この世にはありとあらゆるモノや情報があります。仕事、音楽、本、映画、アドベンチャー、ゲーム、住む場所、旅行先、友達、彼氏・彼女候補などなど、挙げればキリがありません。
そして多くの人が「あれもやりたい」「これもやりたい」と考えています。全てを効率よくやりきった人生こそ幸せという考え方です。
ですが、そういった考えを持つ人たちが成功や幸せを手にすることはありません。
どれだけたくさんのことをやったとしても最後に思うのは「あれもこれもできなかった」です。
成功や幸せを手に入れるために本当にやるべきことは、自分が心の底からやりたいことを選び取り、それをやることです。
あれもこれもはできません。この世の全てはトレードオフの関係にあります。
「何かを選ぶことは、何かを捨てることです」
ここでは、トレードオフの重要さを理解するために、実際にトレードオフを実践した人たちが得た者、トレードオフを選択できなかった結果まちうけていたものについて簡単にまとめています。
1970年から2000年までの30年間で最も株価が上がった企業にサウスウエスト航空という格安航空会社があります。
サウスウエスト航空は徹底的にトレードオフを選び抜いた企業の一つです。
当時の大手空港会社は中継点となる空港を拠点として路線拡大を目指し、凝った機内食など空の旅を充実させることが常識でした。より多く、より広く、より良くを目指す方法です。
そのような状況の中で、サウスウエスト航空はあえて2拠点間をつなぐ路線のみにこだわりました。更に、機内食を廃止、座席指定を廃止、手厚いサービスの廃止をしました。
この選択は、多くの行先に行きたい人や機内食を楽しみにしている人が離れていく選択でもあります。実際、評論家や世間から酷評されました。
ですが、サウスウエスト航空は「自分たちは格安航空会社だ。それ以外の何物でもない」「お金のかかるオプションはこの会社の本質から外れている」という明確なビジョンのもと選択を行いました。
結果、2年後にはサウスウエスト航空の経営は起動に乗り、大きな利益を上げ始めました。
サウスウエスト航空の設立者であるハーバート・ケレハーは次のように語っています。
あらゆる選択肢を見たうえで、
「お断りします。うちの目指す目的に貢献しないことをいくらやっても意味がないんです」
と言わなければいけない。
トレードオフを徹底的に意識して、自分たちの本質以外をばっさりと切り落としていった結果、大きな成功につながったわけです。
アメリカの経営学者 マイケル・ポーターも次のように述べています。
「戦略には選択とトレードオフがつきもの」「独自性は意図的に選び取るものだ」
トレードオフの関係が成り立つのは企業だけではありません。個人にも成り立ちます。
子供に習い事をさせたい親はたくさんいます。驚くべきことに小学生や中学生でも週に4~7個もの習い事を掛け持ちしている子もいるぐらいです。
ですが、本当にトレードオフを意識している親は子供が本質的に何を一番の目的としているかをつかみ取り、それ以外を切り捨てることができます。
例えば、色々と習わせたい親に対して、子供の本質的な願いが「東京大学に行きたい」だった場合、親が採るべき決断は他の習い事を全てやめさせて、勉強に専念できる環境をつくることです。
親が「この世の全てはトレードオフの関係にある」「何かを選択することは、何かを手放すことだ」と知らないと、子供も中途半端に何もできない子になってしまいます。
子供連れのとても幸せそうな夫婦が、幸せの秘訣として語った言葉があります。
それは「趣味の活動に参加しないこと」です。
子供との時間を優先するために、夫が趣味のゴルフをやめ、妻は読書クラブをやめました。
その結果、ゴルフや読書など趣味から得られた以上の幸せを受け取ることができるようになりました。
アメリカのリーダー論のベストセラー作家 ジョン・C・マクスウェルは次のように述べています。
「ほとんどのあらゆるものは、徹底的に無価値」
「最高に美しいものは、その他の数万倍美しい」
この夫婦はトレードオフの関係を見抜いて、自分たちにとって一番価値のあるものと交換したことで幸せを手にしています。
サウスウエスト航空の競合であるコンチネンタル航空は、サウスウエスト航空のやり方を真似て2拠点間のみをつなぎ、機内食や手厚いサービスを廃止して格安路線を作りました。
しかし、それのみに注力したわけではなく、これまでの路線を運航しながら新サービスとして新たに1つ足しました。
トレードオフ意識してを選択したわけではなく、あれもこれもやろうという思考の延長線上で行いました。
結果、思ったほどコスト削減ができず、サービスの質もずるずると低下していきました。相次ぐ遅延や欠航で1日当たり1,000件もの苦情が寄せられ、数億ドルの損失を出すまでに至りました。
業績は悪化しCEOは解雇され、会社自体もユナイテッド航空に吸収されなくなってしまいました。
これがトレードオフの原理を無視してあれもこれもやろうとした代償でした。
トレードオフの関係を無視が大きな代償を招くことは、企業だけでなく個人にも当てはまります。次のような人は絶対に成功・幸せを手にできない人の代表です。
こういった人たちにはトレードオフが見えていません。全て同時にできると勘違いしています。
ですが、現実は、メールを書いていればミーティングには遅れます。大きな締め切りが重なれば、一方は遅れるか、品質は大きく低下します。予定が重複していればどちらかを諦めるしかありません。
ある小さな会社に最優先すべきプロジェクトを18個抱えているマネージャーがいました。
当然18個のプロジェクトを同時進行することはできないため、プロジェクトリーダーはチームと優先順位を絞り込みそれを減らす検討をしたものの、結局1つしか減らせず、17個のプロジェクトを同時進行することになりました。
このプロジェクトリーダーとチーム、会社はトレードオフが見えていません。「全部できるはず」という勘違いをしいます。
当然、ほとんどのプロジェクトは失敗に終わりました。
トレードオフの関係を理解している人は次のことを知っています。
自ら「やらない」という決断をしない限り、その他の何かがどんどんと増えていきます。プライベートと仕事の関係も同じです。
アメリカの大手投資銀行 リーマン・ブラザーズの元CFO エリン・カランは次のように述べています。
仕事が全てという生き方をするつもりはなかったんです。でも、結局そうなってしまいました。
ちょっとした妥協が、いつの間にか普通になっていきます。
もともと月曜の仕事に備えて、日曜の30分間だけをメールやスケジュールの整理に充てていました。それが2時間になり、1日中になりました。
徐々に日常が侵食され、何もかもが仕事に飲み込まれて行きました。
「やらない」ことはとても難しい選択です。だからこそ、多くの人は「やらない」という決断を避けたがります。
ですが「やらない」という選択を自分でしない限り、上司や親、パートナーなど周りの誰かにあなたが何をやるべきかの選択肢をすべて持っていかれます。
他人に選択権を持っていかれれば持っていかれるほど、「やらない」と言う難易度は上がっていきます。
トレードオフが発生するのはどちらも捨てがたいような難しい状況です。
このように、どちらも欲しい状況で選択をしなければいけないのがトレードオフです。
私たちはトレードオフに関して2つの大きな勘違いをしています。
そもそも「なんでもかんでも全てできる」という考え方は大きな間違いです。「時間」も「エネルギー」もどちらも限られています。
全部やろうとすれば「時間」と「エネルギー」を失い疲弊し、失敗や不幸につながるだけです。
もう一つの大きな勘違いは「正解は1つしかない」というものです。これは学校教育やテレビドラマや映画による洗脳です。
例えば次のように無数の選択肢としてドアが複数並んでいる場合、どれか一つが正解でそのほかは失敗につながると考えてしまいがちです。
ですが現実は違います。選んだそのドアの先にはそれぞれの固有な人生が待っています。どれを選んだから成功で、どれを選んだから失敗というわけではありません。
大切なのはしっかりと考えて決めることです。成功や幸せかどうかは自分が納得しているかどうかでしかありません。
この世に完璧な答えなど存在しません。あるのはトレードオフだけです。
トレードオフの選択は難しいものが多く目を逸らしたくなることがほとんどです。
ですが、難しい選択であればあるほど、選択後は大きな自由を生み出します。
「高い給料」か「長期休暇」のどちらもを選ぼうとすることは不可能です。どちらも取ろうとする場合、あるいはどちらを取るか悩んでいる状態では「お金」と「時間」のどちらもを手にすることができません。
トレードオフから目を背けても、トレードオフから逃れることはできません。
しかし、「高い給料」を選べば、長期休暇は気にせずに仕事に没頭することができます。もちろん望んだ高い給料が手に入ります。
逆に「長期休暇」を選べば自由な時間が手に入ります。
つまり、選択すれば望んだものをより強力に得ることができます。
トレードオフを意識するとは「明確な優先順位を持つ」ということです。
特に、社長など企業のトップにトレードオフが理解できない人がたくさんいます。
企業理念に「私たちは、情熱、イノベーション、実行力、リーダーシップを大切にします」と言ったことを掲げている企業が多くあります。
ですがそもそも「情熱」「イノベーション」「実行力」「リーダーシップ」を大切にしていない企業はありません。どの企業も大切にしていることです。
何よりも、4つの要素の優先順位が明確でありません。
この状態では、仮に「イノベーション」と「リーダーシップ」のどちらかを選ばなければいけない状況に陥った時に選ぶことができません。
つまり、どれも優先することは、どれも優先しないことと同じです。
明確な優先順位付けがされている例として、アメリカの製薬・医療機器メーカーのジョンソン&ジョンソンがあります。
1982年にジョンソン&ジョンソンの看板商品である解熱剤「タイレノール」を服用した人が相次いで亡くなる事件がおこりました(タイレノール事件)。
この事件の時、ジョンソン&ジョンソンの経営陣は次の3つの難しい選択を迫られました。
ジョンソン&ジョンソンは直ちに1の「ただちにタイレノールを全て回収し、顧客の安全を図る」を選択しました。
その選択をしたのは、ジョンソン&ジョンソンが優先順位付けをした社訓を持っていたからです。
そこには「顧客が第一で、株主は最後だ」と明記されていました。
ジョンソン&ジョンソンはこの基準に沿って「どれだけ多くの損失が出ても構わないから、顧客を第一優先する」という対応方法を決定しました。
結果、タイレノールの回収に1億ドル以上の費用がかかりました。
1億ドル(100億円)か人の命のどちらをとるかはとても難しい選択です。そのトレードオフの選択を可能にしたのは明確な優先順位です。
なお、後にこの事件の真相が明らかになり、ジョンソン&ジョンソンの過失ではなく、何者かがビンに毒物を混入したことが原因であることがわかりました。
トレードオフの関係を理解する最もわかりやすい例に4つのガスコンロがあります。それぞれ次のようになっています。
成功するためにはそのうちの1つの火を消さなければいけません。
そして、もっと成功するためには2つの火を消さなければいけません。
私たちのエネルギー(火)は限られています。だからこそ「何に全力を注ぐか」「どの問題を引き受けるか」を選択する必要があります。
分散した火力では何も生まれません。あまりにも火を分散させてしまうと、何も料理が出来上がらずに人生が終わってしまうこともあります。
限られた人生の中で何かを成し遂げようと思うなら、何に火を注ぐかを決めることは必須です。
トレードオフを理解している人と、理解していない人では考え方に大きな違いがあります。
トレードオフを理解している | 理解していない |
---|---|
何を取り、何を捨てるか | 両方できる |
何に全力を注ぐか | どうすれば全部できるか |
そして、トレードオフを当たり前の現実として受け入れている人は次のように考え行動します。
「何をあきらめなければいけないか」とは考えません。「何に全力を注ぐべきか」を考えます。
アメリカの経済学者のトーマス・ソエルは「完璧な答えなど存在しない。あるのはトレードオフだけだ」と言っています。
だからこそ、選択肢を誰かに決められる前に、自らトレードオフを選び取る必要があります。
経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーは、ビジョナリーカンパニーの著者 ジム・コリンズに
「偉大な企業をつくるか、偉大な思想をつくるか、どちらかだ。両方は選べない」
と言いました。そこでコリンズは思想を選びました。
コリンズの会社は従業員が3人の小さな会社でしかありませんが、その思想は世界中に広がり何千万人の人々に影響を与えました。
このように、トレードオフを意識して選択することは痛みを伴うことですが、同時に絶好のチャンスでもあります。
自分や企業の本質に沿ってトレードオフを選び抜くことが成功につながります。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
世界的ベストセラーになったこの本には他にも人生を成功と幸せに導く格言がたくさん載っています。
興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。