多くの人が「時間がない」「余裕がない」と感じながら日々を過ごしています。そして、もっと働けば自由になると考えています。
ですが、もっと働いたところでその先には待っているのは今と変わらない日々か、役職や能力が上がった分仕事が増えて今よりも忙しい日々が待っています。
時間や余裕を生み出すためにやるべきことは「より多く」「さらにたくさん」と真逆で「より少なく」していくことです。
削って削って、自分が心から望むものや、自分が得意で幸せや効果を生み出していることに100%の力を注げるようにすることです。
しかし、いざ捨てようとすると考えたときに「もったいない」「これまでたくさんのお金と時間をかけてきた」という心理が働いて、なかなか捨てることができません。
ここでは人が時間や余裕を失ってしまう原因になる5つの思考と対処法を紹介しています。
サンクコストとは「既に支払ったお金や注ぎ込んだ労力を勿体ないと思い、本当は今すぐにでもやめた方がいいのに、そのままやり続けてしまう人の心理」です。
サンクコストに捕らわれて「ここで止めたらもったいない」というズルズルと損失を拡大していく思考をサンクコストバイアスといいます。
サンクコストは何かを買ったら必ず発生します。払ったお金や、使った時間がサンクコストです。
損失を被るのはサンクコストに捕らわれてしまったときです(サンクコストバイアスが発生しているとき)
例えば、サイズの合わない靴や洋服がそうです。サイズが合わず小さくて履くたびに足が痛くなるのに「高いお金を出したから履かなきゃもったいない」という考えに捕らわれて足を痛めながら履き続けます。
靴を買うときに払った代金は戻りません。これ以上履いたら足が痛くなるだけだと考え捨てるのが賢い選択です。
サンクコストバイアス | サンクコスト | 追加で支払ったコスト |
---|---|---|
あり | 靴の代金 | 長期的な足の痛み |
なし | 靴の代金 | なし |
サンクコストバイアスの対処法は「ゼロベース思考」です。
「もし、それを持っていなかったら、私はそれを買うか?」と自分に問いかけてみます。
例えば、サイズが小さくて足が痛くなる靴であれば、「もし、まだこの靴をもっていなかったら、私はこの靴をいくらで買うだろうか?」と考えます。
痛みがあるのでほとんどの人が「買わない」という選択をします。
この選択こそが、最初に支払ったお金(サンクコスト)に捕らわれない判断です。
保有効果とは「自分が所有しているモノを、他人の評価よりも高く見積もること」です。授かり効果とも呼びます。
自分の持っているものが価値が高いと思い込んでいるため次のようなことがおこります。
授かり効果に捕らわれている人は思い込みが激しく、柔軟性がなくなります。捕らわれている期間が長ければ長いほど代償は大きくなります。
保有効果(授かり効果)に金額は関係ありません。100均で買ったモノや1万円の家電製品、10万円のソファー、20万円の猫など、所有したモノに対して発生します。
例えば、100円の便利で使い勝手のいい文房具をタダでもらったとします。すると貰った人はタダでもらったにも関わらず「100円で売ってよ」と言われても「ノー」と言います。
「使い勝手がよくて便利だから、これは500円ぐらいの価値がある」と実際の価値よりも高く見積もります。
一方でそれを持っていない人が実際の価格である100円よりも高いお金を払ってそれを購入するか?というとそれはありません。
むしろ、タダで配っていたことを知っている人は100円すら払おうとしません。
同じ1つのモノの価値を話しているにも関わらず、持っている人と、持っていない人で価値が大きく異なっています。
なお、社会的な実際の価値に近いのは持っていない人が考える価格です。
保有効果はモノ以外の、形のないものや、自分が所有してすらいないものでも発生します。
例えば、自分がリーダーを担っているプロジェクト、期間限定の無料の試供品(30日間無料や2週間お試し)などです。
保有効果の対処法はサンクコストバイアスと同じく「ゼロベース思考」です。
「もし、それを持っていなかったら、私はそれを買うか?」と自分に問いかけてみます。
例えば、100均の文房具であれば「もしそれを持っていなかったら、私はそれを手に入れるためにいくら払うか?」と問いかけてみます。
答えはきっと「最大でも100円」でしょう。決して500円とは答えないはずです。
自分が大切にしてきたバイクや家などを売る時も同じ方法を使う必要があります。
むしろ、この考え方をしない限り希望の販売価格は相場を大きく上回り、買い手が現れず永遠に手放すことができない状態に陥ります。
時間を奪う3つ目の思考は「誰か他の人になろうとする」ことです。
仕事や異性など何かが欲しいあまりに本当の自分を見失い、相手に合わせ込みすぎる心理です。
日本語では削足適履(さくそくてきり)という四字熟語が当てはまります。
これは、普通靴のサイズが小さすぎてどうしても履けなければ諦めるものです。ですが、自分の足を削ってまで履こうとする行為を削足適履と言います。
本来の自分には絶対に合わないにも関わらず、無理やりにでも合わせようとする行為です。
トッツィーというコメディ映画に面白い例があります。
売れない中年俳優が何とか役を得ようとして、「身長がちょっとね」と言われたときに「もっと高くできます」と答えます。
すると「いや、高すぎるんだよ」と言われ、それでも食い下がり「大丈夫です。ほら、かかとが高いでしょ。もっと低くできますよ」と答えます。
ですが「ああ、だけど、ちょっと違う感じの人が欲しいんだ」と言われ、それに対して諦めきれない俳優は「じゃあ、違う人になりますよ」と答えます。
これはコメディですが現実でも同じことがあちこちで行われています。就活などの面接の場では、その企業のことを調べあげ、自分自身として受けるのではなく、相手が望む人として面接を受けます。
上司や彼女/彼氏に気に入られるために背伸びをし違う誰かを演じます。
そして、自分自身が何者なのかわからなくなって迷走している人が大勢います。
誰かになろうとする一番いい対処法は「第三者に聞いてみる」ことです。
やりたい気持ちが強すぎて自分では「私はなれる」「私はできる」という思考に陥ていて冷静に考えることができません。
そこで、何の利害関係や執着心がない人に「どう思うか?」と聞いてみれば、相手は利害や執着に捕らわれていない答えをくれます。
あなたの時間を奪う4つ目の思考は「現状維持バイアス」です。
現状維持バイアスとは「変化や未知のものを避けて、現状維持を望む心理」のことです。
具体的には次の2つがよく見られます。
現状維持バイアスは至るところに蔓延しています。
ある会社ではとても古臭い人事評価制度を使っていました。外部の人がなぜ未だにこんなシステムを使っているのかと疑問に思って訪ねてみたところ、回答は「昔からこのやり方でやっている」でした。
そして、誰ひとりとしてなぜそうしているのかを知っている人はいない状況でした。
対処法はサンクコストバイアスや保有効果と同じく「ゼロベース思考」を使うことです。
「もし今、人事評価制度がなかったら、新たにどんな評価制度を導入するか?」と考えてみます。
手間はかかりますが、それ以上に大きなメリットがあります。
現状にとらわれずに効率的な仕組みを考えられるし、現状の非効率な点も見えてきます。
あなたの時間を奪う5つ目の思考は「流れで引き受ける」ことです。
仕事の依頼やプライベートの誘いがきたら深く考えずに「やります」「大丈夫です」と答てしまうことです。
そして、本当はやりたいと思っていない予定がどんどんと積み重なり、あなたの時間と体力を奪っていきます。
引き受けてしまう心理は「相手に好かれたい」「嫌われたくない」です。
流れで引き受けるのをやめるためには、次の4つのステップを踏む必要があります。
詳細は以下をご参考ください。
(参考)【断りは絶大なプラス!】好感と敬意を生み出す上手い断り方|「やりません」と言う必要すらない
あなたの時間を奪う6つ目の思考は「不安」です。
「これをやめたら損をするかも」「捨てたら二度と手に入らないかもしれない」「やめたら怒られるかもしれない」という不安はモノを捨てたり、予定を減らす大きな隔たりになります。
「これをやめたら損をするかも」という不安へのいい対処法は「逆プロトタイプ」です。
プロトタイプとは新商品の開発で使われる手法です。いきなり本気で生産して世に送り出す前に、試作品を作って市場で試して、問題がなければ本格的に生産をするプロセスです。
損を最小限に抑え、より慎重かつ確実に物事を進める方法です。
プロトタイプが今は無いモノを少しづつ確かめながら世に出していくのに対し、逆プロトタイプは今既にあるものを試験的に少しずつやめてみる方法です。
本格的にやめる前に、簡単な形で試してみることで影響度を調べることができます。
逆プロトタイプに実に面白い話があります。
社内の配置換えで新しい役職に就いた男性は、前任者が行っていた業務量の多さに仰天しました。
前任者は数多くのテーマについて非常に細かくキレイにデザインされた報告書を毎週作成していました。
新たにその仕事を引き継いだ男性は「そこまでやる意味があるのか?」「あまりに手がかかりすぎるし、利益に貢献しているとは思えない」と疑問に思いました。
そこで逆プロトタイプとして、いったん報告書をつくるのをやめてどんな不都合がおこるか様子を見てみることにしました。
その結果、何週間もの間誰もそのことに気付かず、誰一人として困っていないことがわかりました。
こうして、報告書が不要であることがわかったため、男性は堂々とやめる判断をしました。
こういったことは社内ようの報告書以外でもおこります。顧客への対応や友人、家族のために苦労してやっていることなど、実は相手にとって何の意味もなかったということがありえます。
まずはなぜやっているのかを疑ってみること、そして逆プロトタイプで試してみること。これだけで、実に多くの時間と体力が生まれる可能性を秘めています。
あなたの時間を奪う7つ目の心理は「失敗を認めたくない」という感情です。
誰から見ても失敗していることが明らかで、今後も改善する見込みがないにも関わらず「失敗を認めたくない」という感情が強すぎて、「まだなんとかなる」「あと少し頑張ればきっとよくなる」「私ならできる」と自分に言い聞かせ、ズルズルと続けて状況を悪化させてしまいます。
失敗を認めたくない典型的な例は「人に道を聞かない」です。
自分の能力を過信しているあまり、明らかに道を間違っていて、他人に聞いたらすぐに解決できるにも関わらず、自分で解決することにこだわります。
他人に手助けしてもらうと「自分でできなかった」=「失敗した」というように受け取ってしまう人です。
これは、その人が悪いわけではなく、むしろ親や学校の教育によるところがほとんどです。テストなどみんなで強力して解くことを悪とし、自分一人の力で最後まで解くことを良しとした教育で洗脳した結果生まれる弊害です。
対処法はシンプルに「自分の失敗を認め、素直に聞く」です。
自分の失敗を認めたときに、はじめてその失敗が過去のものとなります。
失敗した事実を否定したり目を逸らして受け入れない人は、そこから抜け出すことができません。
失敗を認めることは恥ずかしいことではありません。失敗を認めるとは、自分が以前よりも賢くなったことを意味しています。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
世界的ベストセラーになったこの本には他にも人生を成功と幸せに導く格言がたくさん載っています。
興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。