「カバの言う事は聞くな」とは何か?
「カバの言う事を聞くな」とは、権力者の言う事に耳を傾けるのではなく、本質的に正しいことに耳を傾けろという意味です。
「カバの言う事は聞くな」の意味
私たちが動物園で見るカバはボテッとした体形で、ボケーとしてノロマそうで、どちらかというとカワイイ生き物です。
ですがその実態は全く違います。
陸上では時速30㎞で走ります(50mを6秒で駆け抜ける速さです)。顎の力は1トンでワニさえも噛み殺す力を持っています。
実際、アフリカではカバの攻撃による死者が最も多く、ライオンよりも恐れられている存在です。
「カバの言う事は聞くな」では、そのような一見おとなしいけれども狂暴な生物であるカバを権力者に見立てています。
年功序列の会社であれば年長者、そうでなければマネージャーや経営陣など権威が高い人たちがカバにあたります。
権威者や声の大きな人が言った言葉は疑いなく聞き、そうでない人の言葉は軽視する「誰が言ったか」を重要視するのではなく、「本質的なアイディアか」というアイディアの中身を重要視することを表しています。
ヒッポとは?
「カバの言う事は聞くな」は「ヒッポの言う事は聞くな」という風に言われたりもします。
ヒッポとは英語でのカバの略称です。
カバは英語でヒポポタマス(hippopotama)といいます。これを短くしてヒッポ(hippo)と呼んでいます。
「カバの言う事は聞くな」の実例
「カバの言う事は聞くな」はGoogleで重要とされている格言の一つです。
実際に、Google広告配信システムの改良に対して創業者 セルゲイ・ブリンがある提案をしたとき、ある平社員がその提案に異を唱えました。
一般的な企業であれば創業者と平社員では言葉の重みに違いがあり、優先されるのは創業者の提案です。
ですが、チームを含めて話し合った結果、意見はセルゲイ・ブリンと平社員で2分されました。それぞれの提案を更に細かく議論した結果、セルゲイ・ブリンの案ではなく平社員の案が採用されました。
権威を持つ人に必要なこと
権威を持つ人に対して立てつくことがいいと言っているわけではありません。
権威のある人も自身で考える最善の策を提案し、もし異論があれば臆せずに言える環境を作ることが大切です。
更に、徹底的に議論した上で相手の意見の方が的を射ていて正しいと判断したら、権威を持っている人は自ら引く必要があります。
創業者のセルゲイ・ブリンが最終的に自分の提案を引いたのは、相手の社員が商品のことを熟知していて議論の流れも理解していたからです。
そして、自分よりも優れたアイディアを生み出す可能性を秘めた人材であることを理解していたからです。
部下の成長を潰す文化
何らかの議論に発展したときに「つべこべ言わずに上司の言う事を聞け」と言うのはその場を収束させる最も簡単な方法です。
世の中にも「俺/私の言うことが絶対」という権力者は多くいます。
ですが、それは部下の才能や成長の芽を摘み、自身を失くし潰します。
そうして出来上がった社内文化は、上の人にとっては文句を言う人がおらず心地いい限りですが、組織としての力はどんどんと弱体化し、顔色伺いする社員や、この人についていけば美味しいことにありつけると考える腰ぎんちゃくのような人たちばかりになっていきます。
「異議を唱える義務」を重視する文化
Googleが重視しているのは「異議を唱える義務」を重視する文化です。
それは組織の中に能力主義を浸透させ、最高の結果を得るために必要なことです。そうしないと、声が大きな人や権威ある人の意見が通り、みんながそれに従わなければいけなくなります。
優秀な人でも自分の意見を人前で言うのが苦手だったり、目上の人の前ではなかなか自分の意見を口にできない人がいます。
このため異議がある人が意見を唱えることを「任意」ではなく「義務」としています。
生まれつき無口で引っ込み思案な人であったとしても、オフィスのカバには立ち向かわなけらばいけないということです。
なおアメリカの大手コンサルティング企業 マッキンゼーでは「異議を唱える義務」を次のように明文化しています。
マッキンゼーの全社員は、何かが間違っている、あるいはクライアントの利益に反すると思った場合、異議を唱える義務がある。あらゆる人の意見が大切だ。
チームの責任者やクライアントに異議を唱えるのは躊躇するかもしれないが、あなたには自らの視点を他の人々と共有することが期待されている
先入観も全て排除する
「異議を唱える義務」を重視する文化を作るために、権威ある人が言う事が正しく、従わなければいけないという先入観を壊す必要があります。
Googleではそういった先入観を壊し、最高の製品を生み出すために、あらゆる先入観を排除しようとしています。
LGBTQ(レズ、ゲイ、バイ、トランスジェンダー、クエスチョン)といった性別や国籍を全て無視して、能力のある人を採用しています。
そこには次の指針があります。
Googleで大切なのは「何ができるか」であって「どんな人か」ではない。
参考
この記事の内容はGoogleの経営陣 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジの共著「How Google Works ―私たちの働き方とマネジメント」の内容の一部抜粋と要約です。
一国家と同等な資金を持ち、世界中で知らない人はいないほどのGoogleという大成功企業の中で、
- どのような制度が用いられ、どのような人たちが働いているのか
- 人のやる気を引き出し、周りが見たら無理だと投げ出したくなるような事業をどのように達成に導いてきたのか
- 優秀な人材を獲得するための方法
- 採用時にやってはいけないこと
などなど、これからの時代に欠かすことのできない内容がギッシリ詰まった一冊です。堅苦しくなくユーモアがあり読みやすい文体ですので、ぜひ一読されることをお勧めします。