計画に固執し、大きな失敗を積み重ねたことが大失敗の要因の1つとして挙げられています。
事業の計画時に撤退基準を作るというと「縁起でもない」という人たちがいますが、そうではありません。
撤退基準とは未来への希望の芽なのです。
撤退計画を話し合えない組織は失敗する
初期段階で事業の撤退計画を立てられない組織は、計画を実行したところで失敗する可能性が非常に高いです。
先にも述べたように、事業は計画通りにいかないことが普通です。その時に求められるのは素直さと柔軟性です。
計画通りに行っていないことを素直に受け止めて、柔軟に変化して対応していくことが必要になります。
ですが、事業の計画段階で失敗したときの話をし始めると「縁起でもない」「余計なことを言うな」「最初から失敗の話なんかするな」といって撤退計画の話を拒絶する組織は、素直さや柔軟さに欠け、状況を楽観視し、競合を下に見て、自分たちが特別であるかのように勘違いしています。
そして、計画通りにいくと過信しています。
撤退が遅れるほど損失が大きくなる
撤退計画を拒絶する組織は自分たちの計画が絶対に上手くいくと過信しています。
その結果、計画通りにいかない状況が発生しても、このまま計画通りにやっていけば必ず状況は改善すると信じ込み、そのまま人材・資金・労力をつぎ込んでいきます。
失敗を認めたくない
そもそも撤退計画を立てることを拒絶している時点で、その人たちは失敗する可能性すらも認めたくない人たちです。
成功したい。出世したい。よく見られたい。失敗できない。という思考で頭の中がいっぱいになっています。
実際に困難や失敗に直面したときも失敗を認めたくないので、マイナス部分を追加予算を投入してなんとか穴埋めしようとしたり、上手くいかない状況から目を逸らして計画通りの行動を続けます。
撤退の決断をズルズルと遅らせた結果、損失は大きくなり組織は再起不能な状態に陥ります。
行政の事業は失敗事例の宝庫
とくに行政主体で補助金や交付金などの税金を使った事業はズルズルと損失を積み重ねていきやすい傾向があります。
事業をスタートするときは地域創生を掲げ「人が集まり、雇用が生まれ、地域が活性化する」という美しく楽観的なストーリーに大金をつぎ込みます。
結果として、「活性化を目的として始めた事業が、途中から上手くいかないことが判明し、事実上失敗する」というケースが山のようにあります。
自分たちの資産は減らない
なぜこのような損失を生み出す事業が発生するかというと、地方自治体や国などの行政は事業をするにあたって自分たちのお金を使うことはありません。給与や貯金をはたいて事業を起こすわけでなく、税金をつかって事業を起こします。
つまり、失敗して適切なサービスが受けられなくなりお金を失っていくのは自分たちでなく、その地域の住人や国民だからです。
事業を計画し実行してきた本人たちはいたくもかゆくもありません。
永続的な責任者がいない
また、担当者の数年単位でコロコロと変わるため明確な責任者がいません。「この事業と人生を共にする」と言う人はゼロです。
ときおり任期中に上手く逃れられなかった市長がリコールされることがあるぐらいです。
大失敗していてもなんとか任期を終えさえすれば責任を負うことなく次のポジションに移っていきます。
このため、事業が失敗していることが明らかになっても、責任の所在が明確になることを恐れ、「自分の任期の間だけは逃げ切ろう」と場当たり的に追加資金を投入して先延ばしにするのがほとんどです。
場当たり的な資金投入による失敗事例
行政の失敗事業の中でも名高い青森市のアウガという複合施設は、当初の開発費が180億円であったにも関わらず、その後、場当たり的な資金援助を続け、開発後にさらに追加で200億円を投入しています。
ですが赤字を垂れ流すばかりで2017年に閉鎖しています。
失敗を取り繕った結果、余計に高いツケが積み重なり、新しい事業に投資することすら難しい状況になりました。
もちろん失ったお金は戻ってきません。地方の住民に本来還元すべきサービスを取りやめその資金を返済に充てるしかありません。
撤退計画の立て方
撤退するかどうかは危険になってから決めるのでは、判断が遅れ損失が大きくなります。危険になったら誰かが決めてくれるという希望的観測は事業の未来を潰します。
そこで撤退計画は事業を実行し始める前に決めておくことが大切です。
目標をどの程度下回ったらプロジェクトを中止するかという一定のルールを定めます。
撤退の要件は「資金」と「時間」の2軸で設定します。
この期間を過ぎたら撤退するという時間軸と、これだけの資金を使ったら撤退するという資金軸です。
この要件を設定しておけば事業が行き詰ってきたときに「いったん考え直そう」と言い出しやすくなります。
「まだいけるかも」「もう少し頑張ろう」という場当たり的な希望的観測で損失が積みあがるリスクを回避できます。
成功は挑戦と失敗の繰り返し
事業が100%成功することはありません。小さな失敗と再挑戦を繰り返すことが事業の成功要件になります。
大きな失敗をすると再起不能になってしまいます。
計画通りにいくこともありません。大切なのは計画に対する一貫性ではなく、イレギュラーに対応していく柔軟性です。
挑戦して行き詰ってきたらいったん引いて、再度やり方を考えてまた挑戦してみる。この小さな失敗と再挑戦を可能にするのが撤退計画です。
撤退計画は未来に希望をつなぐための前向きな計画です。
参考
この記事の内容は経済産業研究所や内閣官房地域活性化伝道師を務めた木下 斉さんの「地方創生大全」の一部を要約しまとめたものです。
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