人はときに全く理に適っていない行動をとります。特にお金の関しては決して賢いとはいえない行動が至る所で発生しています。
スーパーの30円引きには強く反応するのに、新車の1万円引きにはほとんど心躍りません。
スーパーでちょっと高いドレッシングを買う時は躊躇するのに、高級フレンチレストランで600円の追加小物料理は安いと思います。
ここには私たちが「モノの価値をどのように判断しているか」という人の性質が強く関わっています。
ここでは、価格に関する私たちの理に適っていない行動の理由を事例を踏まえて解説しています。
例えば卵の特売日で150円の卵が120円だったらどうでしょう?いつも買っているチーズが120円のものが99円になっていたら?190円の牛乳が159円になっていたら?
「今日は特売日だから!急いでいくよ!」という声が聞こえてきそうです。旦那や子供がモタモタしてたら怒りの声が飛んできそうです。
実際に購入した後は「良い買い物をした」と得した気になります。
では車の場合はどうでしょう?
維持費が安くモノをたくさん積むことができる新車が欲しいと考え、200万円するHONDAの軽自動車に目星をつけました。
カーディーラの店員から色々と説明を受けいざ契約に入ろうとしたときに、メールが1通届きました。
30分かけて隣町に行くと同じ車を199万円で買えるという広告です。
さて、あなたは隣町まで行くでしょうか?
その答えはほとんどの場合「ノー」です。わざわざ30分かけていくほどの価値はないと考えます。
ですが実際に節約できる金額を比較するとどうでしょうか?
スーパーで3つの品物を1つづつ買ったときに得する金額は92円(30+21+41)です。100円にもなりません。
一方、車を買う時に30分かければ1万円得することになります。割引額を比較すると100倍の差があります。
本来であれば、30分かけて車を買いに行く選択を、食料品の割引の100倍のモチベーションで選ぶべきです。
なぜこのような全く理にかなっていない選択をしてしまうのかというと、それは人が相対的な価値しかわからないためです。
価値を考えるときに必ず、近しいものと比較してしまうということです。比較なしではその価値がなんなのかわかりません。
どういうことかというと、1と100なら100の方が大きいことがわかります。では、1だけがある場合はどうでしょう。比較対象がないのでそれが大きいのか小さいのかわかりません。
次に、100と1000を比べるとどうでしょう。当然1000の方が大きいです。
では、1と100を比較したときの100の価値と、100と1000を比較したときの1000の価値はどちらが上でしょうか?
このとき数字だけ見れば1000の方が大きいですが、比較対象が違うので考え方が変わります。
100は100倍、1000は10倍だから、100倍の100の方が価値が高いと思も少なくありません。
相対的にしかものの価値を評価できないという私たちの感覚を図示すると次のようになります。
右と左でどちらの黒丸が大きいでしょうか?お察しのとおり、どちらも同じ大きさです。ここがポイントで頭ではわかっていても、左の黒丸の方が大きく、右の黒丸の方が小さく見えてしまうのです。
スーパーの食糧品で150円が120円になると20%オフです。元の数値が小さいので10円単位で大きく割り引かれているように感じます。
一方、200万円の新車が1万円安くなると0.2%オフです。元の数値が大きいので1万円単位で変化しても数%にしかなりません。
私たちは20%オフと聞くと「セールだ!安い!チャンス」と感じます。「0.1%オフ」と聞いても「ふーん」としか思いません。
ですが、この考え方の時点で既に相対比較のワナにハマっています。
賢ければ、150円の卵を120円で買う努力をするよりも、200万円の新車を1万円安く買う努力をするべきです。
新車の0.1%オフは20%オフの卵を333回買うだけの割引の力を持っています。
値段の小さな買い物をするときにあれこれ悩むよりも、値段の大きな買い物をするときにじっくり悩む方がよほど賢い選択になります。
スーパーで何を買うかや割引かどうかでパートナーと口論はやめて、もっと大きな視点で考えると家計全体の収支も心の充実度も上がります。
ヒトの性質である相対的な評価が行われるのは割引だけではありません。追加購入するときも同じです。
高級料理店に行って2万円するコースを頼んだ時に、600円の追加の小物料理があると「安い!」と思います。食べたければ特に躊躇せずに頼むようになります。
5000円の追加料理を頼むより経済的です。
一方、そんな人がスーパーに行くと200円で大容量のドレッシングか、400円で量が少ないけど健康的重視のドレッシングを買うか本気で迷います。多くの場合、半額で量が多い方を選択します。
そして、レジに行ったときに20円オフクーポンを忘れたことに気付くとその日一日後悔に襲われます。
新車購入時も同じです。もとの買い物の金額が数百万円と大きいため、3000円のアクセサリーや6000円のパーツを買い足すのは安く感じます。
人が相対的にしかモノの価値を評価できないという性質は私たちの生活に深く入り込んでいます。
スーパーやホームセンターで高級車を見かけたとします。するとその人は財布などの小物も見るからに高級そうなものを使っています。
なぜそうなるかというと、一つ高級なモノが身の回りにあると、他のモノと更に比較をしてしまうからです。
「これは良いモノ。だけどコレは違う」となるわけです。
もちろんそれだけのお金があるのかもしれません。ですが、意外と背伸びしたりなくてもいいモノをドンドンと買って、永遠に満足できない人は多いです。
車の購入も同じです。少し背伸びしていい車を買った人が、もう暫くすると、それよりもいい車が欲しくなります。
それは自分がイイと思って買った車で街を走ってみると、それよりもイイ車が目に付くようになるからです。自分のは安くて価値が低いように感じてしまう結果です。
「価格」や「質」に注目していいモノを買おうとするとキリがありません。
私たちにモノの価値を絶対的に評価する能力が備わっていない以上、割引や追加購入には注意しなければいけません。
まず第一に「人は直感的に相対的な評価を下す」とうことを理解しておく必要があります。これはみな共通です。
その上で、立ち止まって次の3つをすると賢く生きることができます。
割り引かれる金額を時給換算することは大きなメリットになります。
例えば、30分かけて隣町に行くと卵が20%オフ(30円引き)で買える場合の時給は60円です。
一方、30分かけて隣町に行くと新車が0.1%オフ(1万円引き)で買える場合の時給は2万円です。
あとはそれがあなたの生きている時間に対してそれだけの価値があるか?を考えます。
あなたの1時間はたったの60円しか価値がないのでしょうか?時給2万円の簡単な仕事が来たら飛びつかないでしょうか?
追加購入する場合は「そのお金で何ができるかを考える」ことが大切です。
例えば、200万円の新車を買ったときに、3万円でマフラーのデザインをかっこよくできるとします。200万という大金に比べたら3万円は小さいモノです。
では、その3万円でできることはなんでしょうか?ここでポイントは車という現在比較している枠の中から出ることです。
3万円あればパートナーと1泊1万2千円の旅館に泊まっても8千円残ります。一人2000円のランチも食べれます。それでもまだ4000円残っています。
車のマフラーをちょっとカッコよくするのと、あなたの人生に大切なパートナーとの楽しい思い出を一つ追加するのはどちらが重要でしょうか?
もちろん、旅行以外にも本を買ったり、休みをとることもできます。
あなたの日給が1万円とすれば、3日間休んで何もしないでいても損失はないということです。
私たちの感覚を図示したように、私たちは周りの丸が小さければ、自分は大きいと感じます。一方、周りの丸が大きければ、自分は小さいと感じます。
この習性を上手く利用して、付き合う人や環境を変えることです。
もし周りや知り合いが自分よりも年収が高く、いい車や、良いブランド品ばかり持っている人たちであれば、自分の持ち物がしょぼく見えてしまうのは仕方ありません。
その時は、その環境を出て自分が満足できる環境に移動することです。
私たちには錯覚を起こすプログラムが組まれていますが、同時に自分の環境を自分で選べる選択権も備わっています。この武器を使わない手はありません。
最後に、ジェームズ・ホンという大金持ちの友人を持つ起業家の言葉を送ります。
ポルシェのボクスターに乗る生活を送りたいとは思いません。ボクスターを手に入れたら、次は911が欲しくなるからです。
その911を持っている人たちは何に乗りたがってると思いますか?それはフェラーリです。
ポルシェボクスターは約800万円、911は約1,500万円、フェラーリは約3000万円です。
ではジェームズ・ホンは何に乗っているかって?それはトヨタのプリウス(約300万円)です。
この記事の内容はアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」の内容の一部抜粋と要約です。
人が犯しがちな判断ミスを行動経済学という観点から紐解いたものです。ユーモアを交えた文体でとても読みやすく新たな発見がたくさん詰め込まれています。
この本を読んだことがあるかどうかで今後の人生の行動が変わってしまうほどのパワーを持ちます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。