私たちには2つの思考が備わっています。1つは「直感的な思考」、もう1つは「意識的な思考」です。
直感的な思考は早く、比較的正しく、便利ですが、早さ重視のため致命的な欠陥があります。
この世にはその欠陥をついた商品が多く出回っています。
ここでは直感的な思考がどういったときに騙されるのか?について解説しています。
直感が陥ってしまうワナは「もっともらしいストーリーを信じてしまう」ということです。
「もっともらしい」とは、「条件が具体的になればなるほど信じやすくなる」ということです。
世界を代表する行動経済学者でノーベル経済学賞の受賞者でもある ダニエル・カーネマンは次のような実験を行っています。
国際会議に集まった世界屈指の専門家たちを2つのグループに分け、次のような質問をし、実現する可能性を答えてもらいました。
結果はグループBの質問をされた方が可能性が高いと答える結果になりました。
ですが質問を見ると、グループBの質問はグループAに比べて「原油価格の劇的な高騰」というより限定的な条件が入っています。
現実的には、条件に制限がないグループAの確率の方が実現可能性が高くなければいけません。なぜなら、そこには「原油価格の劇的な高騰」以外にも「人口増加による石油消費量の激増」といった他の条件も含まれるからです。
上記のように2つの質問を並べれば、論理的に考えてどちらの方が確率が高いかを考えられる確率は増えます。
ですが、何も比較がない状態で一方だけを質問されると、人はより具体的な方が正しいと思い込みます。
条件が結合するほど直感は勘違いするので、これを「条件結合のワナ」とも呼びます。
「条件結合のワナ」を示す例をもう一つあげておきます。
哲治は現在30歳です。親は、哲学的に物事をよく考えて世の中を治す人に育って欲しいという願いで哲治(てつはる)と名付けました。
哲治は親の願い通り世の中のことをよく学び、たくさんの本読む子に育ちました。学業も成績優秀で、日本の有名大学を卒業したのち、海外の大学院に進学しました。
在学中は青年海外協力隊に参加したり、アフリカの貧しい子供たちのために募金活動をしていました。
さて、大学院を卒業したのち、哲郎は次の職業のどちらについた可能性が高いでしょうか?
A: 一流大手企業
B: 一流大手企業のアフリカ環境事業本部
この質問をすると、直感的な脳はBと答える傾向があります。なぜならそれが哲郎のストーリーから考えてもっともらしいからです。
ですが、一流王手企業の中にアフリカ環境事業部をもつ企業はごく僅かしかありません。かつ、そこへの配属人数は更に少ないものになります。
AとBを比較したとき可能性として圧倒的に高いのはAです。
人が持つ直感のワナはビジネスにも応用されています。
より具体的にすればするほど購入や加入につながったり、より高いお金を払う傾向があるということです。
例えばある会社が「幅広医療保険」という商品を出していたとします。もう一方は生活習慣病に特化した「3大疾病専用保険」というものを出していたとします。
「幅広医療保険」は広範囲にカバーします。「3大疾病専用保険」は3大疾病のどれかにかかったときにとても手厚くカバーしてくれます。
「幅広医療保険」の3大疾病に対する保証料は「3大疾病専用保険」ほど多くはありませんが、それでも一般的な水準をやや上回っており充分です。
保険会社としては、何でもかんでもカバーする「幅広医療保険」は損失が大きくできれば売りたくありません。逆にいうと、お客さんは得をしやすいということです。
ですが、あなたの身の回りや親族に3大疾病にかかって苦労を味わった人がいると、あなたの関心は3大疾病よりになります。
また保険販売員が、3大疾病の発生率や身近でなった人、この保険に入っていたことで助かった人のストーリーを上手に話した場合、「3大疾病専用保険」に魅力を感じて欲しいと思う人が増えます。
結果として「幅広医療保険」ではなく「3大疾病専用保険」を選ぶ傾向が強くなります。
これは保険会社の思惑通りです。あらゆる病気に対してお金を支払うよりも、病気を3種類に限定した方がリスクは減ります。
歯ブラシのような一般向けの製品も同じです。
メーカーAは子供向け、大人向け、女性向け、男性向け、高齢者向けなど対象者を細かく区切って商品を販売しています。
区切っている分、大量生産ができず小ロットなので割高です。
一方、メーカーBはどの年代の人でも使える万能歯ブラシ1種類を販売しています。大量生産できるので価格は安いです。
この場合、購入する人たちは自分専用の条件にマッチした専用の割高な歯ブラシを買う人の方が多くなります。
直感的に条件がより自分に合っている方がよく磨ける気がするからです。
ですが歯磨きの本質はそこではありません。性別や年齢の差よりも磨き方の方が圧倒的に影響力が高いです。
直感はそこに気付けないため、より限定的な条件にすれば割高でも売れるということです。
私たちが、より具体的な情報を直感的に信じてしまうのは、私たちの本能によるものです。
大昔の狩猟採集時代は生き残るためには、あらゆる情報から直感的に判断し即座に行動することが重要でした。
立ち止まってゆっくり考えていたら、たちまち敵や獣に襲われて命を失ってしまいます。
そのような危険な世界で生き残るには、より具体的な情報を集めて、より正しい可能性が高い判断をする必要があります。
その直感が鋭ければ鋭いほど生き残る可能性が上がります。
そのような世界を何万年もの間生き延びてきたのが私たちの祖先です。
だからこそ、より具体的なもっともらしい話から、パッと直感的に推測をしてしまうのはしょうがないことです。
昔はそれが悪いどころかとても良いことでした。
ですが、現代では環境が劇的に変化したことで、そのような危険に晒されることは無くなりました。
逆に、賢い人たちが直感による判断ミスを上手く利用してワナを張り巡らし、資本主義社会を回すようになっています。
私たちが人である以上、具体的でもっともらしい話を信用してしまうのは仕方ありません。そういう生き物です。
だからこそ大金を賭ける場合や、重大な決断をするときは、もっともらしい話には耳をかさないことが重要です。
直感ではなく、文字やデータ、条件を元に意識的に考えることが必要です。
この記事のスイスの有名起業家 ロルフ・ドベリが記した「Think right ~誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法~」の一部抜粋と要約です。
人が陥りがちな思考の罠がとてもわかりやすくまとまっています。この記事の内容以外にも全部で52個の人の性質がわかりやすい具体例で解説されています。
この記事の内容でハッとした部分が一つでもあった方は是非手に取ってご覧になられることをお勧めします。
あなたの人生をより賢く豊かにしてくれることは間違いありません。