「締め切り」や「期日」という言葉が好きな人はほとんどいません。それらは私たちにプレッシャーや強いストレスを与えるからです。
特に他人が設定した「締め切り」や「期日」ほど嫌なものはありません。こちらのペースではないので、合わせてやるしかないからです。
では、あらゆる期日や締め切りを自分たちで設定できた方が人生はハッピーで全て上手くいくのでしょうか?
残念ながら、私たちは自分で設定した期日や締め切りは守れないことの方が多くなります。
それは意志力が弱いという精神的な問題や、良い悪いという良心的な問題ではなく、私たちヒトの性質がそういうものだからです。
ここでは、締め切りを他人が設定した場合と自分で設定した場合で、結果にどういった違いがでるかについて解説しています。
レポートの期日と成績
実験の内容
アメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーは学生を使って締め切りの設定方法により成績がどう変わるか調査を行いました。
なお対象の学生は世界ランキング20位のデューク大学です。日本最難関といわれる東京大学が36位なので、東大より断然頭のいい人たちがたくさん集まっています。
ダン・アリエリーは学生たちを3つのグループに分け、学期の成績をつけるための3つのレポートの締め切り方法を次のようにしました。
- グループA:自分で締め切りを設定し申告する(変更不可)。
- グループB:中間の締め切りを設けない。学期内に提出すればいい(自由に管理)。
- グループC:3つのレポートの締め切りが強制的に決まっている。
最も自由度が高く楽なのがグループB、比較的自由度が高いのがグループA、全く自由度がないのがグループCになります。
締め切りより早く提出しても何のメリットはありません。ただし、設定されている締め切りを遅れるとと1日ごとに減点されていきます。
実験結果
半年間に及ぶ調査の結果、最も高い成績をおさめたのはグループCの締め切りが強制的に決まっているグループでした。
もっとも成績が悪かったのがグループBの中間締め切りを一切設定しないグループでした。世界有数の頭がいい人たちですら、締め切りを完全に自由にするとそれを上手に守り切れないということです。
自己申告制で締め切りを設定させた場合は、何も締め切りを設定していない場合よりも成績がよくなることがわかりました。
ただし、自分で締め切りを決めるのでは、強制的に締め切りを設定されているほどのパフォーマンスは発揮できないということです。
締め切りを公表する
仕事や勉強のようにやらなければいけないこと以外にも、健康で安心で充実した人生のためにやった方がいいことがたくさんあります。
例えばダイエットや勉強の習慣を身に付ける、定期的に貯金するなどです。
自分で「よし明日からやるぞ!」と決めてもその明日が永遠に来ないか、3日ぐらいすると終わってしまいます。
上記の実験結果より「人は先延ばしする」という特徴がありますが、「自分で期限を決めて周りと共有すると成果が出やすくなる」という特徴もあります。
つまり、家族や友達に対してやSNS上などで「〇〇します!」と宣言すると、それを継続できる可能性が上がるということです。
デポジット式は効果が高い
健康診断は誰しもが受けた方がいいことです。受けないことによるメリットはほぼありません。
自分が病気だと知るのが怖いという人もいますが、知りたくなくて放置した結果待っているのは大手術か手遅れです。
虫歯がごくごく小さいときには軽く削って終わるのに、歯医者に行くのが嫌で放置した結果、耐えられないほど痛くなり、麻酔をして、歯を大幅に削るか、全て抜き、神経を取り除き、かつ高くつく結果と似ています。
とはいえ「健康診断をやりましょう!」といっても先延ばしされてしまいます。人はそういうものです。
こういったときに効果を発揮するのがデポジットです。
国や病院にあらかじめ10,000円のお金を預けておき、健康診断に行ったらそれが戻ってくるという方法です。
もともとは自分のお金なので、それを失いたくないという損失回避の心理が働き、健康診断を受ける人の数がグッと増えます。
まとめ
人は締め切りの設定が自由であればあるほど先延ばしする生き物です。そして、自由度が高すぎた結果、成績は下がります。
ですが、周りに公言すれば成績が上がる可能性があります。なかなかやる気がでないという人は、周りに公言してみてはいかがでしょうか?
誰もみていないようなSNSやネット上で公(パブリック)に対して「やります!」とつぶやくだけでも効果があるものです。
仕事で部下や社員の成績が伸び悩んで困るという人はもしかしたら締め切りを設定せず、部下にまかせていないでしょうか?
パフォーマンスを最も高くするには、強制的に締め切りをつくる方法です。何かを頼んだら必ず締め切りを切ることがとても大事です。
「絶対に守らないとダメ」というものだと、失敗体験を積み重ねてしまうので、「いったんここの期日になったら、進捗を共有して」としておくと効果的です。
頭ごなしに「なんで期日を守れないんだ!」と叫び続けても、恐怖心が植え付けれるか、あなたが極端に嫌われるだけで人は動くようにはなりません。
参考
この記事の内容はアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」の内容の一部抜粋と要約です。
人が犯しがちな判断ミスを行動経済学という観点から紐解いたものです。ユーモアを交えた文体でとても読みやすく新たな発見がたくさん詰め込まれています。
この本を読んだことがあるかどうかで今後の人生の行動が変わってしまうほどのパワーを持ちます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。