サンクコストとは「既に支払ったお金や注ぎ込んだ労力を勿体ないと思い、本当は今すぐにでもやめた方がいいのに、そのままやり続けてしまう人の心理の一つ」です。
英語で sunk costと書きます。sunkとは沈没するという意味です。costとは費用のことなので、沈没してしまい取り返すことのできない費用と言う意味です。
日本語では「埋没費用」と呼ばれます。
そして、サンクコストに捕らわれて「ここで止めたらもったいない」というズルズルと損失を拡大していく思考をサンクコストバイアスといいます。
ある男性が「テニスがしたい」と思い立ち、年払いでテニスクラブに入りました。
最初の1か月は楽しくプレーしていました、どんどんとのめり込みハードにプレーするようになりました。そして3か月経った頃、肘が痛いと感じるようになりました。
ですが、既に1年分の料金を支払ってしまっているため、ここで行くのをやめると残り9か月分のお金が無駄になってしまいます。
「せっかくお金を払ったのにもったいない」と考え、肘が痛いながらもそのまま通い続けました。
そして、翌月完全に肘を痛めて腕が上がらなくなりました。当然テニスもできなくなり、定期的に病院に通わなければいけなくなりました。
結果として、残りの8か月は一切テニスができなくなるだけでなく、肘の激痛、通院の手間と費用がかかるようになりました。
「1年分の会費」という既に支払ってもう戻ってこないサンクコストだけに目がいった結果です。
サンクコスト | 追加で払ったコスト |
---|---|
1年分の会費 | ・8か月間テニスができなくなった。 ・肘に激痛を抱えた。 ・日常生活が大変になった。 ・通院で時間を失った。 ・通院でお金を失った。 |
もし、サンクコストは「既に支払ってしまったものなので仕方ない」と考えていたら3か月目の肘に痛みを感じたタイミングでやめることができていました。
サンクコスト | 追加で払ったコスト |
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1年分の会費 | ・一時的にテニスができなくなった ・軽い肘の痛み |
本来この男性が考えるべきは既に支払ってしまった「サンクコスト」ではなく、次のAとBを比較検討することでした。
A:「8か月間テニスができなくなる。肘に激痛を抱える。日常生活が困難になる。通院で時間を失う。通院でお金を失う」
B:「一時的にテニスができなくなる。軽い肘の痛み」
サンクコストで必ず例に上がるのが「つまらない映画」です。
あなたが1500円払って2時間の映画を見に行ったとします。ところが開始10分で自分の趣味に合わなずとてつもなくつまらないことが分かりました。
あなたは開始10分目で「映画館を出る」という選択肢があったにも関わらず、既に支払ってしまった1500円を「もったいない」と考え映画を見続けるという選択をしました。
サンクコスト | 追加で払ったコスト |
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1500円の映画代 | 2時間の退屈な時間 |
もし途中で映画を見るのをやめていたら結果は変わっていました。
サンクコスト | 追加で払ったコスト |
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1500円の映画代 | 10分間の退屈な時間 |
もう支払ってしまって取り返しのつかない「サンクコスト」はどちらの場合で失います。ですが、比較すると後者の場合は1時間50分の自由な時間を手に入れることができます。
ゲームも同じです。
例えばクリアまでに6か月かかるゲームを5000円で購入し、1日8時間を1週間使ったとします。費やした時間は合計56時間です。
しかし、1週間やったところで「そこまで面白くない」ということに気付きました。
しかし、これまでずっと楽しみにしていて5000円払って購入し、仕事など他にやることがある中でなんとか時間を捻出してプレイしてきたことを考えると「ここで止めたらもったいない」という感情がこみ上げ、そのままプレイを続けました。
結果として、3か月目に「完全につまらない。時間の無駄」と感じやめることにしました。
クリアまでやり続けるよりはマシな決断ですが、サンクコストに目がいったため2か月半以上もの膨大な時間を棒に振っています。
サンクコスト | 追加で払ったコスト |
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・5000円のゲーム代 ・ゲームに使った56時間 | ・2か月3週間の時間(448時間) |
もし、1週間ゲームをプレイして「つまらない」と気づいたときにやめておけば448時間もの自由時間を手に入れることができていました。
コツコツ貯めた100万円の貯金を持っている男性が、競馬などのギャンブルに5万円突っ込んだものの負けてまいました。
「せめて最初の5万円は取り戻さなければ!」という考えに取りつかれ、次から次へと賭けを行って、残りの貯金の95万円も全て使い切ってしまいました。
これは、お金をかければかけるほどもったいない気がする、典型的なサンクコストバイアスです。
最初に投入したサンクコストの5万円は何を何をしようが戻りません。次の賭けは最初のサンクコストとは全く別物にも関わらず、賭けを続けてしまったわけです。
サンクコスト | 追加で払ったコスト |
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5万円 | 95万円と時間 |
もし、最初の5万円の賭けで負けた時点で終了していれば、残りの95万円を損することもなく、賭けに使った時間も手元に残ります。
サンクコスト | 追加で払ったコスト |
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5万円 | なし |
サンクコストは個人単位だけでなく、企業や行政などの組織でも頻繁に発生します。
サンクコストを語るうえで有名な例がコンコルドです。コンコルドはロンドンからニューヨークを3時間以内という超短時間でつなぐ航空の技術の最高傑作でした。
技術的には優れているものの、開発に1000億円という莫大なお金がかかり、その割に乗れる人の数は少なく、発注数も少なく、商業的には赤字を垂れ流す悲惨なものでした。
誰もが今後も赤字を垂れ流すことに気付いていたにも関わらず「ここでやめたら今までの投資が無駄になる」と考え30年間も運用され続けました。
戦争も同じです。例えば、1955年から1975年までの20年間にわたって続けられたベトナム戦争も同じです。
「アメリカが正義のために戦う」という名目で始めた戦争は、想像以上に長引き、大量の資金を投入し多くの兵士を死なせました。
「これまでにかけた資金や死んでいった兵士たちの努力が無駄になる」という思考が働き、引くに引けずズルズルと続いてしまいました。
これも典型的なサンクコストバイアスによるものです。
最終的にはアメリカだけで4万人もの兵士が亡くなる悲惨な結果になりました。
もし、サンクコストバイアスに捕らわれず、これ以上は大きな成果がでないとわかったタイミングで手を引いていれば、被害はもっともっと小さい状態ですみました。
サンクコストバイアスに陥り、最終的に大きな被害を出す人の思考方法には共通点があります。
みな次のように考えます。
サンクコストバイアスは特別なことではありません。ほぼすべての人が陥る思考です。
多くの人が「今やめたらもったいない」と考えやめられなくなってしまう1番の理由は、家庭や教育による洗脳です。
何度も何度も「もったいない」「無駄にしてはいけない」「大切に使う」と言われ続けてきたことで、「一度投資したものを諦めるのはもったいない」と考えるように洗脳されているからです。
「無駄」=「悪」だという考え方が染みついているので、一度「お金」や「労力」を注ぎ込んだら、「やり続けるべきだ」と自動的に考えてしまいます。
その証拠として、子供は大人よりもサンクコストバイアスに陥りにくいことがわかっています。
これほどまでに強力なサンクコストバイアスの罠から抜けだす方法はとても簡単です。
それは、「ゼロベースで考える」だけです。
どうすべきか悩んでいる場合は次の質問を自分にしてみてください。
もしまだやっていないとしたら、やるか?
もしまだ持っていないとしたら、購入するか?
「もしもまだやっていないとしたら、どうするか?」を考えれば、サンクコストの罠に陥ることがありません。
サンクコストの罠とゼロベース思考の効果を実証するため、次の状況を思い浮かべてみてください。
あなたが東京の高級レストランのディナーチケットを1万円で購入しました。また別の日に、地元で美味しいと評判のディナーチケットを5千円で購入したとします。
後から気づいたのですが、どちらも日程が重なっていました。どちらも行ったことがありません。
あなたはどちらを優先していくでしょうか?
この場合多くの人が「東京のレストラン」を選びます。そして「めったに行く機会がないから」「いい経験になるから」という理由付けをします。
では、次の場合はどうでしょうか?
あなたが地元で美味しいと評判のディナーチケットを1万円で購入しました。また別の日に東京の高級レストランのディナーチケットを格安の5千円で購入しました。
後から気づいたのですが、どちらも日程が重なっていました。どちらも行ったことがありません。
あなたはどちらを優先していくでしょうか?
この場合は多くの人が「地元のレストラン」を選びます。
2つの質問でレストランが提供する料理や場所に違いは一切ありません。違いは1万円と5千円をどちらに払ったかだけです。
ほとんどの人が、「料理や空間などの体験を価値基準」として考えるのではなく、「お金が高い=価値がある」と判断しています。
最後に、次の質問を自分に問いかけてみてください。
もし「あなたが東京の高級レストランと地元で美味しいと評判のレストランのディナーチケットのどちらも持っていないとしたら、どちらを買いますか?」
ここで導き出された答えが、サンクコストの罠にはまっていない答えです。
もし「もったいない」「今までこんなにお金と時間をかけてきたのに」と思ったときは、「もし、まだ自分が何もしてなかったら、それをやるか?」と考えてみてください。
そうすれば選択は必ず絞られます。
もしかすると今やっていることは、既に沈んで使い物にならないものに執着している状態かもしれません。
あなたの人生がより良き方向に進むことを心より願っています。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
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