世の中には「時間がない!」「どうしてこんなにやっているのに一向に楽にならないんだ!」と叫んでいる人がたくさんいます。
時間や余裕がない原因の一つに「十分なバッファを設けていない」があります。
ここではなぜバッファを設けるべきなのか?というバッファの重要性と具体的なバッファの設定方法について解説しています。
バッファとは「ゆとり」や「余力」のことです。仕事の期限を切る時に余裕をみておくことをバッファを設けると言います。
バッファは英語で「buffer」と書きます。衝撃を吸収する緩衝材や、一時的に増加した負荷を吸収するメモリのことを指します。
なぜバッファを設ける必要があるのかというと、私たちは予測不能な世界に住んでいるからです。
この世に確実なものはありません。もし一つ確実なことがあるとすれば、それは「確実でない」ということだけです。
計画は最初の予定通りにいかないことが当たり前です。
なぜなら計画を立てるときが最も情報量と経験が少ない時だからです。
そうでなくても、PCが不調になったり、事故で渋滞が発生したり、家族の体調が悪くなって病院に連れていく必要が出たり、同僚がミスをしたり、クライアントが仕様変更を依頼してきたり、自分の体調が悪くなるなど、計画に組み込まれていないことは当たり前のように発生します。
イレギュラーな何が起こるかまで予測することは不可能です。それを精度高く予測しようとすることに時間を使うことは無駄な行為です。
だからこそ、ある程度まとまったバッファをとることが重要になります。
バッファを設けない人の思考は、家から会社にいくまでの最短時間が10分だとしたら、10分あれば着くと考える思考です。
その結果何が起こるかと言えば、もしたまたま信号に引っかかってしまったり、一部の道路が通行止めになっていたら確実に遅刻することになります。
バッファを設けない人はいつも希望的観測に従って予定を立てます。
予測できないことが当たり前のこの世界では、そういった人たちは時間に追われ余裕がなくなります。
ときどきは上手くいきますが、時間に追われてストレスを抱えたり、上手くいかず周囲を困らせたり、罪悪感を感じることの方が多くなります。
あなたはこのような残念な思考をしていないでしょうか?
バッファを設けようが設けまいが思いがけないトラブルが発生します。
そしてバッファが無かった人たちの行動の結果は次のようになります。
あなたはこのような残念な結果に見舞われていないでしょうか?
仕事ができる人は「不測の事態はおこるものだ」と考えています。そのため必ずバッファをとります。
バッファをとった人たちの例をいくつか紹介します。
ある講演会の主催者は4時間の講演会のあと、普通なら10分程度の質疑応答時間を設けるところを、1時間の質疑応答時間を設けました。
しかし、参加者たちは1時間も時間をとるのは無駄だと考え主催者の考えを却下しました。
ところが、実際に講演会がはじまってみると、時間はどんどんと押し気味となり、参加者は時間を気にしながら早口で喋ったり、ところどころ飛ばして話さなければいけないようになりました。
質疑応答は「時間がないので2人まででお願いします」となってしまいました。
参加者たちは反省して主催者の「1時間の質疑応答時間を設ける」という提案を受け入れることにしました。
結果、1時間のバッファをとったおかげで、最初マイクの音が出ないなど細かいトラブルがあったものの、参加者たちは時間に追われることなく、話に集中することができました。
質疑応答も十分に時間を設け、予定よりも早めに切り上げることができました。
この主催者は次のように言いました。
何があってもいいように、たっぷりと時間をとるのが好きなんです。
旧約聖書の中にでてくるヨセフはエジプトで7年間続いた飢饉を救った人物として知られています。
エジプトの王であるファラオはある日次のような夢を見ました。
「ナイル川から、肥えた牛が7頭あがってきました。そのあとに弱々しくやせ細って牛7頭あがってきて、最初に上がってきた肥えた牛を全部食べてしまいました。しかも、やせ細った牛は、肥えた牛を食べたにも関わらず何も変わりませんでした。」
この話を聞いたヨセフは「7年の豊作の後に、7年の不作がくる前触れだと告げました。」そして「誰か思慮深い人に、毎年、採れた作物の1/5を預けて蓄えるようにと提案しました。」
ファラオはヨセフにその役を任命し、ヨセフは自分で提案したとおり食料を溜めました。
毎年バッファを溜めていったおかげで、実際に7年間の飢饉がきたときもエジプトや近隣の民は飢え死にすることがなく乗り越えることができました。
このように、約2800年前(紀元前550年)からバッファを取ることの大切さが語り継がれています。
バッファをつくることは人だけでなく企業や国などの組織にもあてはまります。
ノルウェーは油田を発見したあと、得た収入の大半を定期的に積み立て投資として運用しました。
その結果2020年時点で131兆円の資産を持つ、世界最大級のファンドになっています。
イギリスもノルウェーと同じく油田を発見しました。そして、10年間で25兆円もの収益を得ました。
ノルウェーと同じくいざという時のためにバッファとして備えておけばよかったのですが、イギリスはその収益を全て使い切ってしまいました。
バッファを設けることは最短でできる時間よりも完成予定日が遅くなることを示しています。
これだと「仕事が遅い」というレッテルを張られ評価が下がりそうですが、決してそうではありません。
ここではある1人のエンジニアの例を紹介します。
あるエンジニアは「早く終わらせることがいいこと」「仕事が早い人だと思われたい」という思考に捕らわれていました。
そのため、仕事を頼まれる度に「〇日でできます!」と言って即答していました。
そして、結局期限ギリギリになって「すみません。間に合いません。あと1日下さい」と言って、「もっと早くいってください」と怒られることを何度も繰り返していました。
ある時仕事のできる人に「もっとバッファをとってみたら?」と言われました。
そこである日、自分では「1日あればできる」と思った仕事を即答するのをやめて「内容を確認してから目途を連絡します」と言いました。
そして2時間後に「数が多いので、確認も含めて3日あればできると思います」と伝えました。
実際に仕事に取り掛かると思った以上に複雑なところがあり、自分でできると考えた1日を超え、1.5日かかりました。
1日目の終わりに「このペースなら確認含め2日目には終わらせそうです」と伝えたところ「すごい!早いね」と褒められました。
結局仕事は余裕を持って2日目に終わりました。最終的な評価もいいものでした。
これまでなら「1日でできます!」と言って1.5日で終わらせていたところが、「3日でできます。」といって2日で終わらせたわけです。
仕事の内容は同じなので生産性だけでみれが前者の1.5日の方が効率的です。
ですが、評価は前者の方が低く、より時間のかかった後者の方が高くなっています。
もしあなたが他人といい関係を築いたり、自分の評価を上げたいのであればバッファをとることがとても重要です。
バッファを作り出すためにやるべきことは次の3つです。
心理用語に「計画錯誤」と言う言葉があるように、人は実際にかかる時間よりも短く見積もる傾向があります。
理由はいくつかありますが、「人から良く見られたい」という心理が働くことが大きいと考えられています。
つまり、実際より予定を短く見積もり間に合わなくなることは悪いことではなく、普通のことです。
この人の性質を理解して予定を立てる必要があります。
具体的には自分が見積もった期限を1.5倍します。
打ち合わせに1時間かかると思ったら1.5時間設定する。資料作りに4日かかると思ったら、6日必要だと伝えることです。
会社まで10分で行けると思ったら、15分前に出発するようにすることです。
1.5倍は多すぎではないか?と言う声もありますが、実際それだけかかることが多いのが事実です。
相手に1.5倍で伝えて「長すぎた」と感じることよりも「長くとっておいてよかった」と感じることの方が圧倒的に多くなります。
リスク管理とは、発生しうるリスクをあらかじめ検討し排除することと、リスクが発生した場合に被害を最小限に抑えるための手法です。
バッファを作るためにリスク管理の次の5つの質問がとても有効です。
5番目の質問の答えがバッファになります。
あらかじめ1~4の質問でリスクを検討しているため、バッファがより適切なものに近づきます。
具体的な行動例としては、プロジェクトの予算を20%増やす。マイナスイメージの対策として広報部を巻き込むといった対応があります。
リスク管理の5つの質問で導き出した答えを踏まえ「徹底的に準備する」ことが重要です。
徹底的な準備は、余裕と安全と安心を生み出します。
成功している人たちはどんな困難が起こるかを明確に予測していたわけではありません。
「予測不能なことが起こる」という事実を理解し、起こりうるリスクに対して徹底的に準備した人たちです。
「徹底的に準備する」ことがいかに重要かと、「徹底的な準備」とはどの程度かについて、1911年頃の人類初の南極到達点を巡る話しがあります。
当時、ノルウェーのロアール・アムンセンと、イギリスのロバート・スコットが国を挙げてどちらが南極に一番乗りをするかを競っていました。
アムンセンは有名な探検家で、スコットはイギリスの海軍大佐・探検家でした。
アムンセンは1着でたどり着き無事に戻った一方、スコットは2着でたどり着き帰路で力尽き部下含め死亡しています。
どちらも色々な功績を遺した著名な探検家ですが、アプローチ方法が全く異なっていました。
アムンセンは最悪の事態を想定し何が起こってもいいように入念に準備するタイプでした。
あらゆる資料を読みあさり、どん欲に知識を手に入れました。
アムンセンは温度計がいつ壊れてもいいように4つ持参し、自分と十数人の隊員のために3トンの食糧を用意しました。
帰路を確実に発見できるように、目印として1.5キロ間隔で20か所に旗を立てていました。
スコットは楽観的なタイプでなんとかなると考えていました。
旅に出るときも最低限の知識しか持たず、持参した温度計は1個。自分と隊員のために用意した食料は1トンでした。
帰路を発見するために立てた旗は1本だけでした。
その結果、スコットの隊は疲労と飢えと凍傷で苦しみ、全員が死亡するという結果になりました。
アムンセン | スコット | |
---|---|---|
知識 | どん欲に本を読みあさる | 最低限 |
食料 | 3トン | 1トン |
温度計 | 4個 | 1個 |
目印の旗 | 20本 | 1本 |
結果 | 1番乗り。 全員無事に戻る。 | 2着。 全員死亡。 |
徹底的な準備は安全性を高めるだけでなく、生産性も上げます。
アメリカの大統領で「人民の人民による人民のための政治」という発言で有名なエイブラハム・リンカーンの言葉に、準備するで生産性が上がることに気付かせてくれる言葉があります。
6時間で木を切れと言われたら、最初の1時間は斧を砥ぐのに使うだろう。
「直ぐに取り掛かる方が早い」と勘違いしている人がたくさんいますが、実は、立ち止まって考えてから取り掛かった方が早くなることの方が多くあります。
時間に余裕があり成功と幸せを手にする人たちは次のことをしています。
すべてが思い通りにはいかないことを知っている。
未来が予測不可能であるという現実を受け入れている。
不測の事態が起きてもダメージを緩和するために、あらかじめバッファを組み込んでいる。
あなたが自分の人生にバッファを取り入れ、徹底的に準備することで「忙しい」から解放され、多大な成功と幸せを手にすることを心より願っています。
この記事はAppleやGoogle、FacebookやTwitterなどの世界的に有名な企業でコンサルティング経験のあるグレッグ・マキューン(Greg・Mckeown)氏の「エッセンシャル思考」という本の一部要約と抜粋です。
世界的ベストセラーになったこの本には他にも人生を成功と幸せに導く格言がたくさん載っています。
興味を持たれた方は是非実際に手に取ってみることをお勧めします。