子供たちには怖いものや嫌いなものがたくさんあります。大人がそんなものが怖いの?と思うようなものまで怖がったりします。
例えば「犬が怖い」「水(プールや海)が怖い」「野菜が嫌い」「人と話すのが苦手」などです。
こういった問題は過去の体験が精神的に影響していたりするなど難しい部分でもあります。
親が「そんなのちっとも怖くないよ」と言っても子供たちの心は簡単には変わりません。親が「こうやればいいんだよ」とやり方を示してもそれを真似ようとはしません。
何とかして恐怖心や嫌いなものを克服して欲しいと願う親心は強いものです。
そんな親御さんたちに朗報があります。あるとても簡単な方法で子供たちの恐怖心を取り除くことができる研究結果があります。
ここでは心理学の実験結果に基づく「犬嫌いを治す方法」と「引っ込み思案を治す方法」を紹介しています。
犬が嫌いな子供を犬好きにさせる方法
アメリカで世界的な名門高であるスタンフォード大学の心理学教授を務め、アメリカ心理学会の会長も務めた著名な心理学者のアルバート・バンデューラは、犬を怖がっている子供たちが、数日後に自ら進んで犬と一緒に遊ぶようになる実験結果を示しました。
その実験の内容はとても簡単です。
犬を怖がる3~5歳の子供たちに、小さな男の子が犬と楽しそうに遊んでいる20分の動画を見せました。
その結果4日後に動画を見た子供たちが犬とどう触れ合うかを調べたところ、67%の子供たちが部屋に誰もいないときに自ら進んで犬が入っているゲージの中に入り、犬をなでたりしてかわいがって遊びました。
1か月後にも再度子供たちの犬に対する恐怖心を調べたところ、依然として恐怖心は低いままでした。
つまり、20分のちょっとした動画を見ただけで犬に対する恐怖心を克服できたということです。
子供の数が多いほど効果がある
アルバート・バンデューラは追加実験として犬を極度に怖がる子供たちの恐怖心を取り除く方法を調べました。
その結果、実際に小さな男の子が犬と楽しそうに遊んでいる動画でなくとも、映画のようなフィクションの中で子供が犬と遊んでいる場面を見るだけでも効果があることがわかりました。
更に、動画の中でよりたくさんの子供たちが、たくさんの犬種と触れ合っている動画を見たときの方が、犬に対する恐怖心を最も低くできることがわかりました。
映画で引っ込み思案が治る
心理学者のロバート・オコナーは内気で引っ込み思案の子供たちが将来大人になっても社会になじめない人になる可能性を懸念し、子供たちの引っ込み事案を治す方法を検証しました。
そこで、ロバート・オコナーは幼稚園を舞台にした11のシーンから成る23分の映画を作成しました。映画はどの場面も一人ぼっちの子供が他の子どもたちが集まって何かをしているところを眺めるところから始まります。
そして映画の中で、他の子どもたちの中に加わり、徐々に積極的に活動に参加するようになり、最後にはみんなが楽しそうにしているところで終わります。
ロバート・オコナーは4つの幼稚園で、その中でも特に内気で引っ込み思案な子供たちを選び、この映画を見せました。
その結果、映画を見た子供たちは、映画を見た直後から幼稚園の普通の子供たちと同じくらいに仲間と関わるようになりました。
1か月半後に再度映画を見た子供たちと、そうでない子供たちを調査したところ、映画を見た子供たちは、幼稚園の中でもみんなを引っ張っていくような存在になっていました。
一方、映画を見なかった引っ込み思案な子供は依然として引っ込み思案なままでした。
たった23分の映画を見ただけで、一生続いてしまうかもしれないような子供たちの行動が直ぐに変わったということです。
なぜ子供たちの恐怖心がなくなったのか?
なぜ20分程度の動画が子供たちが一生引きずるかもしれないような恐怖心を払拭できたかというと、そこには人が持つ「社会的証明の原理」という性質があります。
社会的証明の原理とは、私たちヒトが「他の人たちが何を考えているかを基準にして物事を判断する」という心理です。
例えば、あなたが街に買い物に出かけたときに、多くの人が空を見上げているのが目に入ったとします。すると、あなたは何も考えず自動的に周りの人たちと同じように空を見上げるといったものです。
社会的証明の原理は特に次の3つの条件下において最も強い力を発揮します。
アルバート・バンデューラの犬嫌いを克服する方法と、ロバート・オコナーの引っ込み思案を克服する方法はどちらも、社会的証明の原理が適用されやすい条件を含んでいます。
何かを怖がる子供たちはその対処法を知りません。どうすればいいのかわからないのです。その答えを示すためには、他の人がやり方を示してあげる必要があります。
その時に大人がその役目をになっても、子供たちは「大人は私たちとは違う」と考えてしまいます。
ですが、自分と同じぐらいか、自分より小さな子たちがそれをやっていると「あの子にもできるなら、自分にもできるはずだ」と考えるようになります。
更に、類似した誰か1人がやっているよりもより多くの人がやっている方がより強力な証明になります。
このため、映画の中でより多くの子供たちが犬と楽しそうに遊んでいたり、11ものシーンを見たことでより「自分にもできるんだ」という気持ちが強まったことになります。
社会的証明の原理の注意点
社会的証明の原理には注意点があります。それは善悪に関わらず、類似したより多くの人がやっていることを真似するようになるということです。
ロバート・オコナーは別の研究で、暴力的なシーンを含んだ映画を見た子供たちは、そうでない場面を見た子供たちよりも暴力的な振る舞いが多くなることが確認されています。
同様にCMでジャンクフードを食べている映像を何度も見ると、ジャンクフードを食べることが普通のように感じるようになります。
つまり、子供たちにどういったものを見せるかは、子供の性格や成長に与える影響が特に大きいため、親はそれを十分に注意してコントロールする必要があるということです。
参考
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。