世の中は「あれもやりたい、これもやりたい」「あれも欲しい、これも欲しい」と考えている人で溢れかえっています。
選択肢はできる限り多い方がいい、たくさんの仕事につけるよう潰しが効いた方がいいと考え、たくさんの選択肢を手にするために日々努力し、勉強したり仕事をしています。
ですが類似した選択肢がや山のように溢れる現代で幸せに生きるためには、むしろ意図的に選択肢を消していくことが重要です。
ここではできる限り多くの選択肢を残そうとする人の性質と自ら選択肢を消すことの重要性について解説しています。
どちらか一方の選択を捨てることの重要さを簡潔に教えてくれるものに「ロバと2つの干し草の山」があります。
ある日、お腹を空かせたロバが納屋に干し草を探しに行くと、納屋の両端に全く同じ大きさの干し草の山がひとつづつあるのを見つけました。
ロバは納屋の真ん中で、ふたつの干し草の山の間に立って、どちらかを選ぼうと途方にくれました。何時間経っても決めることができません。
そうしているうちに、そうしても決められないまま、ロバは飢え死にしてしまいました。
ほとんど同じような選択肢や、些細な違いばかりを気にしていると飢え死にしたロバのように、決断できなくなり結局時間と悩むためのエネルギーを浪費して終わることになりかねません。
国は様々な問題を扱っています。少子化、高齢化、過疎化、高速道路の老朽化、環境問題、経済、国防など挙げればキリがありません。
高速道路の老朽化ひとつとっても、47都道府県のどこからやるのか?その都道府県のどの市区町村からやるのかという問題があります。
高齢化や過疎化に関しても1718ある市町村の多くが似たような問題を抱えています。
人によって捉えている緊急度や重要度が異なるため、誰かが「少子化対策が一番大事だ!」というと別の人が「高齢化対策の方が大事だ!」「高速道路の老朽化対策の方が大事だ!」と叫びます。
結果、なにも決められずに終わることも少なくありません。
私たちが大学に進学するときや、就職するときに、大学や企業を選びます。
大学は国内に788、世界で見ると2万以上あります。国内の企業数は421万社ほどです。
どちらも膨大な数です。一つ一つ細かく調べていたらキリがありません。調べることで時間と労力を失ってしまい、肝心の勉強やスキルアップができなくなってしまいます。
仮に大学名で選んでいる人が、北海道大学、東北大学、名古屋大学、九州大学を選ぶと決めた場合、内容で選ぼうとすると、どこも偏差値は52.5~67.5程度で知名度も同じぐらいです。
4校をそれぞれ慎重に吟味するために、実際にそれぞれの場所にいったり、周りの環境を調べたり、シラバスを見たり、研究室を見たり、実際に通っているたくさんの学生にどう思っているか聞いてみても、結局出てくるのは似通った答えです。
つまりほとんど同じことを比較しても時間、労力、お金だけがかかって何週間、あるいは何か月も何も決めれないということが起こります。
ロバや国会議員、大学選びにしても「迷っているときは、選べなかった場合にどうなるかを考えていない」ということがあります。
ロバであれば、どちらかを選ばなければ「お腹が減る」「餓死する」という選択肢を考慮にいれていません。
国会議員であれば「何一つ進まない」「1㎜も良くならない」ということを考慮していません。
大学選びは「迷っている間は勉強ができない」「後れを取り合格確率が下がる」ということを考慮していません。
「Aを選ぶか」「Bを選ぶか」「どちらも選ばず餓死するか」という選択肢が並べば、AかBのどちらかを決めざるを得ません。
そして意図的にAかBどちらかの選択肢を消します。
自ら選択肢を消したことでようやく先に進めるようになります。
できる限り多くの選択肢を残そうとすることは悪いことではありません。私たちヒトは多くの選択肢を残そうとする性質があります。
人がいかに多くの選択肢を残そうとする生き物であるかを調べた実験に、アメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの実験があります。
ダン・アリエリーはMIT(マサチューセッツ工科大学)の学生を被験者として次のような実験を行いました。
なおMITは世界ランク5位の世界最高の大学の一つです。日本の最難関といわれる東大が36位なので、かなり賢い学生が集まっています。
実験の内容は、赤、青、緑の3つの扉を用意したゲームで、各扉には1~10円のように決められた範囲の金額がランダムで出るようになっています。
被験者には100クリックが与えられていて、誰がより多くの金額を稼げるかというゲームです。なお、別の扉へ移動するためには1クリック消費します。
つまり、もっとも設定金額が高い扉を早くに見極めて、その中で全てのクリックを消費することが勝利への道になります。
ゲームは次の3つのパターンに分かれています。
設定条件によらず設定金額が最も高いであろう扉を見極めたら、その扉だけをクリックし続けるのが最も賢い選択です。扉が縮んでなくなろうともです。
3つの扉が残り続ける条件1の人はもちろんそうしました。
ところが、条件2と3の人たちは扉が縮んでいくのを見過ごすことができず、選択肢を残すように行動しました。
それは、条件3のように選択肢を残すために損失を被る場合も同じでした。
人が選択肢を残そうとする例は枚挙に暇がありません。その最たるものが彼氏や彼女です。
これまで長く付き合ってきた人がいる。でも少しマンネリ化して飽きてきた。そんな時に、新しく素敵な異性と出会ったとします。
その時に多くの人はどちらかの関係だけにスパっと切り替えることができません。
これまで付き合ってきた人との関係も残しつつ、新しい人との関係もつくっていこうとします。どちらか一方を切り捨てるよりも、できる限り多くの選択肢を残そうとします。
ただ、その結果まっているのは時間とエネルギーを2倍消費したり、どちらか一方(あるいは両方)にバレて嫌われるという結末です。
日本にはたくさんの資格があります。過去に進んだ学部や、仕事や友達との関係で取得したという資格もあるでしょう。
教員免許や船舶免許は10年に1回や、5年に1回更新が必要になります。更新しないと有効期限が切れて使えなくなってしまいます。
その職についていたり趣味がある人にとっては重要です。ですが、教員になる気がなかったり、船に乗る気が無い人にとっては必要ないモノです。
それでも多くの人が選択肢が閉ざされるのを恐れ「いちよ更新しておく」という選択肢を取ります。
その結果待っているのは、時間とエネルギーとお金の損失。更に、特段やりたくもないことを考慮しなければいけないという人生です。
人が持つエネルギーは有限です。あれもこれもやろうとすればエネルギーが分散して成果を出すことはできません。常に「忙しい」と口にしなければいけなくなります。
ですが悲しいことに人は自然に選択肢を絞ることができません。むしろその逆の行動をしてしまいます。選択肢が少なくなることは損失だと考えてしまいます。
そういった場合に有効なのは限定的な環境に自ら移動することです。
ある夫婦は一緒に暮らしていたケンカばかりしていました。週末はお互い平日にできないことをやろうとしました。
ところがある時、旦那が出張で遠くに行くことになりました。週末だけ家に帰れる状態です。
すると、週末家に帰っている時は「この時間は限定的」「帰らなければいけない時間が決まっている」という意識が芽生え、二人の時間を楽しむことができるようになりました。
このように、選択肢がたくさんある環境から出て、限定的な環境に身をおくことは、より一つのことを充実させる力を持っています。
人生の幸福度や密度を上げたい人にとって、選択肢の少ない環境に移動することは有効な手段の一つです。
私たちの暮らしの中には、ダン・アリエリーの3つの扉の実験のように徐々に小さくなり最後には無くなってしまう選択肢がいくつもあります。
例えば、子供と過ごす時間です。子供と一緒にいられる時間は長くても18年間です。短ければそれより早く独り立ちしてしまいます。
仕事という選択肢を優先し続けた結果、気づくと子供と一緒に過ごせる時間という選択肢の扉がほとんど消えかかっていることは少なくありません。
他にも女性が出産できる年齢は生物学的に上限があります。一定年齢を過ぎると妊娠できる可能性も急激に下がります。
一人でいる時間やキャリア、複数の異性と遊ぶ時間を優先していると、気づいたときには選択肢そのものがなくなっているかもしれません。
表面的で些細な選択肢に捉われず視野を広くすることも大切です。
選択肢が多すぎると決められず迷い、結果として大きな損失を被ります。このため、選択肢を絞ることは人生を充実させることだと言えます。
つまり、次のような言葉や行動はあなたの人生をより充実なものにしてくれます。
もう興味を失っている彼氏や彼女に「別れよう」と告げる。私はどうしたらいいの?と言われても「関係ないから知らない」という。
不要な資格を捨てる。用紙やカードをシュレッダーにかける。
いつかやろうと思っていた参考書や本をブックオフにまとめて売る。
余り気に入っていない洋服を古着屋やメルカリに出品する。
ポイントは「とりあえずあった方がかも」という程度のものは全て手放すことです。そうすれば、あなたの時間とエネルギーをもっと大切なことに注ぐことができます。
現代は私たちの性質が作られた原始時代と違って「それをやらない」とうように選択肢を捨てたとしても、食料や衣服が永遠に手に入らなくなることはありません。
本能は選択肢を捨てることに「恐怖」や「不快」を示しますが、それに流されていると永遠に充実した人生を手に入れることはできません。
この記事の内容はアメリカの著名な行動経済学者 ダン・アリエリーの「予想通りに不合理」の内容の一部抜粋と要約です。
人が犯しがちな判断ミスを行動経済学という観点から紐解いたものです。ユーモアを交えた文体でとても読みやすく新たな発見がたくさん詰め込まれています。
この本を読んだことがあるかどうかで今後の人生の行動が変わってしまうほどのパワーを持ちます。
気になった方は是非手に取って読んでみることをお勧めします。