「授かり効果」とは自分が所有しているモノを、他人の評価よりも高く見積もることです。
自分の持っているものが価値が高いと思い込んでいるため次のようなことがおこります。
「保有効果」とは「授かり効果」と同じです。どちらも英語のendowment effectを日本語に翻訳したものです。
endowmentは寄付と言う意味で、無料で与えられたにも関わらず、自分のものになると無料以上の価値を抱くことを指しています。
授かる(寄付)という名前になってますがタダでもらう以外に、購入したものも含めて所有したもの全般に当てはまります。
何かに「執着」する原因の一つでもあります。
所有したものの価値を高く感じてしまうことは、私たちにとって当たり前で普通のことです。
なぜ授かり効果が大きく騒がれているかというと、その裏にはビジネス的な利益とともに危険性もあるからです。
授かり効果のとりこになっている人は「捨てられない人」です。
手放すときに「そんな安い値段では売れない」「もっと価値がある」と相場以上の価値を求めます。そして手放せない状態が続きます。
本来あなたを幸せにしていないものはすぐにでも切り捨てて、本当に幸せにしてくれているモノだけに力を注ぎ、そういったモノに囲まれることが大切です。
ですが、捨てられない結果「あれもこれも重要」となってしまい、自分にとって本当に有意義で価値のあるモノを見失います。
授かり効果は言い換えれば「ものの本当の価値がわからない状態」です。
社会的な相場はもっと低いのに「価値があるんだ」と思い込んでいます。この思い込みから長年抜け出すことができなければ、思い込みはあなたの脳に染みつきます。
そして思い込みが激しく、柔軟性に欠けた人になります。
授かり効果に気付いていない人は、誰かに一時的に借りて所有感を味わったものに強い価値を感じるようになります。
この人の性質を利用した商品は世の中に溢れかえっています。「30日間無料」「試供品」「2週間お試し」などです。
そして、授かり効果によるトラップに気付いていない人たちは、一度使って「これは価値がある」と感じ、本当はなくてもいいのに返品せずにそのまま使い続けたり、定期的に購入するようになっていきます。
授かり効果は研究もされていますし、私たちでも直感的にわかりやすいことでもあります。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンがマグカップを使った実験をしています。
ランダムに選んだ学生に対する実験で、通常600円で販売しているマグカップを使っています。
学生を2つのグループに分けて、一方にマグカップをあげました。もう一方はなにも持っていないグループです。
マグカップを持っているグループに「いくで売るか?」と聞いたところ、その答えは平均で「712円」でした。最低でも「525円」でした。
一方、マグカップを持っていないグループに「いくらなら買うか?」と聞いたところその平均は「287円」でした。
ただでもらった(寄付)されただけにもかかわらず、そのモノの価値は元の値段よりも高くなり、更に、持っていない人が考える価値との差は2倍以上になりました。
人には「所有するかどうか」だけで、モノの価値が大きく変わる性質があることを証明しています。
デューク大学で行われた実験にバスケットボールのチケットの所有効果による価値の違いを調べた実験があります。
デューク大のバスケットの試合チケットは超人気で、チケットを手に入れるための抽選券を得るために何日も泊まり込みでする人もいます。
何日も泊まり込みをし抽選券を得たものの、抽選の結果外れてしまった男性に「1枚手配できるかもしれないが、いくらなら買うか?」と持ち掛けたところ、「最大で1万7500円。それ以上は1円も出せない」という回答が得られました。
一方、抽選でチケットを得た男性に「いい話があるんだが、いくらならチケットを売ってくれるかい?」と持ち掛けたところ、「最低でも24万円」でした。
他の人にも同様の調査を続けたところ、同じ一つのチケットにも関わらず、その価値は平均で持っていない人は「1万7千円」、持っている人は「24万円」でした。
実に14倍、20万円以上の価値づけの差があることがわかりました。
あなたが昔から気に入って20年もの長い間使ってきた古い車があるとします。
あなたがその売値を考えるときには、その20年間で車と一緒に過ごしてきた思い出を考えて価値づけを行います。
そして、車の形状、ハンドルの持ち手のデザインなど気に入っているところを評価します。
ですが、買う人からすれば、その車が何をしてきたかはどうでもよく、むしろ、マフラーからでる白煙や、エンジンから出るキーっという異音の方が気になります。
結果として、所有している人と所有していない人が考える価値には大きな差が生まれます。
養子縁組も同じです。
ある日、養子を受け入れようと決めた夫婦が孤児院に行くとそこには10組の夫婦がいました。院長はそれぞれの夫婦を別々の部屋に通し子供たちに合わせました。
後で、その夫婦たちは「私たちにピッタリの子だった。院長の見抜く力は凄い」と院長を褒め称えました。
ですがこれも授かり効果によるものです。院長は夫婦と子供のことをしっかりと調査して選んだわけではありません。ただ別々の部屋に通しただけです。
所有した子に価値づけを行ったのはその夫婦自身です。
ある横浜に住むおじいさんとおばあさんが住んでいた家はバブルの時代に1億円以上して建てられた豪邸でした。しかし、おじいさんが病気がちになり施設に入らなければならず、それに合わせて家を売ることになりました。
2人は「これは1億円以上した家だから高く売れる。最低でも5千万円はする」と言い張っていました。不動産会社に頼んで売りに出すときも相場より高めの価格を設定してもらいました。
しかし、2年経っても家は売れず、しぶしぶ、不動産会社の言う800万円まで価格を下げました。そうしたところ2週間後に家が売れました。
購入した人がしたことは、その家を完全に取り壊して自分の家を建てることでした。
買い手が欲しかったのは「あなたの家」ではなく「自分の家」でした。
取り壊すまでいかないまでも、あなたが家の中で気に入って高く評価している部分があったとしても、他人(買い手)はそんなところよりも、床のきしみ音や窓際のカビの方が気になるものです。
授かり効果の面白い例の一つに、実際には所有していないのに「所有した気になる」というものがあります。
人が持つこの性質を利用したものは特にビジネスや恋愛の場で使われています。
また、その価値は所有した気になっている時間が長ければ長くなるほど高くなることがわかっています。
典型例はオークションです。
あなたはある欲しいモノをオークションで買うことに決めました。オークションは最終決定まであと3日間あります。
あなたは現時点の最高価格に5千円上乗せして入札しました。相場よりも高く、あなたとしても頑張った金額です。そして、あなたの金額の状態で2日間経ったとします。
すると、あなたはまだ所有していないにもかかわらず「もう、ほぼ手に入った」と所有した気になります。
最後の3時間を切ったところで、その価格に500円上乗せする新たな入札が入りました。
「もう自分のものだ」と思っているあなたは悔しくなり、更に入札額を上乗せしました。
そして、最後は最初に予定していた金額を大幅にオーバーしてそのモノを手に入れました。
この現象も授かり効果による心理的なバイアスです。ある一つのモノを「所有した」と思い込んだことで、その価値があなたの中で大きく跳ね上がったことが原因です。
CMやパンフレットなどの広告も同じです。
カッコいい車が北海道の地平線が見える海岸線沿いを駆け抜けていく動画を見て、自分がその車に乗って同じ道を運転していることを想像します。
まだ車を持っていないにも関わらず、少し所有した気になります。
高級で丈夫なジャケットのパンフレットをもらってきて、自分がパンフレットのモデルと同じように、そのジャケットをオシャレに着て街を歩いている姿を想像します。
まだジャケットを持っていないにも関わらず、少し所有した気になります。
私たちの周りにはこうした授かり効果を巧みに利用した仕組み(トラップ)がたくさん転がっています。
そして私たちは喜んで自らそのトラップに足を踏み入れていきます。
企業は消費者に一度所有してもらうためにいろいろな方法を考えています。
お得なモノがたくさん詰まったフルパッケージも同じです。
インターネットを契約すると、なぜか光テレビや光電話など他のサービスが初月無料でたくさんついてきます。しかも光テレビはBSなどチャンネルが豊富で見放題です。
企業からしたら有料のサービスを無料で提供することは損失でしかありません。
しかし、企業は人の性質を巧みに使い未来を見ています。
一度そのサービスを所有し使った人は「これは便利だ」と考え所有したモノの価値を上げます。
サービスを解約するには1か月後に自ら解約を申し出なければなりません。
しかし、無料だろうが安価だろうが一度所有してしまった人にとって解約することは、価値を感じているものを手放す損失でしかありません。
結果、サービスを解約する人よりも、そのまま継続して使う人が増えるため企業は収益を増やすことができます。
「30日間返品無料!」といううたい文句も、一度所有すれば、所有者が自動で高い価値を感じる人の性質を利用した商法です。
「いつでも返品できるから」「まずは試してみればいい」と言って試したのち、結局、返品せずにそのまま使い続けることになります。
かわいいペットの2週間お試しも同じです。
ワンちゃんやネコちゃんを2週間家に飼うと、実際には自分のものになっていないにも関わらず所有した気になります。
その2週間の間で様々な思いでが出て愛着も湧きます。そして、そのペットは最初にペットショップで見た檻にぶら下がっている値札以上の価値になります。
突然転がり込んできたお誘いもそうです。
「この仕事をやらないか?」「今なら1万円でこの車を買えるよ」と言われ完全に乗り気になった後に、「ごめん。この前の話は無しで」と言われると、大きな喪失感を感じます。
仕事も車も一度もあなたのモノにはなっていないにも関わらずです。
実際の価値以上に価値を高く評価してしまうことは形のあるモノ以外でも起こります。
わかりやすい例だと、自分が主導するプロジェクト、自分の地元の出身校などです。
見通しが立たずにこれ以上続けてもじり貧になることがわかっているプロジェクトにも関わらず、自分が主導しているという理由で「なんとか存続させたい」と考えてしまうのも、所有感があることが原因です。
地域の子供の数が減って経営が立ち行かず、毎年赤字を生み出しているにも関わらず「なんとか存続させたい」と強く思ってしまうのも、過去の経験のなかで自分が一時的に関わった(所有した)ことが原因といえます。
授かり効果による価値が上がる心理現象は所有したときに感じることはほとんどありません。
価値が上がったことを感じるのは「手放すとき」です。
例えば、クローゼットの中で眠っている2年以上着ていない洋服。何年間も読んでいない本。昔の部活で使っていた道具やウエアなどです。
どれもあなたの実生活にとって「なくても問題なく生活できるもの」で大した価値をなしていません。捨ててもあなたの今の生活は一つも変わりません。
にも関わらず、親やパートナーから「これ使ってないんだから捨てるよ」と言われると「いつか使うかもしれない」と思います。
捨てるのは心が痛いから売ろうと決めて、箱に詰めてリサイクルショップに売りにいこうとしたり、メルカリなどで出品しようとすると「もったいない」「まだ価値があるかも」と思ってしまいます。
いざ売りに出したとしても相場以上の高値をつけてしまいます。
そして、結局ズルズルと手放せず所有している状態が続きます。
いざ手放すときになると実際以上の価値を感じて心理的な痛みを伴ます。そして、「手放さない」「相場より高く売る」といった痛みの少ない方を選択する性質を「損失回避」と呼びます。
人は「授かり効果(保有効果)」の結果「損失回避」する精神状態になります。
授かり効果(保有効果)は私たちの心理に自然に働いてしまうものですが、簡単に抜け出す方法があります。
それは、「ゼロベース思考」です。
既に所有している場合でも「もし持っていなかったら、それを買うか?」と自分に問いかけてみることです。
「絶対に買う!」と言えるのであれば、それは持っておくべきです。あなたにとって価値があります。
「うーん、、、」と迷ったり「当時は欲しかったけど、今はいらないかな」と思うのであれば、それは今のあなたにとって不要ということです。
もの以外のプロジェクトなどの場合も同じです。
「もし、まだこのプロジェクトに参加していないとしたら、実行するためにどんな犠牲を払うか?」
と自分に問いかけてみます。
突然転がり込んできたチャンスの場合も同じです。
「もしこの機会の話がまだきていないとしたら、その機会を得るためにどれだけのコストを払うか?」
と自分に問いかけてみます。
あなたが「あるから使う」や「所有している」と感じる勘違いから抜け出し、「使いたいから使う」「やりたいからやる」と心から言い切れる物事に囲まれた、幸せな人生を送れることを心より願っています。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
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