LIFE SPANという、ハーバード大学医学大学院遺伝学教授のデビッド・A・シンクレアさんが書いた最新の医学に関する研究書の中で、寒さと長寿についての報告がなされている。
ちなみに、デビッド・A・シンクレアさんは、ハーバード大の終身在職権があり、他にも、ハーバード大学ポール・F・グレン老化生物学研究センター所長、シドニー大学名誉教授など活動範囲が幅広い方で、世界の遺伝子学の権威といえる。
遺伝子解析を進めていく中で、これまでの常識であった、人間は病気にならずとも年齢を重ねるとともに老いて死ぬという考え方がそもそも誤りであるという新たな発見が出ている。
ガンや糖尿病と同じく、老化も病気の一種で防ぐことが可能であることが判明している。つまり、ボロボロの体で長生きするのではなく、健康で元気な状態で長生きし寿命を伸ばすことが可能であるということ。
老化を防ぐ、長寿遺伝子を活性化するには、食事の内容を選ぶことや、断食すること、息があがる高負荷の運動をすることなど様々な方法があるが、
寒さに身を晒すことでこの長寿遺伝子が機能することも報告されている。
具体的には、2006年にスクリプス研究所のチームがマウスを用いた実験で、芯部体温を約0.5度下げると、メスでは寿命が20%長くなった。人間で言えば健康寿命が7年追加されたのに相当する。同様にオスも寿命が12%長くなったことが報告されている。
他の動物でも、震える寒さに毎日3時間以上晒されると、ミトコンドリア内の長寿遺伝子の一種が活発化していることがわかっている。
しかも、そういった動物は、糖尿病、肥満、アルツハイマー病になる確率が極めて低いことが示されている。
なので、体を寒さに晒すこと、例えば、氷点下の中をTシャツ一枚で歩くなどすればいい。この著者いわく、ボストンの寒空の中を、寒さに耐えろと自分に言い聞かせ、肌を刺すような寒さの中を歩き、冬のさなかにチャールズ側につま先を浸せばよかった、と言うほどである。
特に、寒い中で運動することで長寿遺伝子生成の効果が上がることが確認されている。
寒い日に暖炉の前でぬくぬくとしていることで老化が進んでいくとは考えも及ばず、そしてなんとも皮肉なことである。
ただし、体を寒さに晒すのは限度がある。断食と同じで限界に近づくが、それを越えないのが最大限の効果を得るためのコツである。
低体温症や凍傷になるまでやっては健康を損なってしまう。だが、鳥肌が立つ、体が震える、歯がカチカチ鳴るというのは危険なサインではない。
こうした、状態をある程度の時間経験することで長寿遺伝子が活発化し、長寿のために必要な脂肪(褐色脂肪という)を増やしてくれる。