計画錯誤とは、「計画を立てる時に作業にかかる時間を短く見積もってしまう傾向」のことです。
「錯誤」とは「間違っていることに自分が気づいていない」という意味です。「錯」も「誤」も間違う(あやまる)という意味を持っており、かなり派手に間違っている状態を指していることがわかります。
英語では「Planning fallacy」と言います。planningは計画、fallacyは誤った考えという意味です。
簡単に言うと「人は自信過剰」ということです。特に「私はわかっている」と思い込んでいる専門家ほど大きな間違いを犯しやすい傾向があります。
計画錯誤は1979年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが発表したものです。
大学の37人の学生に対して卒業論文を完成するのにどのくらいかかるか?について、次の2パターンの質問をしました。
その結果、最高な場合の見積もりは平均27日、だったのに対し、最悪の場合は49日でした。
しかし実際、卒業論文の完成にかかった時間は56日間でした。
最初に予想してもらった「最悪の場合」すら超えてしまいました。
なお、楽観的に見積もった「最高の場合」の2倍以上の時間がかかっています。
2003年の追加実験では、計画錯誤は時間以外も甘く見積もることがわかっています。
つまり人の性質は次のようなモノだということです。
結果として最初に立てた計画から大幅にズレが生じるというものです。
計画やプロジェクトの大きさは関係ありません。小さかろうが大きかろうが計画錯誤は発生します。(ただし、大規模かつ長期間であればあるほど誤差は大きくなります)
過去の自分の経験と照らし合わせて思い返してみてください。
きっと予想が的中していて、余裕をもって終わらせることができたことの方が少ないのではないでしょうか。
計画錯誤の結果はそこら中に溢れています。しかも、その国のトップレベルに賢い人たちが集まって計画したことですら、頻繁に発生します。
オーストラリア シドニーのオペラハウスは当初の計画では1963年に完成、費用は7億円でした。
しかし結果は、10年遅れの1973年完成、費用は95億円オーバーの102億円でした。
アメリカのコロラド州にある大型空港 デンバー国際空港は、当初1993年に開港を予定していたものの、システムの不具合などが発生し4回延期して2年半後の開港となりました。
当初1兆7000億円かかると見込まれていたものが、フタを開けると2兆8000億円オーバーの4兆5000億円でした。
2017年に東京で発生した豊洲移転問題も同じく大幅な計画錯誤をおこしています。
すでに設置した設備が半年間以上使われず、移転延期が発表されるなどして、業者に支払う余剰の損失は310億円にのぼると計上されました。
計画錯誤の原因は様々あります。代表的なのは人が持つ次の3つの性質です。
人は楽観的な生き物です。「なんとかなる」という思考を前提として生きているため、計画も「なんとかなる」と考えて見積もります。
実験の結果、楽観的でない人でも計画錯誤を起こすことがわかりました。
その大きな要因は人から「よく見られたい」「仕事や勉強ができる人だと思われたい」という心理が強いためです。
こういった思考の持ち主は、匿名で計画の見積もりを立ててもらったときは計画錯誤を起こさないものの、自分の見積もりが周囲に知られる場合には「早くできる」と言ってしまいます。
過去に似たような経験をしていたり、まったく似たようなプロジェクトがあったとしても「過去の経験を参考にしない」傾向があります。
例えば、過去にある場所に旅行にでかけ交通渋滞にはまって2時間遅れたとします。そのときはとてもイライラしていました。
1年後に同じ場所に旅行に行くことになった時に旅行計画には交通渋滞による2時間の遅延は盛り込まれないことがほとんどです。
あなたは既に人が「計画錯誤」を起こすことを知っています。シドニーのオペラハウスのことも知っています。
ですが、新たにあなたの地区に超大型のデザイン性の溢れる施設を建てようとした場合に、きっとシドニーのオペラハウスが予定よりも10年間遅れたことは考慮に入れないでしょう。
計画錯誤への対策は5つです。
一番初めにするべきことはマインドチェンジ(思い込み・勘違いの除去)です。
人は計画錯誤を起こす生き物である。だから、「最初に立てた見積もりは基本的に甘い」ことを理解することです。
特に専門家と呼ばれる人が発信した情報には注意が必要です。
そして、この世は予測不能で「不測の事態が起こる」ことをデフォルトとして考えることです。
大きな計画を与えたときと、その計画の中身を分解して細かい複数のタスクにして実行したときに、規模が小さいタスクの方が誤差が少なく的確に終わることが分かっています。
壮大な計画を壮大なまま実行するのではなく、部分で区切って細かくして実行した方が、より現実に近い状態で完了させることができます。
人の性質で、何かを行動を起こすときに、その意図が明確だと、タスクへの取り掛かりが早く、中断が少なく、早く終わることが分かっています。
計画を立てるときは、5W1Hをはっきりさせることで計画錯誤を小さくすることができます。
とくに重要なのがそのタスクの責任の所在を明確にすることです。
失敗したときや、期限を過ぎてしまったときは誰が責任を負うのかが決まっていないプロジェクトほど対応が遅れズルズルと計画からずれていきます。
計画錯誤の原因の一つは過去の計画を参考にしないために発生するものです。
このため、これからやろうとしている計画に類似した過去のプロジェクトを参考にするのはとても効果的です。
準備に時間をかけるよりも、さっさと取り掛かってしまった方が早く終わる。「とりあえず行動しよう」と考えている人が多くいます。
ですが、実際は一度立ち止まって考える方が生産性が上がります。
特に、大規模で長期間のプロジェクトほど、最初の準備によりその結果が大きく左右されます。
ついつい直ぐ取り掛かりたくなってしまう。と言う人はアメリカ大統領 リンカーンの言葉を参考にするといいでしょう。
6時間で木を切れと言われたら、最初の1時間は斧を砥ぐのに使うだろう
愚かな人は行動を起こしません。マシな人はすぐに動きます。賢い人は徹底的に準備します。
人は計画錯誤する生き物です。
見積もりが甘いことが悪いのではありません。見積もりが甘くなることが当たり前なのです。
だからこそ、見積もった計画に「余裕(バッファ)を追加する」ことを自動化すれば、焦ったり心配することも減ります。
具体的には、見積もった計画を「1.5倍」することです。
打ち合わせが1時間で終わると思ったら、「1.5時間かかります」と言う。
2日で終わる作業だと思ったら、「確認も含めて3日下さい」と言う。
4か月かかるプロジェクトだと思ったら、「大規模なので6か月かかると予想されます」と言う。
とても簡単な方法ですが、これだけで多くの計画錯誤を解消することができます。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
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興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。