社会的証明の原理とは、私たちヒトが「他の人たちが何を考えているかを基準にして物事を判断する」ということです。
例えば、あなたが街に買い物に出かけたときに、多くの人が空を見上げているのが目に入ったとします。すると、あなたは何も考えず自動的に周りの人たちと同じように空を見上げます。
社会的証明の原理は特に次の2つの条件下において最も強い力を発揮します。
自分と同じ街に住む人たちが急に食料品を買い込み始めたとき(類似性)、あなたはきっとその根拠や原因が不明確であればあるほど、その人たちと同じように行動し、食料品を買い込もうとします。
「社会的証明」という言葉はあまりにも馴染みがなく私たちにはイメージしにくいものです。
ここでいう社会とは英語のソーシャル(Social)の直訳です。ソーシャルとは人と人との関係や、人が集まり構成される社会といった意味です。
SNSがソーシャル・ネットワーキング・サービス(Social Networking Service)の略語であるように、自分以外の他の多くの人たちが関わっているという意味を持ちます。
そして「社会的証明の原理」は英語ではソーシャル・プルーフ(Social proof)と言います。つまり、他の人たちによる証明という意味になります。
自分自身が答えを持つのではなく、周りの人たちの意見に従うと言ったニュアンスになります。
他の人たちがやっていることを無意識に真似してしまうという社会的証明の原理は、私たち人にとってかなり強力に発動します。
このため、私たちの生活のいたるところでその原理を活用したマーケティングが見られます。
コメディ番組を見ているときに、明らかに後から合成された笑い声が流れることはないでしょうか?
これは人がもつ社会的証明の原理を活用している主な例の一つです。
人はその笑い声が明らかに合成だとわかっていたとしても、笑い声を聞くと笑い声をあげたくなってしまいます。
面白くない場面であったとしても、笑い声を聞いただけで「面白い」と頭が勘違いしやすくなります。
外を歩いているときにあるお店に行列ができていると、多くの人が気になってそこに並びます。何を売っているのかを具体的に知らないのに「これだけ行列ができているなら、売っているのは良いものに違いない」と推測するためです。
お店によっては社会的証明の原理の力を活用するために、お店にまだ人が入れるにも関わらずあえて入店制限を設けて行列を作っているところもあります。
サクラも社会的証明の原理の人間心理を巧みに使ったモノです。
何かを売る時に観客にサクラを数人仕込ませて置き「私買います!」「私もそれ欲しいです」という人たちが続くと、「これだけ欲しい人がいるなら、きっといい商品に違いない」と判断してつられて買う人が増えます。
エクアドルという国では、お葬式の時に悲しみに暮れて泣いてくれる人を雇う習慣があるほどです。
募金を集めるときも社会的証明の原理が使われます。コンビニや空港に行ったときに空っぽの募金箱を目にすることは少ないと思います。
なぜなら、より多くの人に募金をしてもらうにはあらかじめ募金箱にお金を入れておいた方が効果があるからです。
募金箱をチラっと見た人が「他の人も募金してるなら、私もしよう」と考え、募金してくれる割合が増えます。
特に募金箱の中に紙幣が入っていると「みんな紙幣も入れてるのか、私も紙幣を入れよう」となり、集まる金額も増えます。
広告を見ていると「業界No.1」「わが社の製品が最も多く売れています」「最高の伸び率です」といった自社製品の凄さをアピールする文言が頻繁に出てきます。
これも社会的証明の原理を引き出すための言葉です。
その広告を見た人は「他の多くの人たちが支持しているならいいものに違いない」と考えその商品を買うようになります。
商談の場や契約を渋っている人に対して使われるのが「みなさんやっていますよ」という言葉です。
この一言が社会的証明になり「みんなやってるなら、私もやっても大丈夫か」という思考を呼び起こします。
社会的証明の原理が適用された人々の中で何がおこっているかというと「何も考えていない」ということです。
「周りがやっているから私もやる」「周りがいいと言っているからいいに違いない」という短絡的な判断をしています。
つまりマーケターとしてはみんなが欲しがっているという社会的な証拠を提示できればできるほど、より多くの人がその商品を買ってくれるということです。
あるセールスコンサルタントは次のように述べています。
自分で何を買うかを決められる人は全体のわずか5%にすぎません。残りの95%は他人のやり方を真似る人たちです。
だから、私たちがあらゆる証拠を提供して人々を説得しようとすることは、周りの人がやっている行動に適わないのです。
上のセールスコンサルタントの言葉にあるように社会的証明の原理を引き出すには一人では不可能です。
例えば、外であなた一人が空を見上げていても、他のひとはあなたの真似をしません。変な人だと思って通りすぎていきます。
ですが、翌日あなたは友達2人と3人で集まって空を見上げたとします。すると、周りにいる人たちも同じように空を見上げます。
周りにいる人たちが空を見上げると、ビルの中からその様子を見た人たちも「なんだろう?」と思い上を見上げます。
このようにして、社会的証明の原理は数人の集まりから始まり、より大きなものへと伝搬する力を持っています。
この記事の内容はアメリカの有名な心理学者 ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」の内容の一部抜粋と要約です。
現代のマーケティングで使われている手法が心理学の面から解き明かされ、たくさんの事例を交えてわかりやすい文章で記されています。
この本の内容を細かく知っているかどうかで、現代の市場に隠されているたくさんのワナにハマりカモになるのか、それを避けて利用する側に回れるのかが大きく分かれます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。