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【断りは絶大なプラス!】好感と敬意を生み出す上手い断り方|「やりません」と言う必要すらない

自分の時間を生み出し、心から望むことに没頭するには、仕事の依頼やプライベートの誘いを断り続ける以外に方法はありません。

しかし、断ることは心苦しいもので、相手との関係性を悪くし、チャンスを棒に振る悪いことだと考えている人がほとんどです。

私たちは「断る」ということに対して大きな誤解をしています。

そもそも断る時に相手や依頼を否定する必要はありません。更には「断る」ときに「やりません」と直接的に言わずとも断ることができます

「断る」とはもっと気軽で、むしろ相手に好感を与えることです。

ここでは、断ることが相手に好感を与えることができる実例や、断り方のバリエーションについてまとめています。

断ることは相手に好感を与える

断ることが相手に好感を与えることができる実例として、次の4つの人物の断り方を紹介します。

  1. ピーター・ドラッカー
  2. スティーブン・コービー
  3. ポール・ランド
  4. グレッグ・マキューン

ピーター・ドラッカーの断り方

マネジメントの父と呼ばれるピータードラッカーは創造性に関するインタビューを申し込まれた時次のように断っています。

2月14日のお手紙を拝見し、非常に光栄に感じています。貴殿のご活躍は常々拝見しており、多くを学ばせていただきました。

そのようなお方を失望させるのは非常に心苦しいのですが、残念ながらインタビューにお答えすることは不可能です。

創造的と言われても、私はその意味を存じておりません。私はただ、地道に歩んでいるだけです。

無礼な奴だとお考えにならないで欲しいのですが、私たちにとって生産性の秘訣とは(創造性はわかりませんが、生産性は信じます)、特大のくずかごを用意し、全てのこうした誘いをその中にいれることなのです。

これまでの経験から言って、生産性とは他人の仕事を助けることではありません。天から与えられた才能を最大限に生かすべく、持てる時間のすべてをそこに費やすことなのです。

相手の依頼を断っていますが、相手を一切傷つけていません。それどころか「非常に光栄」「ご活躍を拝見している」「心苦しい」という相手を大いに持ち上げています。

充分に気持ちよくさせたうえで「なるほど」と納得できる理由で断りを入れています。

上手に断るとは相手に対して十分に配慮するということです。

point

申し出してくれた「人」を最大限持ち上げる。申し出自体は丁寧に断る。


スティーブン・コービーの断り方

7つの習慣の作者で有名なスティーブン・コービーも相手を傷つけづに断るのが上手です。

コービーはある講演会の後、娘と次のような約束をしていました。

チャイナタウンに行って中華料理を食べ、お土産を買い、観光したあと、映画を見て、タクシーを捕まえてホテルに戻りプールでひと泳ぎし、ルームサービスで生クリームたっぷりのデザートを頼んで、気が済むまで深夜のテレビを堪能する。

しかし当日、公演会場を出ようとしたとき、学生時代からの友人で一緒に仕事をしている知り合いに久しぶりに出くわしました。

そして、その友人に次のように言われました。

「私たちの会社と仕事をしてくれるなんて嬉しいよ。君のことを完璧な人だと確信しているんだ。ところで、埠頭に最高のシーフードがあるんだけどよかったらどうだい?もちろん、娘さんもご一緒にね」

コービーはそれを聞くと次のように答えました。

「それはいいね。埠頭でディナーとは最高だろうな!」

娘はそれを聞いて意気消沈しました。楽しみにしていた観光も映画も全部おじゃん。シーフードは好きじゃないし、大人たちの会話を聞き続けるなんて退屈すぎる。

ですが、コービーはその後に次のように言いました。

でも今夜はダメなんだ。娘と特別なデートの約束をしているのでね。そうだろう?

そう言って娘にウインクしそっと手を取って歩き出しました。

後に娘は次のように語っています。

「この出来事のおかげで、父との間には永遠に切れない絆が生まれました。私が最も大切な存在だと示してくれたからです。」

コービーは相手の誘いを断っていますが、相手は決して嫌な気持ちになっていません。自分の持ち出したプランを「最高だ!」と言ってもらったうえ「先約がある」と伝えられています。

その上、ビジネスよりも娘を大切にしているという姿勢は尊敬の念を与えます。

断ったことが相手にとってマイナスになるどころか、プラスになっています。

point

相手の誘いに「最高だ!」と言い、「でもダメなんだ」と続けて断る。


ポール・ランドの断り方

世界的に有名なグラフィックデザイナーのポール・ランドはスティーブジョブスの依頼に断りを入れたことがあります。

スティーブ・ジョブスがNeXT社のロゴ制作で「いくつか候補を出して欲しい」とランドに依頼しました。その時にランドは次のように答えました。

私はいくつもの候補を出すことはしません。

もちろん仕事はします。それで気に入らなければ使わなくて構いません。候補がいくつも欲しいなら他を当たってください。

私は、自分の知る限り最高の答えを一つだけ出します。使うかどうかの判断はそちらで判断してください。

一度断られたスティーブ・ジョブスは苛立ちました。しかし、実際に出てきたものを見て感動し採用しました。

ランドは一時的に相手の機嫌をとるよりも長期的な好印象を選んだわけです。

後にジョブスは次のように答えています。

「ランドは私が知る中で最高にプロフェッショナルな人間だ。プロとしてクライアントとのあり方を徹底的に考え抜いている」

point
  • 「受ける」と「断る」はトレードオフの関係。一時的な好感を選ぶか、長期的な好感を選ぶか。
  • 一時的な好感を選べば、長期的に後悔することになる。
  • 長期的な好感を選べば、一時的には悪い気持ちになるが、長期的には良い気持ちになる。

相手に嫌われるのが怖いや好かれたいから「やります」「できます」と言うのは目の前のことしか見えていない愚かな選択です。

賢い人は長期的な目線を大切にしています。


グレッグ・マキューンの断り方

世界的なベストセラー エッセンシャル思考の著者であるグレッグ・マキューンも断りのプロです。

エッセンシャル思考を書くときメールの自動返信を次のように設定しています。

現在、本の執筆に忙殺されております。返信が遅くなりますが、どうかご理解ください。

実際に、この自動返信をしたことで誰も怒らず、文句も言いませんでした。

著者自身、みんな「執筆が終わるまで返信しない」という事実をそのまま受け入れたことに驚いています。

ですが、もしあなたが依頼した側なら「しょうがない」と受け入れるのは明白です。

「相手」と「申し出」を肯定する

断るときに一番大事なのは「相手への配慮」です。

絶対にやってはいけないことは「そのプランは最低だ」「そっちより、こっちの方がいい」といって断ることです。

相手の申し出を否定することは、相手自身を否定することにもつながります

断るのが下手な人は断る時の前置きで、申し出を持ってきた相手か、申し出自体をダメ出します。これが相手を傷つけています。

賢い人は、「相手」も「申し出」も最高だと言って褒めます。そして断ります。

point
  • 申し出をくれた人を「素晴らしい人だ」と言って褒める。
  • 申し出を「最高だ!」と言って断る。

やってはいけないことは、申し出をくれた人を「こんな計画を持ってきて」と言って否定し、申し出自体を「こんなもの」と言って否定することです。

断ることが上手な人と下手な人の違い

上手な人下手な人
相手を最高に持ち上げてほめちぎる相手を否定する
依頼を「最高!」だと言う依頼を否定する
point

「相手」と「依頼」を「最高!」だと褒めて断った結果、「自分の時間」と「好感」の両方を手にする


トレードオフの関係

相手の申し出を検討するときに知っておくべきことは「引き受ける」と「断る」はトレードオフの関係にあるということです。

「引き受ける」ことは相手に好感を与え、「断る」ことは相手を失望させることだと考えている人がいますが、実は「断る」ことも相手に好感を与えることができます。

重要なことは、相手の機嫌や関係性を優先してその場で「やります」と言ったときに与える好感と、断った時に得られる好感は質が違うということです。

本当は心からやりたいと思っていないことに「やります」と言えば短期的な好印象を得ることができますが、「引き受けなければよかった」と長期的に嫌な気持ちになることになります

一方、上手に断れば一時的には相手の機嫌を損ねますが、長期的には「はっきり断れる人だ」という尊敬の念が生まれます

▼「引き受ける」ことと「断る」ことの違い

「引き受ける」「断る」
なんでもすぐに引き受ける人自分の時間を安売りしない人
「とりあえずあいつに頼んでおけばいい」と軽く見られる敬意を持たれる
一時的な好印象を得る長期的な好印象を得る
長期的に後悔する一時だけ気まずさを味わう


上手な断り方

とりあえず黙る(沈黙は強力な味方)

断るのが上手な人は、すぐに「やります」とも「やりません」とも言いません。まずは黙ります

沈黙は強力な味方です。何も言わずとも相手に伝えることができます

受ける場合も断る場合も、ゆっくり3つ数えてから自分の意見を言います

沈黙を完全に味方にしている人は、相手が気まずくなって何かいうまでじっと待ちます


予定を確認して折り返します

相手を傷つけずに断るために最も役立つ言葉が「予定を確認しておりかえします」です。

「予定を確認しておりかえします」はマジカルワードです。この一言で相手のペースの会話が、こちらのペースに切り替わります

その場で何を言われても、繰り返し「予定を確認しておりかえします」と言えば全て上手くいきます。

A「この仕事引き受けてくれないでしょうか?」

B「予定を確認しておりかえします」

A「いつ頃ご返信いただけそうでしょうか?」

B「予定を確認しておりかえします」

A「目安だけでも、、、」

B「予定を確認しておりかえします」

こちらは相手のオファーを聞き取っている意思表示をして答えると告げています。それに対して何度も何度も迫ってくるのは、こちらの失礼ではなく相手の失礼になります。

なお「予定を確認しておりかえします」は仕事の依頼だけでなく、商品を売り込まれているときでも使えます。


かなり先の代替案を出す

「やりません」と言うのではなく「かなり先の代替案を出す」のも、直接的な断りの言葉を入れずに断る方法の一つです。

この冬バタバタしてまして、春先はどうでしょうか?

この1年パニック状態で、来年はいかがでしょうか?


他の仕事の品質が落ちるがいいですか?

上司やクライアントから「これもやってくれ」「あれもやってくれ」と追加の依頼がいくつもくる場合は、

今かなり仕事を抱えているので、他の仕事を無理やり差し込むと品質が落ちてしまいますがいいですか?


どの仕事を後回しにしましょうか?

同じく上司やクライアントから「これもやってくれ」「あれもやってくれ」と追加の依頼がいくつもくる場合は、次のような回答もできます。

わかりました。ではこの仕事を優先的にやります。今やっている仕事のうちどれを後回しにしましょうか?


冗談っぽく断る

相手を傷つけない上手な断り方の一つに「冗談ぽっく断る」があります。

「今度サイクリングいかない?」と言われたときに「えー!そんなの絶対無理だわ~w」と言う方法です。

結果は、相手も傷つかず、断ることにも成功しています。


私には無理だけど、彼・彼女なら興味を示すんじゃないかな

別の人を紹介するのも上手な断り方の一つです。

私には無理だけど、彼・彼女なら興味を示すんじゃないかな」と言えば、相手は「断られた」ではなく、「代替案を出してもらった」状態になります。

「依頼」のもつエネルギーは誰かが受け取らなければいけません。何かを受けるということはその分他の生産性が下がるということです。

余計なエネルギーを受け取らず、相手をたらいまわしにする技術は自分の生産性を守るために重要です。


やんわりと断る

断るときに一番重要なことは「相手への配慮」です。

相手への配慮を伴った断り方は「好感」と「時間」のどちらもを生み出します。

「声をかけてくれて嬉しいのですが、あいにく手がいっぱいで」

「行きたいのは山々ですが忙しくて時間がなく、今回はお断りさせていただきます」


自分の中の優先順位を明確にする

ここまで断るテクニックを紹介してきましたが、それ以上に重要なのは「自分の中の優先順位を明確にする」ことです。

「私はこれをやる!」と決めているから、他のオファーを断ることができます。

他のオファーを断るのは「やる!」と決めている本当に意味あることに100%を注ぐためだからです。

自分の中で「私はこれをやる!」という判断基準が明確に決まっていないと、断った後で「引き受けておけばよかった」という感情が生まれます。

そして、大きな迷いとなり、今後の判断をさらに狂わせていきます。


「断る」ための7個の格言

最後に「断る」ことに関する7個の格言を紹介します。

勇気ある「ノー」が歴史を変える

世界的な人種差別への反対運動の発端なったローザ・パークスは、バスの白人専用席に座り「どけ」と言われても座り続けました。

この勇気ある一つの「ノー」が歴史を変えました。

「断る」ことはマイナスの側面ばかりが注目されがちですが、現実世界では「受け入れる」と同等かそれ以上のプラスをもたらします。


何が重要かを考えれば、断ることは怖くなくなる

断るためには明確な基準が必要です。「自分にとって何が重要か」を明確に知っている人が上手に断れる人です。


ノーと言える人は仕事ができる。

ピーター・ドラッカーの言葉です。「ノー」と言えるということは自分の目標ややるべきことを明確に分かっているということです。

逆に、自分にとって何が重要で、どこに向かって走っているかを知らない人は断ることができません。


大切なのは、大切なことを大切なままにしておくことだ

スティーブン・コービーの言葉です。自分の中で決めた優先順位を守ることが大切です。

この明確な基準が依頼を「断る」「受ける」を判断します。


勇気とは、プレッシャーに負けない品格のことだ。

アメリカの作家 アーネスト・ヘミングウェイの言葉です。「依頼」とは相手からのプレッシャーで、自分の優先順位に沿って「断る」ことは勇気のいることです。

ですが、その「勇気」ことが「品格」です。このため「断る」ことが相手に「品格」を伝え敬意の念を抱かせます。

「断る」=「品格」


断る勇気が「より少なく」を実現させる。

自分にとって本当に重要なことに100%のエネルギーを注ぐためには、大した効果を生まない余計なものを削っていく必要があります。

それを実現させるのが「断る」という行動です。断らない限り「より少なく」を実現させることはできません


今数分間嫌な気持ちになるか、後で長期間嫌な気持ちになるか

この世の全てはトレードオフの関係にあります。何かを引き受けるということは、他の何かができなくなるということです

相手の機嫌や気持ちを優先して「心からやりたい!」と思っていないことに「やります」というのは、今のほんの数分間は良い気持ちになりますが、その後で「引き受けなければよかった」と後悔することになります。

逆に「断る」ことで、今ほんの少しの嫌な気持ちになったとしても、その後の長期間はスッキリとした気持ちになります。

上手に断るためには「今」ではなく「未来」を見据える必要があります。


参考

この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。

世界的ベストセラーになったこの本には他にも人生を成功と幸せに導く格言がたくさん載っています。

興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。



yuta